EP83 報告と期待
――DtEO本部。
「……というわけだ、ラフリット」
俺が状況を説明し終えると、ラフリットは少し目を伏せ、考え込んだ。そして、ゆっくり顔を上げる。
「……ハトヤさん、私も早く天族になりたいです」
「え……ラフリットが?」
思わず声が裏返った。ラフリットがそんなことを言うなんて想像もしてなかった。
「寿命が……無限になるのなら。私が思い描いていた計画も遂行できるかもしれません」
「計画?」
「ええ――宇宙に行って、地球を探す計画です」
「なっ……!」
息が詰まった。地球を探す、だと?
「地球へ行くことは現状不可能でしょう。でも……崩壊した姿を“見た”わけではありません。直接見るまでは、信じることができないんです」
ラフリットの瞳には、諦めではなく、燃えるような決意があった。
「このヒデンスターノヴァの科学は地球とは根本から違います。そもそも宇宙に行くこと自体、不可能かもしれません。でも――挑戦してみたいんです」
「壮大な……計画だな……」
「不可能かどうかなんて、挑戦してから決めればいいんです。オーバーテクノロジーを私たちは“体験”してしまった。なら、実現も夢じゃないはずです」
その真っ直ぐな瞳に、俺も心を揺さぶられた。確かに、地球が崩壊した証拠はどこにもない。
ただ、こちらに戻る術がなくなっただけだ。もしかしたら、普通に存在しているのかもしれない。
「ラフリット……期待してるよ」
「ええ、期待しててください。――実は、すでにこのヒデンスターノヴァで科学研究を進めている人がいます。私の叔父、ドクタージョレインです」
「ドクタージョレイン! 聞いたことがある名前だ……ラフリットの叔父なのか……!」
「はい。ただ……ヒデンスターノヴァでの科学は再現性が皆無なんです」
「再現性?」
「同じ条件で同じことをすれば、同じ結果が出る。それが科学の基本です。ですが、この世界では不規則に“元素が励起状態”になるんです。そのせいで、結果が毎回変わるんですよ」
「れ、励起状態……?」
「簡単に言えば、元素が通常よりエネルギーを持った状態ですね。……難しい話、でしたね」
「な……なんとなくは分かるよ」
「よければ、叔父の検証結果を送ります。時間があるときに見てみてください」
「ああ、理解できるかはわからないけど……興味はある。また見てみるよ」
「ぜひお願いします。――なんにせよ、まずはこの混沌とした状況を落ち着かせなければなりませんね」
「そうだな。俺は1日でも早く、神器化結晶石をラフリットのもとに届けるよ」
「ええ。期待していますよ、ハトヤさん」
そうして少し雑談を交わしたあと、俺はDtEO本部を後にした。
心の奥底で、さっきまで感じていた重苦しさが少しだけ薄れた気がした。
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ドクタージョレイン最新報告書(要約)
再現性の欠如
ヒデンスターノヴァの実験では、同条件下で同じ結果を得られない。
原因は「未知の素粒子」の存在と推測。
未知の素粒子の正体
調査の結果、その正体は 「天力」 であると判明。
天力はほぼ全ての元素に柔軟に作用する。
天力励起状態の具体例
水の沸点異常
通常100℃で沸騰するはずの水が90℃で沸騰するケースが確認された。
逆に、120℃を超えても沸騰しないケースもある。
天力が「励起状態」を生み出すことで、物質の性質がその都度変化する。
今後の研究課題
ヒデンスターノヴァにおける科学は「天力研究」が基盤になる。
ただし、施設・技術ともに未発達なため、研究には長期間を要する見込み。
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