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異世界に逃げ込んだ犯罪者をPKするのが仕事です――ヒデンスター・ノヴァで命を狩る者  作者: 鳩夜(HATOYA)
第二部 序章 レベル10の先へ行くまでに

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EP84 それぞれの様子

 続けて俺はサナの仕事場に顔を出した。


「サナ、元気か?」


 ドアをノックし、仕事場に顔を出すと、机に向かっていたサナがこちらを振り返った。


「ハトヤ! なんだか久しぶりね」


「そうだな。本当に……いろいろあったな」


「そうね。でも、落ち込んでいられないわ。やることが山積みなの」


 サナの声には疲れが混じっていたが、その瞳はしっかりと前を向いていた。

 俺は思わず小さく笑う。


「大変そうだな」


「ハトヤは……もうすぐレベル10の先へ行くんでしょ?」


「ああ。一週間後には行かないとダメなんだ」


「でも、行き来は割と自由なんでしょ?」


「そう思ってたんだが……入場のたびに神器化結晶石が必要でさ。今のところは、何とも言えない状況だ」


 サナは眉をひそめ、少しだけ沈黙した後、柔らかく笑った。


「……それでも、たまには顔を出しなさいよ」


「ああ、もちろんだ。資源を持ち帰れるようになったら、こっちにも持ってくるよ」


「ふふ、それなら楽しみにしてるわ」


 短い会話だったが、サナの元気な姿を見れてよかった。


・・・


 次に、訓練所に足を運ぶと、リンカが新人たちに体術を教えていた。

 その動きはキレがあり、教える声もはっきりと通る。

 すっかり指導役が板についているな、と思った。


「あ、ハトヤさん!」


 俺の姿に気づいたリンカが、生徒たちに声をかけてから駆け寄ってくる。


「調子はどうだ?」


「そうですね……いろいろありましたから。でも、サナさんもラフリットさんも前を向いて頑張っています。だから、私も頑張らないとって」


「……DtEOのみんなは強いな。心強いよ」


「そういえば、身体の統合が終わって、一部の人の動きがかなり良くなったんです。ラグがなくなったからですかね? 私は変わらずですが!」


「ああ、それは間違いないな。俺もかなり動きやすくなった」


 リンカは苦笑いを浮かべながら肩をすくめる。


「統合前のハトヤさんにも勝てないのに……そうなったハトヤさんに勝てる気がしません……」


「リンカも十分に強いさ。俺が強すぎるだけだよ」


「いや、それフォローになってないですよ!」


そう軽口を交わした後、俺は訓練所をあとにした。


・・・

・・


 ギルドハウスに戻ると、いつものようにデラックスナッツ炒めを作り、コーヒーを淹れる。

 皿にはむまる用のデラックスナッツもたっぷりと盛り付けた。

 最近、はむまるの食欲がすごい。

 以前はナッツをひと粒食べれば満足していたのに、今は二十粒は平らげる。

 さすがに体調が心配になったが、元気そのものなので、まあ大丈夫だろう。


 そんなことを考えながら、自分の分の炒めた鶏肉をひと口。

 ――ん? あれ……?


「なんだこれ、めちゃくちゃ旨い……!」


 コーヒーを口に運んでも同じ感覚があった。

 地球で飲んでいたインスタントとは比べものにならないコクと深み。


 味も調理方法も変えていないしコーヒーも何も変えていない。

 変わったのは、俺の身体だけ――。


「……味覚、完全に戻ったのか」


 その瞬間、キューイの言葉が脳裏に蘇る。


 身体の感覚は全部ほぼ元に戻る。

 味覚も嗅覚も、痛覚も、全部じゃ。

 グローバル世界では己の天力の強さがすべて。

 傷を負っても天力を消費しながら再生するが……

 天力が切れたら終わりじゃ。

 それに……痛みに耐えられん奴は戦えぬ。


 痛覚も、完全に戻る――。

 俺は深く息をつき、手元のカップを見つめた。


 グローバル世界ではシールドはない。

 守ってくれるのは自分の天力だけ。

 攻撃を受ければ痛みが伴い、天力が切れれば再生も止まる。

 それでも戦い続けられるかは、自分次第だ。


 不安はあるが……

 地球での心残りだったコーヒーの味が、こうして完全に味わえるのは素直に嬉しい。


「さて……グローバル世界に向けて、準備をしないとな」


 俺は深くコーヒーを啜り、次のステップに向けて頭を切り替えた。


・・・

・・


 同刻――エリア???


 その場所にはレスターやヴィランツをはじめ、三十人ほどの男女が居る。

 どの顔にも期待と緊張が入り混じった色が浮かんでいる。


「お前ら、やっと統合が完了したな」


 レスターは満足げに腕を組み、ゆっくりと周囲を見回した。


「これで――おいらの世界へ招待できる」


「レスター様」


 ヴィランツが一歩前に出て、恭しく頭を下げる。


「想定より人数が少ないですが……よろしいのですか?」


「ああ、問題ない」


 レスターは鼻で笑った。


「異色キューブの所持者なんざ、元から希少なんだ。おいらとともに戦争に出ることを条件に――“無限の寿命”を与える。その契約の上で、これだけ集まったんだ。大したもんだろ?」


「ハッ……断った奴の気が知れないですよ」


 ヴィランツは口角を吊り上げ、含み笑いを漏らした。


「無限の寿命……人間なら誰もが夢見る至高の報酬。それを捨てるなんて」


 その言葉に、レスターも愉快そうに笑い声を上げる。


(まぁ、条件さえクリアすりゃ、誰でも寿命が無限になるんだがな……

――馬鹿が三十人。上出来だ)


 レスターは心の中でそう呟くと、片手を軽く掲げた。


「さあ――早速行こうじゃないか。おいらについてくるんだ」


「はっ!」


 三十人の声が重なり、空気が震える。

 レスターが歩みを進めると、全員がその背中に続いた。


 向かう先で、最初にやるべきことは――たった一つ。


 島を開拓される前に、先導者を殺すことだ。


 レスターの瞳には、暗い光が宿っていた。


・・・

・・


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