EP80 5分前の出来事
カウントダウンタイマー──残り五分。
俺とネフィラはギルドハウスの近くで、何もない空をただ眺めていた。
キューイもその様子を黙って見守っている。
あと数分で、地球は消える。
どれだけの人間がこちらに来られたのかはわからない。
だが、ラフリットの報告によればヒデンスターノヴァの人口は爆発的に増えているらしい。
それでも、全体から見れば半分にも届かないだろうとのことだった。
──八十億、いや九十億近かった地球の人口。
そのうち、こちらに来られたのは二十億、多くて三十億程度……。
マルチポータルタウンに全員が収まるのか。
秩序は保たれるのか。
不安は次々と頭をよぎるが、今の俺たちにはどうしようもなかった。
後のことはDtEOに任せるしかない。
「……あと一分」
ネフィラが小さく呟く。
地球の終わりが、もうそこまで迫っていた。
退場ボタンが消失したのは、もう二十四時間以上前のこと。
この後どうなるのか、確かめる手段はない
ただ、目の前の数字が静かにゼロへと近づいていくのを見守るしかなかった。
そして──カウントは、音もなく「0」を刻んだ。
ドクン……
「な、なんだ……!?」
胸の奥が熱い。
全身を駆け巡る脈動。熱に合わせるように視界が白く染まっていく。
「……っ!」
目を開けていられないほどの強い光。
俺もネフィラも思わず目を閉じ、身体を抱きしめる。
「……統合が、始まったのう」
その様子を見ていたキューイが、小さく呟いた。
どれくらい経ったのだろうか──
やがて、眩い光は静かに収まり、俺たちは元の場所へと戻ってきた。
「……なんだ、これ……身体が、軽い……?」
立ち上がり、手足を動かす。
あの微かな違和感が消えている。呼吸も、視界も、澄んでいた。
「無事、統合が済んだの」
キューイが静かに頷く。
これで──
いつでもレベル10の先へ進める。
本来なら、胸が高鳴って仕方ないはずだった。
だが、そんな気持ちにはなれない。
もう地球には戻れない。
いや──その地球自体が、もうどこにも存在しない。
何よりも……バレイが居ない。
その現実が、心に重くのしかかっていた。
「気持ちは、わかる。わしも……同じように星を失った。しばらくは、立ち直れんかったもんじゃ……」
キューイの言葉が、胸に深く染み込んだ。




