EP91 キューブを浮かせる。
そういえば、キューブを浮かせるってどういうイメージなんだろうか。
俺は一つキューブを取り出し、まじまじと眺めた。
とりあえず……天力を込めてみるか。
キューブをギュッと握りしめると、内部から強烈な光が溢れ出す。
直視できないほどの眩しさで、闇に沈んだ拠点を一瞬で昼間のように照らし出した。
「おお……これがあれば松明はいらないな」
冗談交じりに呟きながらも、しばらく様子を見守る。
しかし、浮遊の気配はまるでない。
試しにそのまま掌からこぼしてみると――カラン、と地面に落下してしまった。
「……なるほど。力を入れるだけじゃ駄目か」
眩く光るキューブを観察していると、妙な違和感に気づいた。
天力を込めても、光として絶えず漏れ出している……。まるで、穴の空いたバケツのように。
これでは浮かぶどころか、ただ消耗していくだけだ。
「雑に注ぐんじゃなく……覆うように……」
意識を切り替え、天力でキューブを包み込むようにしてみる。
すると、今度は先ほどのような強烈な発光はなくなり、淡い残光がふわりと表面を漂う程度に収まった。
――これは……。
表現が難しいが、今はっきりと「つながっている」感覚があった。
再び掌を傾け、キューブをこぼしてみる。
すると……。
――ポトリ。
通常ならカランと落ちるはずのそれが、水の中に落ちたようにゆっくりと沈んでいったのだ。
「……おお。これは、正解に近い気がする!」
小さくガッツポーズを決めたところで、制作装置の完成音が鳴った。
完成リストにストーンソードと明記されており、タップするとストーンソードが目の前に出現した。
「よし、まずはこれで……」
武器を手に取り、その重みを確かめながら小さく息を吐いた。
ストーンソード。
石の刀身に木の柄をつけただけの、まさに原始的な剣。
キューブに収納すると、その名と簡素な説明文が登録された。
「……スキル表記がない?」
思わず眉をひそめる。
ローカル世界の装備には必ず【S0】や【S1】といった識別番号が頭につき、どんなスキルを持つか一目で分かった。
だが、ここではただの名称と説明だけ。スキルの文字はどこにもない。
「……そもそも、スキルが存在しない世界なのか?」
一抹の不安を抱えつつも、ストーンソードを取り出してみる。
特別な装飾もない、石と木で出来た簡素な剣だ。
試しに近くの大木へと一振り――。
ザンッ!
刃はそれなりに食い込んだが、その代償に石の刀身はすでに摩耗していた。
その瞬間、視界に文字が浮かび上がる。
――【思考を巡らせ、石の剣を使えるものにせよ】
「……なるほど」
すぐにピンと来た。
意識を集中し、自らの天力を剣に纏わせる。
再び大木へ振り下ろすと――。
バンッ!!
銃声のような轟音が響き、目の前の巨木が真っ二つに両断されていた。
続いて【任務完了】の文字が浮かび、静かに消えていく。
「……ふぅ。やっぱりな」
感覚そのものはまだ掴み切れていない。
だが、技や力の“応用”という概念は理解できる。
――根底にあるのは地球で培った知識。
漫画やゲーム、そうしたエンタメの中で当たり前に描かれていた「力を纏わせる」という発想。
非現実の産物にすぎないが、俺にとっては見慣れた“前例”だ。
以前、キューイが俺の発想力に驚いていたことがある。
あれもこうした知識の積み重ねがあるからだろう。
本来なら「ストーンソードを天力で纏う」という結論に至るまでに、もっと膨大な時間を要したはずだ。
その思考時間を大幅に短縮できるのは、他の種族と比べ大きなアドバンテージに違いない。
「……よし、これである程度の魔物には対処できるな」
いくつかストーンソードを作り、キューブに収納しておく。
準備を整えた俺は、次なる冒険へ向けて静かに息を整えた。




