EP70 DtEOの決着
ファイルの入ったノートパソコンを手に、俺たちは無言で部屋を出た。
エレベーターの沈黙が、妙に重たく感じた。
社長室に戻ると、そこに瀬日田の姿はなかった。
部屋は静かで、まるで最初から誰もいなかったかのような空気が漂っていた。
「……いないな」
俺がそう呟いた時、ネフィラが机の上に何かを見つけた。
「……これ、手紙?」
一通の封筒が、静かに置かれていた。
差出人は瀬日田。宛名は、俺とネフィラ。
手紙の中には、短い言葉が記されていた。
すべてを君に託す。私はもう疲れた。
無責任な私を許してくれ。
「……社長……」
文字は震えていない。ただ、静かに終わりを告げるような書きぶりだった。
ネフィラが不安げに俺を見つめる。
「ハトヤ……どうするの?」
「……探してる暇はない。情報を信じて、真剣に動ける奴はラフリットだけだ。一度、俺の事務所に戻ろう。連絡を取る」
俺たちはノートPCを抱えて、ヒデン社を後にした。
・・・
・・
・
――同刻 地球・DtEO本部 ギルドマスター室
ラフリットは分厚い書類を前に、無言で目を走らせていた。
机に並ぶのは、戦況報告と損耗記録。
最新の報告には──
『ルド=グデス、PK完了』
『DtEO側 被害者数:182名』
成功の二文字が並ぶには、あまりにも犠牲が大きすぎた。
「く……!」
ラフリットの眉間に深い皺が刻まれる。
──ルド=グデス。地球で捕らわれていた大犯罪者……。
その討伐成功は、戦局にとって大きな意味を持つはずだった。
だが──
「これで“勝利”と言えるのか……?」
資料のページをめくる。
そこには、ヒデンスター側で敗北し、"退場"となったDtEOメンバーのリストが載っていた。
その中にあったのは──
バレイ、リヴィエール、ラキル
長年ラフリットと共に戦ってきた、信頼すべき同志たちの名だった。
一人一人の顔が脳裏に浮かぶ。
笑っていた時の、怒っていた時の、背中を預け合った戦場の記憶が。
その時だった。
端末が通知音を鳴らした。
──ハトヤからの緊急メッセージと、添付されたファイル。
ラフリットは即座に中身を開く。
そして──表示された内容に、言葉を失う。
『ヒデンスターノヴァ移住計画』
『黒き厄災と白き加護』
『二度目の攻撃』
「これは……!」
彼の背筋が粟立つ。
今、目にしているのはただのファイルではない。
──地球の命運を左右する、“真実”だった。




