EP89 進捗状況
入島してから一週間が経った。
俺は拠点の椅子に腰を下ろし、水を一口飲みながら周囲を見渡す。
テーブルの上には七つのキューブが積み上げられ、生活に必要な設備はひと通り揃っていた。
服も最低限のものを簡素ながら作り上げ、食材調理用の設備、武具や服飾を製作する装置、水源発生器など……。
細かく挙げればキリがないが、そのほとんどは原理がまるでわからない。
もっとも、ヒデンスター・ノヴァの装置なんて最初から理解不能なものばかりだ。
――便利すぎる。
もし現代の科学者がここを見たら、腰を抜かすに違いない。
材料を用意し、エネルギー変換さえすれば、ほぼ何でも造り出せるのだから。
とりあえず、生活の基盤は整った。
そして、いよいよ天力修行の第一段階へ――。
胸に手を当て、キューブを引き出す。
いつもの流れで出てきたキューブは七個。
テーブルに積まれているのも俺自身のものだ。
二個目以降を出すごとに、じわりと疲労感が増す。
数を重ねれば重ねるほどそれは濃くなり、八個目を出そうとしたときには激しい動悸が胸を打ち、結局取り出すことはできなかった。
つまり――今の限界は七個。
……だが、合格の基準は一体いくつなんだろう。
「キューイに細かく聞いとくべきだったな……」
少し後悔が滲む。
だが俺のスペルの特性を考えると、三つか四つあれば十分な気もする。
俺のスペルは今まで通り二つ。
ディスラプションカット (Disruption Cut)
空間を切り裂くようにキューブを操作し、敵の攻撃やスキルの「中間工程」を完全に消し去る。
発動すれば、敵の技は「始まり」と「終わり」だけが残り、不発へと収束する。
タイミング次第で大技すら無力化できるが、精密な調整を要するため難度は高い。
ゼロフラクチャー (Zero Fracture)
キューブを地に叩きつけ、広範囲に目に見えぬ亀裂を走らせる。
範囲内の存在を「始まり」と「終わり」に分断し、行動を鈍化させる。
その間に受けたダメージは蓄積され、最後に一気に解放されることで莫大な一撃となる。
ただし同じ対象には効果が半減していく。
ゼロフラクチャーは同時に複数展開する意味がない。
やるとすればディスラプションカットだが……こちらもタイミングが全てで、並列発動など到底現実的ではない。
――まあ、それでも将来的に役立つ可能性はある。
まずは十個出すことを目標にし、その先で第二段階の修行へ移るとしよう。
そんなことを考えているうちに、一番最初に出したキューブが粒子となり崩れ、残りも連鎖するように消えていった。
以前なら、キューブは手元から離れた瞬間に消滅していた。
だが今は、天力の影響かしばらく留まってから消えるようになった。
もちろんスペルを発動すれば、今まで通り即座に消えるが……。
改めてキューブを出してみる。
だが今度は五個までしか展開できなかった。
消失の瞬間、身体が少し楽になる感覚がある。
――使用した天力がわずかに還元されているのだろう。
俺の天力がどの程度なのかはわからない。
だが一つ増やすごとに、消費が倍加している感覚がある。
七個同時展開は戦闘では避けるべきだろう。
実戦では二〜三個を維持しながら回す方が現実的だ。
修行が順調かどうかは定かじゃない。
だが少しずつ、一歩ずつ進んでいるのは確かだ。
――今、一番の問題は食料事情だ。
現状、設備開発を優先して遠出ができていない。
周囲で見つけた木の実や、大木の葉を加工して作ったエネルギーバーが主食となっている。
エネルギー変換を使えば、元のままかエネルギーバーしか再現できない。
便利ではあるが……そろそろ肉や他の食材が欲しい。
「……よし」
立ち上がり、はむまるの背に跨がる。
「西へ行くか」
そう呟き、俺は拠点を後にした。




