EP92 西へ出発
キューブの中に収めたのは、エネルギーバーと水分、はむまるの餌、キャンプキット一式。そして新たに作ったストーンソード数本と、収集用のキューブ。
基本的には拠点に戻る前提だが、もし適した場所を見つければ、そこにも新たな拠点を築くつもりだ。
創造の目と最低限の素材さえあれば、作業台はいくらでも作成できる。
まずは作業台を揃え、最終的にエネルギー変換装置まで整えられれば十分だ。
あとは収集キューブで採集してエネルギーを蓄える。――それが当面の目標だ。
「……よし。とりあえず一週間ほど西を目指してみるか」
島全体の広さは不明だが、もし人類がすっぽり収まるほどのスケールなら、早めに把握しておきたい。
「きゅ!」
準備を進めていると、はむまるが元気よく起き上がってきた。
「お、はむまる。もう大丈夫か? もう一度、大きくなれるか?」
そう声をかけると、はむまるは「きゅ!」と鳴き、勢いよく飛び上がる。
体が光に包まれ、あっという間にあの大きな姿へと変化していった。
「おお……すごいぞ、はむまる! じゃあ西へ向かうぞ。乗せてくれるか?」
「きゅきゅ!」
快諾するように鳴くはむまる。その背に、用意しておいた簡素な鞍を装着する。
俺はひと息ついてから、はむまるの背に乗り込んだ。
「急がなくていいぞ、はむまる。百年も猶予があるんだ。気長に行こう」
「きゅー!」
そうして俺たちは再び森の奥、西の方角へと歩みを進める。
まずは先ほど引き返した、あの魔物の出没地帯を目指して――。
・・・
・・
・
……いた。
目の前には三体のトレントブロークがゆっくりと歩いていた。
大木の皮を抉り取って生まれたかのような巨体。朽ち果てた木片の塊のような姿。
「はむまる、小さくなって隠れておけ」
「きゅ!」
はむまるは即座に元のサイズへと戻り、木陰に隠れた。
「さて……試し斬りといくか」
ストーンソードを手に取り、天力を纏わせる。
後方から飛び出し、一体に狙いを定めて――。
ザンッ!
石の剣は抵抗なく魔物を両断した。
だが、その亡骸はローカル世界のようにキューブ化することはなく、その場で崩れ落ちていく。
「……キューブにならないのか。じゃあ、持ち運びは――」
残り二体も同様に切り伏せ、死体が三つ転がる。
試しに収集キューブを起動すると、魔物を即座にスキャンし吸収してくれた。
「……便利だな。けど、収集キューブには容量制限があるはずだ。いずれ詰まるぞ」
そう呟きながら収集キューブから素材を一旦取り出してみると、驚くべき光景が広がった。
「……キューブになってる……!」
取り出した魔物は、コンパクトなキューブ状に変換されていた。
そのキューブを手に取り、自分のキューブへ収納を試みると――すんなりと入れることができた。
「できる……! ローカル世界より一手間はかかるが……死体のまま解体するよりは遥かに楽だな」
同じ要領で残り二体も処理し、自身のキューブに収納する。
表示されたアイテム名は――【トレントブロークの欠片】。
「……現状、使い道はわからないが……ま、いずれ役立つだろう」
キューブを腰に収め、俺は森の奥を見据える。
「よし。このまま進むぞ」
西へ――未知の島の探索は、まだ始まったばかりだった。




