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異世界に逃げ込んだ犯罪者をPKするのが仕事です――ヒデンスター・ノヴァで命を狩る者  作者: 鳩夜(HATOYA)
第一部 第四章 真実

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EP67 ヒデン社へ

 スーツに袖を通し、俺とネフィラは15階建てのガラス張りのビルを見上げていた。

 ここが、ヒデン社の本社――


 ヒデンスターオンラインを作り上げた巨大企業。俺たちのこれからに、確実に関わってくる存在だ。


「先輩……緊張しますね……」


「いや、“先輩”って……まあいいや。緊張するな。社長は声はデカいが、悪い人じゃないよ」


 ネフィラも元営業職だけあって、スーツ姿は板についている。

 その落ち着きようとは裏腹に、俺の方がちょっとドキドキしていた。


 受付に名前を告げると、案内はスムーズだった。すでにアポは取ってある。

 応接室で数分待っていると、扉が開いた。


「ハトヤ君、待たせてすまない。ネフィラさんだね? ようこそ」


 入ってきたのは、ヒデン社の代表・瀬日田せひた社長だった。

 白髪交じりの強面だが、どこか親しみのある声。

 以前一度だけ会ったことがある。


 彼は挨拶もそこそこに、そのまま社長室へと案内された後、本題を切り出してきた。


「早速だが……“最果て”の件だ。レベル10の最果てで何があったのか、教えてもらえないか?」


「……なにか参考にしたいと仰っていましたね」


「その通り。我が社のオンラインゲーム、ヒデンスターオンラインの今後の展開のためだ。参考になる情報があればと期待していた」


 確かに、アップデートはフィルホワイトデー以降滞っていた。


「ですが社長……それなら自社で新展開を作ればいいのでは? 開発部隊もいるんですよね?」


 俺の疑念に、社長は言葉を濁す。


(やっぱり……表の理由だけじゃないな)


「とにかく、見たことをお伝えします」


 そう言って俺は、あの日“最果て”で見た情報を告げた。


『身体の統合が完了していない……』


 社長はその言葉を聞くと、顔を険しくした。


「……どういう意味かはわからない。ですが、これが俺たちが最後に触れた情報です」


「…………」


 一瞬の沈黙のあと、俺はかまをかけることにした。


「それと……社長がついている“嘘”についても、俺は知ってしまいました」


「な、何のことだ……?」


 社長の動揺は隠せない。


「“ヒデンスター・ノヴァがヒデンスターオンラインを盗んだ”と、世間では言われてますが……本当は、逆ですよね?」


 社長は驚き、そして――崩れ落ちそうな表情を見せた。


「……ハトヤ。どこまで知っているんだ? わしは……この秘密を一人では抱えきれない……!」


 俺は手を上げて制した。


「すいません。実はほとんど知らないです。でも、知っていると思われる人物は心当たりがあります」


「誰だ?」


「ヒデンスター・ノヴァで出会った、“ドワーフ族”を名乗る人物です」


「……人以外の種族か」


 その瞬間、瀬日田社長は立ち上がった。


「ハトヤ。いずれ君は、“真実”にたどり着くことになる。だが……それを知って絶望しないか? 何があっても」


「え……」


「……専務は、事実を知ったその日に自ら命を絶った」


 俺もネフィラも、思わず息を呑んだ。


「……それでも。どんなことがあっても受け止めます」


 ネフィラも、小さく頷いた。


 社長は重く深い息を吐いた後、決意したようにボタンを押す。


「わしが居なくなれば、もう誰もこの事を知らなくなる。それだけは避けねばならん」


 カタン……と音を立てて、壁の一部が回転し、隠し扉が現れる。

 中には、鉄製の重厚なエレベーター。


「……ついてこい」


 俺たちは何も言わず、その中へと乗り込んだ。

 エレベーターは、ゆっくりと、だが確実に――地の底へと降りていく。


・・・

・・


 南部レベル4エリア《霊灯の街道》 領土戦城──


 ハトヤたちが地球で真実に迫るそのころ。

 別の地で、一つの決着が今まさに下ろされようとしていた。


 血に染まった石畳。霧のようなオーラが立ちこめる古城の踊り場に、二人の男が向かい合っていた。


 バレイと大犯罪者ルド=グデス


 互いにシールドは破損し、戦闘時間はすでに1時間を超えている。

 地面には幾重にも斬撃と刺突の痕が刻まれ、彼らがこの場で“生きるか死ぬか”を賭けてきたことを物語っていた。


 バレイは長柄の薙刀を、ルド=グデスは黒鉄の槍を構える。


「……ふ。互いのシールド、割れたな」


「ぐっ……お前、一体……なぜそこまで犯罪者討伐に拘る!?」


 バレイは瞳を細め、微かに口元を上げた。


「愚問だが、答えてやろう」


 その声には、揺るがぬ信念が込められていた。


「この世界は……綺麗であるべきだと、我は考える」


 風が吹き抜ける。吹雪のように冷たい静寂が空気を裂いた。


「法律が存在しないに等しいヒデンスター・ノヴァ。このままでは、お前らのような者が溢れ返る……やがて世界は黒に染まる」


「……だから殺すってのか」


「我はこの世界を汚したくない。犯罪者を一掃した後は……この世界に蔓延る戦争すら止めるつもりだ」


「この戦いなど、通過点に過ぎん」


 ルド=グデスの目が見開かれた。侮辱にも似たその宣言に、感情が爆ぜる。


「この俺が、通過点……だと……? ──寝言は寝て言えッ!」


 怒声とともに、彼は鉄色のキューブを取り出す。


 パキィィン……!


 空気が歪むような衝撃。周囲の魔素が引き寄せられる。

 キューブが放つ色は、まぎれもなく“異色”。


「やはり……貴様、“異色キューブ”の持ち主か……!」


 バレイも対抗するように、緑色のキューブを構えた。

 二つの力がぶつかり合う。


 圧力、殺気、膨れ上がる戦意。

 この戦いが終わるとき、


 一つの闇が消え、あるいは更なる深淵が開かれるかもしれない──


 決着の刻は、すぐそこに迫っていた。

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