EP68 真実
そこは、“サーバールーム”と呼ぶにはあまりに異様な空間だった。
天井は高く、人工的な蒼白い光が漂う。
巨大な装置群が並ぶその中心に、直径5メートルはある“浮遊するキューブ”が静かに回転していた。
まるでそれ自体が、この空間の心臓であるかのように。
さらに周囲には無数の円柱状ケースが並び、それぞれに小さなキューブのような発光体が収められている。
アームが機械的に動き、時折キューブを抜き出しては、また別の場所へ収めていく。
ネフィラが息を呑む。
「……ここは……なんですか?」
「……下手に触るな。とにかく、そこに座ってくれ」
瀬日田社長の声は、今までと違いどこか老け込んでいた。
俺たちは言われるがまま、部屋の隅のソファに腰を下ろす。
「……多くを語るには……まずは、経緯から話さねばなるまい」
そう言って、社長は語り始めた。
“始まり”の日
「──わしが、“社長”と呼ばれる前の話だ」
当時、瀬日田はただの無名なゲームプログラマーだった。
個人で小規模ゲームを開発しては、細々と配信して生活していた。
「──ある日、家のポストに……真っ黒なハードケースが届いたんだ。A4より少し小さいサイズだった」
箱には何の記載もない。手がかりすらなかった。
「……触れると、箱の表面に文字が浮かんできた」
“あなたは選ばれました。開封をもって契約が成立します。
覚悟がない場合、この箱をそのままポストへ戻してください。”
「その時のわしには……他に道などなかった。だから、迷わず開けた」
開けた瞬間、ハードケースが機械的に変形し、首と両腕に金属の輪が装着された。
“契約完了。これを解除すれば、輪があなたを絶命させます。”
「すぐに後悔したよ。だが、もう後戻りはできなかった……そして、箱の中には一つの青いUSBが入っていた」
それを手に取った瞬間、空中にメッセージが浮かんだ。
文字は自分にしか見えず、どんな角度からでも視界の中央に固定される不思議なものだった。
「ワクワクした。明らかに、今までの科学じゃ説明がつかん“何か”だったからな……」
彼はUSBをパソコンに差し込んだ。すると、USBは液体のように溶け、そのままPC内部へと浸透していった。
そして表示されたメッセージ──
“仮想通貨を自動でマイニングし、貴方の口座に送金しました。
この地図上の土地を購入し、ヒデン社を設立してください。
貴方の役割は、来たる“ヒデンスター・ノヴァ移住”のために、大規模シミュレーターを運営することです。”
当時のわしには意味がわからなかった。だが、現実に口座には見たこともない桁の金額が振り込まれていた。
こうして、“ヒデン社”が誕生した。
「最初に作ったのが、この地下の“サーバールーム”だ」
ヒデン社は急成長を遂げた。
“メッセージの指示”に沿って設計されたヒデンスターオンラインと、その専用デバイス“ヒデンゴーグル”は瞬く間に市場を席巻した。
「すべてが順調だった。……“あの日”まではな」
発売からしばらく経ったある日、新たなメッセージが届いた。
“あと36日で、この星に最初の“黒い厄災”が訪れます。
そのエネルギーを利用し、星と星を繋ぎます。”
「さっぱり意味が分からんかった。厄災? 星? 何の話かと」
だが、35日後──最後のメッセージが届いた。
“これが最後の指示です。貴方はよくやった。
明日の厄災を超えた後、タイミングを見て“真実”を世界に伝えてください。
そして、“移住”を円滑に進めなさい。”
メッセージと共に、PCには一つの未開封ファイルが追加されていた。
「……わしは、そのファイルを放置していた。いや、怖くて開けられなかったのかもしれん」
だが、翌日──“フィルホワイトデー”が来た。
「わしは、それで確信した。全部……本当だったのだと」




