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異世界に逃げ込んだ犯罪者をPKするのが仕事です――ヒデンスター・ノヴァで命を狩る者  作者: 鳩夜(HATOYA)
第二部 第一章 開拓編

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EP93 進み続ける。

 しばらく歩いても、変わらず木々の生い茂る森が続いていた。

 枝葉の隙間から差し込む陽光は柔らかく、風も心地よい。まるで初夏を思わせる気候だ。

 ここに四季はあるのだろうか? 気温や湿度のバランスが整いすぎていて、現実世界のような季節感を感じない。


 そんなことを考えていると、不意に視界が開けた。

 大きな池が広がっており、澄んだ水面が太陽を反射してきらめいている。


 岸辺には鳥や、小型の獣型魔物が群がり、警戒しつつも順番に水を飲んでいた。


「……おっと、意外と賑わってるな」


 俺は苔の生えた倒木に腰を下ろし、ひと息つく。

 はむまるはすぐさま池の縁まで駆け寄り、ぷくぷくと頬を膨らませながら夢中で水を飲んでいた。

 その姿に、俺も思わず肩の力を抜く。


 拠点の近くに池があると分かったのは収穫だ。

 水の生成も時間がかかる。人数が増え始めたらここに頼ることにもなるだろう。

 しばらく休憩していたい気もしたが……まだ移動距離は大したことがない。


「さて……もう少し進むとするか」


 荷物をまとめて立ち上がり、再び森を抜けるように歩き出す。

 木々が徐々にまばらになり、やがて視界が開けた。

 そこは緩やかな丘陵地帯で、一面に草原が広がっている。風に揺れる丈の高い草が、波のようにさざめいていた。

 湿気の多い森から出てきただけに、ここは乾いた風が心地よく、思わず深呼吸してしまう。


「はむ、はむっ!」


 はむまるが耳をぴんと立て、草原の奥を指し示した。

 視線の先、茂みを揺らして現れたのは鹿に似た魔物だった。だがその背には骨のような突起が伸び、目は赤く光っている。


「ローカル世界にいた《ボーンディア》に似ているな。群れで行動するのが厄介なんだよな……」


 警戒する間もなく、二頭、三頭と茂みから飛び出し、こちらに突進してきた。


「よし、やるか」


 腰の石剣を抜き、地を蹴る。迫りくる一頭の角を剣で受け流し、その勢いを逆手に取り横へ薙ぐ。

 石剣は鈍重ながらも、十分な切れ味を持っていた。

 甲高い鳴き声を上げて魔物は崩れ落ちる。


 次の一頭ははむまるが迎撃していた。

 想像以上の勢いで跳躍し、牙をむき出しにして首筋へ噛みつく。

 魔物はバランスを崩して転倒、その隙に俺が止めを刺す。


 最後の一頭は距離をとって威嚇していたが、俺がキューブを取り出して天力を込めると、光に怯えたように逃げていった。


「ふぅ……まあ、この程度なら問題ないな。てか、はむまる! 強いな!」


 はむまるは心なしかどや顔になっている気がする。

 軽く息を吐き、草原を見渡す。

 見晴らしはよく、遠くに山脈の稜線がうっすらと見える。森の閉塞感に比べれば、ここはまるで別世界だ。


「先が楽しみだな……行くぞ、はむまる」


「はむっ!」


 俺たちは草原を踏みしめながら、さらに奥へと足を進めた。


・・・


 森を抜けると、緩やかな山岳地帯に入った。

 ここまでの道中、思ったより魔物と遭遇しなかったことに、少し拍子抜けしていた。


「もっと頻繁に戦闘になると思ってたんだがな……」


 ローカル世界のように、歩けば必ず魔物にぶつかる——そんな光景を予想していた。

 だが、現実に山を登っていると、地球で野生動物にそう頻繁に出会わないのと同じで、むしろ自然なことなのかもしれない。


 もっとも、理由はそれだけじゃない気もする。

 ちらりとはむまるを見る。


「……お前のせいで、魔物がビビッて出てこない可能性もあるな」


 見た目こそ愛嬌あるハムスターだが、一度巨大化したはむまるの力は、この辺の魔物よりはるかに上だ。

 魔物たちが遠巻きに避けていると考えれば、むしろ納得できる。


 そんなことを考えているうちに、山頂近くへと辿り着いた。思っていたより規模は小さく、息を切らすほどの険しさもなかった。


 そして——そこから見渡した景色に、俺は思わず息を呑む。

 見渡す限りの森林と草原。遠くには砂浜も見える。


 だが、その中に明らかに異質なものがあった。


「……あれは、家……?」


 山間に点々と、木造の小屋が建っていた。

 一瞬、自分の拠点が見えているのかと思ったが、違う。あれは明らかに別の村落だ。


「おいおい……キューイ。ここは完全な無人島じゃなかったのか?」


 小屋は自然に崩れた廃墟ではなく、今も人が暮らしているように整えられている。確認せずにはいられない。


 俺ははむまるの背に乗り、音を立てぬよう慎重に村の近くへと忍び寄った。

 やがて森の木陰からのぞいた光景に、目を見開く。


「……まじかよ」


 そこには普通に生活している人々の姿があった。

 粗末な布の服に身を包み、薪を運んだり畑を耕したりしている。ぱっと見は俺と変わらないシンプルな暮らしだ。


 だが、その中に明らかな異物が混ざっていた。

 鉄製の街灯。宙に浮かぶ電子パネル。

 原始的な村落の風景と、未来的な装置が共存している。違和感だらけの光景。


 そして何よりも驚いたのは——彼らが俺と同じ「人族」だということだった。


「……一体どこから湧いて出たんだ、こいつら」


 この無人島に来るには、ローカル世界の最果てを越えねばならない。

 だが、俺より先にここに到達した者などいるはずがない。


 考えても答えは出そうになかった。

 ならば、いっそ接触して確かめるしかない。


「よし……冒険の末にここにたどり着いた者、ってことでいくか」


 俺ははむまるを大きい姿のままにし、その背にまたがる。

 そして、村人との接触を試みるべく、村へと足を進めた。

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