EP72 ラフリットの決断
──DtEO本部、ギルドマスター室。
ハトヤと別れたラフリットは静かに椅子に腰を下ろした。
部屋にいるのは、もう彼一人。
外の喧騒も、館内の足音すらも、今は遠く感じられる。
「……バレイ……」
ふと、昨日の会話が脳裏に蘇る。
・・・
「そうか。この美しい星が──地球が、無くなるなど考えたこともなかったな」
映像越しのバレイは、どこまでも静かだった。
まるで、すべてを受け入れているかのように。
「バレイ……! なぜそんなに冷静なんですか……!? 貴方は、もうヒデンスターノヴァには戻れないんですよ……!」
ラフリットの声は震えていた。
悔しさ、無力感、そして……怒り。
討伐は成功した。だが、その代償はあまりに大きかった。
──もっといい方法が、あったんじゃないか……?
──作戦を急がなければ……バレイも、リヴィエールも、ラキルも、まだ……。
彼の頭は、否定と後悔でぐちゃぐちゃになっていた。
「ラフリット……自分を責めるな。あれが“最善”だったと、我は確信している」
バレイの声は静かだった。
だが、その奥にある感情は──深い。確かな覚悟が滲んでいた。
「……我の力が……足りなかったのだ」
「しかし……!」
ラフリットは言葉を詰まらせた。
しかし、バレイは首を横に振り、静かに告げる。
「ラフリット。この件は、数日のうちにリヴィエールとラキルにも伝えるつもりだ。……そして我は、終わりの日までに“地球からできること”を全うするつもりでいる」
バレイの言葉に、ラフリットは思わず姿勢を正した。
「……そして、最後に一つだけお願いがある」
「……ええ、何でも言ってください……! 私にできることなら……!」
「ふふ、それはありがたい。だが、簡単なことだ」
バレイはモニター越しにラフリットの目を見つめ、まっすぐに言った。
「ハトヤには──我が“退場した”ことを、絶対に伝えないでほしいのだ」
「え……? なぜですか! 一番に伝えるべきじゃ──」
「……あいつは、きっと“全部”を投げ出して、ありもしない『我を戻す方法』を探し始めてしまうだろう。それではいけない。あいつには……“前だけ”を見ていてほしい。立ち止まらずに、な」
一拍おいて、バレイは優しく笑った。
「もちろん、ラフリット。……お前もだ」
「バレイ……」
「我々の故郷が失われるその時が来たら──DtEOは、完全にお前に託す。頼んだぞ、ラフリット」
「……はい……もちろんです……」
ラフリットの頬を、涙が伝っていた。
だが、バレイはそれに何も触れず、ただそっと笑いかけた──
そして──画面が暗転した。
・・・
・・
・
「……私も……前を向かねばなりませんね」
ラフリットは、自分にそう言い聞かせた。
後悔と痛みを抱えたまま、それでも立ち上がるしかない。
「今……やるべきことを。しっかりと……」
涙の痕を袖でぬぐい、ハトヤから託されたノートPCを再び開く。
画面には、あの忌まわしくも決定的なファイル群が広がっている。
──これはもう、“選べる”問題ではない。
“伝えるべきもの”がある。それが、今の自分の責務だ。
カチャ……カチャ……
静かな部屋に、キーを叩く音が響き始めた。




