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異世界に逃げ込んだ犯罪者をPKするのが仕事です――ヒデンスター・ノヴァで命を狩る者  作者: 鳩夜(HATOYA)
第一部 第四章 真実

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EP71 情報共有

 数日後──DtEO本部ギルドマスター室。

 あの日、俺はネフィラと共に戻った事務所で、社長から託されたファイルをまとめ、ラフリットへ送信した。


 返事はすぐに届いた。数日後に会おうという内容だった。

 そして今、俺は本部の会議室で、彼を待っている。


 ネフィラは事務所で留守番だ。あの情報を知ってから、まだ少し落ち着いていない。

 ──カチャ。


 ドアが開き、ラフリットが姿を見せた。


「お待たせいたしました、ハトヤさん」


「ラフリット。この前は……本当にありがとう」


 彼は相変わらず礼儀正しく、一見落ち着いているように見えた。

 ……だが、何かが違う。


「……元気がないな」


 俺がそう言うと、彼は少し驚いたように目を丸くして笑った。


「え? そうですか? 最近、ちょっと忙しいだけですよ……」


 無理をして笑っている。そう感じた。


「とにかく、本題に入りましょう」


 表情を引き締めると、彼は席に座った。

 話し方が変わる──“ギルドマスター”の顔だ。


「私の見解としては、ハトヤさんと同じです。……あれは、真実だと思います」


「本当に……信じられない話だったがな。俺も、未だに夢じゃないかと思ってる」


「でも、現実です。フィルホワイトデーがその証拠。黒き厄災が“再来”することも……受け入れなければなりません」


「……DtEOとして、あの情報を公表すべきだと思うか?」


 ラフリットは数秒、言葉を探すように視線を伏せた。


「難しい問題です。DtEOからの発表なら、一定数の人は信じると思います。この組織は、それだけの信頼と影響力を得ました。ですが……」


「公表すれば、世界は混乱するだろうな……」


「ええ。パニック、デマ、陰謀論。秩序は崩壊しかねません」


「……でも、今も戦争でヒデンスターノヴァから退場している人間がいる。それを止めるためにも……やはり、早く動くべきだ」


 俺の言葉に、ラフリットは頷いた。


「バレイ達には、このことは伝えたのか?」


「もちろんです」


「意見を聞きたい。今はどこに?」


「……大規模な作戦中で、当分は戻れそうにありません」


「そうか……」


 沈黙が落ちた。

 俺たちの間に流れる空気は重く、言葉にできない後悔と、焦りを抱えていた。


「公表……したほうがいいと思います。ただ──」


「ただ?」


「すでにヒデンスターノヴァから“退場”した者が、DtEOにも多くいます。彼らにとって、それは“死刑宣告”にも等しい」


 ラフリットの表情に、苦悩が浮かぶ。


「……なら、“ヒデン社発表”という形はどうだ? 信頼性はやや落ちるが、それでも耳を傾ける人はいるだろう」


 とは言え誰が言っても死刑宣告には変わらない。

 しかし言わなければ退場者はどんどん増えていく……。


「……なるほど」


「DtEOとしては、“完全には信じていないが、注意は必要”という立場であれば……混乱は抑えられる」


 そのとき──


「ラフリットさん!」


 会議室のドアが激しく開かれ、職員の一人が駆け込んできた。


「トップニュースを見てください! 大変なことに……!」


 すぐに端末を開き、表示されたのは──


《ヒデン社が一夜にして完全消失──運営停止とともに跡形もなく》


 見出しの意味が、理解できなかった。

 だが、記事を読んで……そのままの意味だと分かった。


 昨日22時、従業員が退社した後、ヒデン社のビル全体が地下から引き抜かれるようにして消滅した。

 周辺の監視カメラ映像にも、建物が消えていく過程が映っていたが、専門家の誰も原因を説明できない。


 ヒデンスターオンラインは、同時に完全にアクセス不能に。

 その現象については“兵器開発の失敗”など、様々な憶測が飛び交っている。

 社長・瀬日田の行方も依然として不明のまま──


「……これは一体……?」


 俺もラフリットも、しばらく言葉が出なかった。


「間違いない。原因は……あの地下施設だ」


「……」


「でも、ラフリット。ある意味──今がチャンスだ」


「チャンス……?」


「ヒデン社が突然消えた。だからこそ“彼らから情報を託された”という形で、世間に公表しやすくなる」


 ラフリットはしばらく考え、やがて強く頷いた。


「……確かに。今なら、その切り口で動けます。急ぎ、報道関係者と政府系機関に対応しましょう」


「……面倒ばかり押し付けてすまない」


「いえ。むしろ、私の方こそ……ハトヤさんには、レベル10や“その先”のことだけに集中してほしいのに……」


「俺は大丈夫だ。とりあえず、今日は事務所に戻るよ。また何かあったら連絡してくれ」


「はい、わかりました」


 ラフリットは静かに頷いた。


 俺は振り返らずに、会議室を後にした。

 ──やるべきことは山積みだ。


・・・

・・

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