EP76 地球壊滅まで――あと3日
――地球壊滅まで、あと3日。
その日、俺は久しぶりに地球のDtEO本部を訪れた。
本部の最上階、20階へとエレベーターで上がると、そこには広々としたカフェテラスが広がっていた。
本来なら賑わっていたはずの場所。
だが今は、椅子もテーブルも静まり返り、誰の姿もない。
……ただ一人を除いて。
「バレイ……」
俺が声をかけると、男はゆっくりと振り返り、いつものように微笑んだ。
「状況はリンカから聞いた。……俺は今日まで、何も知らずにいた」
「そうか……いかん、リンカに口止めするのを忘れておったわ!」
バレイは朗らかに笑った。その無邪気さに、俺は少し言葉を失う。
――なんでだよ。
そう聞こうとして、すぐに理解した。
バレイは……俺には、前だけを向いて進んでほしかったんだ。
だから、何も言わなかった。
「……てか聞いてくれよ。俺、さらに強くなったぞ? キューイっていうドワーフ族の女の子が師匠になってくれてさ」
そんな話をして、俺は自然とバレイの向かいの椅子に腰を下ろした。
「ほう、興味深い話だな。それに……そういえば、ハトヤがレベル10に到達するまでの話も、まだ聞いていなかったな」
「お互い忙しくて、ゆっくり話す時間もなかったもんな。じゃあ……その話からしてやるよ」
そうして俺たちは、まるでかつての日常のように、ヒデンスターノヴァでの冒険を語り合った。
笑い合い、ときに真剣に語り、ときには言葉少なにうなずき合う。
やがて日が傾き、空が黄金色に染まりはじめる。
「ハトヤ、もうすぐ日が落ちる。……ともに外を見よう」
そう言ってバレイは席を立ち、テラスの縁へと歩いていく。
俺もそれに続いた。
「20階ってだけあって、すげえ景色だな……」
「だろう? 最近は、毎日ここからこの空を見ているのだ」
しばし、沈黙が流れる。
その静寂が、俺の胸に重くのしかかった。
「……俺は、何事にも動じないようになったって、自負してた。だけど……これは……!」
気づけば、俺の目から涙が溢れていた。
――バレイがいない未来なんて。
「……バレイと一緒に、レベル10の先……そのまた先も、一緒に行けるものだと思ってた」
「……ハトヤ、日が沈むぞ。……見てみろ」
バレイの声に、俺は空を見上げる。
何度も見てきた空。
けれど今日は、不思議なほど澄んで、輝いて見えた。
「この星がなくなって、この景色も……数日後には見れなくなるなんて、想像できないな」
「ああ……」
「だが、現実として、我はこの星とともに消える。……これは、覆ることのない事実だ」
バレイは静かに言う。
「我は……何者かになりたかった。そして、結果として……様々な人に助けられながら、ここまで来ることができた」
「この先を見られないのは、少しばかり惜しいが……我の夢は、もうとうに叶っていたのだ」
「……それに比べ、お前は……最初から、ずっと“先”を見ていたな」
「ああ。俺はまだ夢の途中だ。……バレイ、お前と一緒に“その先”へ行く夢を、描いてた」
涙がまたあふれそうになる。
だが――バレイは笑って、俺の肩に手を置いた。
「泣くな、ハトヤ。お前の夢を……遠くから見守っている」
「どうか、この“先”を見る夢を――叶えてくれ」
ゆっくりと、太陽が地平線の向こうに沈んでいく。
辺りは静かに、確実に、暗闇へと包まれていった。
――バレイと俺は、しばらくその景色を、何も言わずに見つめていた。




