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異世界に逃げ込んだ犯罪者をPKするのが仕事です――ヒデンスター・ノヴァで命を狩る者  作者: 鳩夜(HATOYA)
第一部 第四章 真実

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EP69 あまりにも重い事実

「……これが、そのファイルですか?」


 俺は、社長が差し出したノートパソコンの画面を覗き込んだ。

 そこにはフォルダがひとつだけあり、中には複数のファイルが並んでいる。


「そうだ。前置きが長くなってしまったが、ここから先は……わしが話すより、見てもらったほうが早い」


 そう言いかけた社長だったが、俺がファイルに手を伸ばそうとすると、その手を抑えた。


「……その前に聞かせてくれ。君たちは本当に、わしの話を信じるのか?」


 俺は、視線をスクリーンから外し、静かに答えた。


「……そうですね。目の前にある理解不能な機械の数々。それに、ここまで来て嘘をつく意味もないでしょう」


 ネフィラも小さくうなずいた。


「うすうす感じていました。ヒデンスター・ノヴァは……ゲームなんかじゃない。これは地球とは別の星、別の現実……そう確信しました」


 社長は少しだけ目を細め、ゆっくりと頷いた。


「……そうか。ならば、ファイルを見るがいい。内容は多い。ゆっくりと二人で読めばいい」


 立ち上がった社長は、重そうな鍵をひとつ、俺に渡した。


「わしは先に戻っている。……読み終えたら、エレベーターで上がってきてくれ」


「……わかりました」


 そう言って、俺たちはサーバールームに残され、ファイルを開いた──


・・・

・・


 ファイル名:ヒデンスター・ノヴァ移住計画


 星と星をつなぐには、莫大なエネルギーを必要とする。

 そのため、“黒き厄災”によって発生する異常なエネルギーを利用し、

 中間情報記憶帯域を宇宙空間に生成した。


 これにより、知的生命体(人族)の移動が可能となった。


 地球 ⇔ 中間情報記憶帯域 ⇔ ヒデンスター・ノヴァ


 この三地点は、いずれも極めて遠く、完全な情報接続は不可能である。


 よって、人族にも他種族同様に“キューブ”を発現させ、入場ボタンを押すことで

 自身の肉体情報を粒子化し、中間情報記憶帯域に保管する必要がある。


 そこから必要な情報のみをヒデンスター・ノヴァに転送することで、活動が可能となる。


 ・・・


 ファイル名:黒き厄災と白き加護


 呼称は多々あるが、“黒き厄災”とは、星を破壊し、そのエネルギーを吸収する存在である。

 一度補足された星は、最終的に完全破壊されるまで、定期的に繰り返し攻撃される。


 初回の攻撃は、その星が持つエネルギーを利用して、“白き加護”で防ぐことができる。

 だが、二度目の攻撃を防げた事例は、過去に一度も存在しない。


 したがって、白き加護は一度しか使えず、二度目の攻撃が来る前に全人族の移住を完了させなければならない。


 なお、“白き加護”を発動するには、星に一定以上のエネルギーが必要である。

 どれほど文明が進んでいても、星自体のエネルギーが枯渇していれば、発動は不可能となる。


 ・・・


 ファイル名:二度目の攻撃


 一度目の“白き加護”からちょうど5年後、第二の攻撃が始まる。

 このタイミングで再び莫大なエネルギーが発生し、

 中間情報記憶帯域はヒデンスター・ノヴァへと統合される。


 だが、第二の攻撃の前日には、“入場ボタン”が完全に消失する。

 よって、それまでにヒデンスター・ノヴァへ移動を済ませておかなければ、救出は不可能となる。


 一度でも“入場ボタン”を失った者は、現実的に救う手段がない。


 そのため、ヒデンスター・ノヴァにいる間は、絶対に死なないこと。

 それが、“生き残る”ための最低条件である。


・・・

・・


 ファイルはまだいくつか残っていた。

 だが──その時点で、俺たちは言葉を失っていた。


 画面に映し出された“真実”。

 その意味を理解すればするほど、目の前の現実が急速に歪んでいく。


「……これが、本当だとしたら……地球が、無くなる……?」


 口に出した途端、その言葉の重さに自分自身が呑まれそうになった。

 これまでにも、人類は幾度となく“終末”を語ってきた。

 ノストラダムスの大予言、マヤ文明の暦、最近ではカルミューラの大回帰……。


 だが、どれも結局は杞憂に終わった。


 笑い話として消え去った“地球滅亡”。


 ──いや、もしかすると、あれらこそが、この計画の断片をかすかに捉えていたのかもしれない。


 そして今、こうして目の前にあるファイルが、そのすべての“答え”だというのか?


 否定したい気持ちはあった。

 だが、否定できなかった。


 フィルホワイトデーは、確かに起こった。

 説明のつかない現象も、機械も、空間も、目の前にある。


「……これは……嘘じゃない。そう思える」


 その瞬間、隣で小さくしゃくり上げる声が聞こえた。


「……ネフィラ……?」


 彼女は、肩を震わせ、涙をこぼしながら、吐き気を堪えていた。


「……大丈夫か、ネフィラ!」


「……うん……でも……私、ヒデンスターノヴァで……たくさんPKしたの。……たくさん、殺した……のと、同じ……」


 ネフィラの言葉が胸に突き刺さる。

 俺は彼女の手を取って、静かに言った。


「……それを言うなら、俺だって同じだ」


 俺はPKハンターとして、犯罪者を処理してきた。

 その多くは、地球に送還されたあと──処刑された。


 それを知ったうえで、“PK”していた。


 ……だが、ネフィラや他のプレイヤーたちは違う。

 彼らはPKを、あくまで“ゲーム的な敗北”=強制送還だと思っていた。


 まさかそれが、完全な死と同義だったなんて──誰が思うだろうか。


 この情報を知った瞬間、今までの大前提が崩れ去る。


「……社長は、なぜ……もっと早くこの情報を公表しなかったんだ?」


 今この瞬間にも、ヒデンスターノヴァの各地では戦争が起き、数えきれない数のプレイヤーたちが“退場”している。


 もし、もっと早くこの真実が知られていれば──

 誰も戦おうなんて思わず、協力して生き残る道を模索したんじゃないか……?


 一瞬、胸の奥に怒りが湧いた。


 ──だが、すぐに冷静さを取り戻す。


(……いや。それは違う)


「……こんな話、いきなり信じるか? 俺だって無理だ。ゲーム内で死ぬと現実でも死ぬなんて言われて、まともに取り合う奴がどれだけいる?」


「むしろ、“頭のおかしい陰謀論者”と叩かれて、終わりだろうな……」


 社長は、この事実を握りしめたまま、独りでここまでやってきた。

 きっと、その責任と恐怖を誰よりも理解していたはずだ。


「……それでも、あと1年もない」


 カウントダウンは、もう始まっている。

 二度目の“黒き厄災”が来るまで──残された時間はわずか。


「……何か、考えないといけない」


 そう呟くと、ネフィラが震える手で、そっと俺の袖をつかんだ。


「……ハトヤ。戻ろう。社長の部屋に……」


「……ああ。行こう」


 俺たちは立ち上がった。

 全身が重く、心はまだ追いつかない。


 だが──もう、目を逸らすわけにはいかない。

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