EP65 ネフィラの決着
――約束の時は、あっという間に来た。
場所はヒデンスター・ノヴァ。
マルチポータルタウンの対人練習場。
その場には、ライカと両親、
DtEOのギルドマスター・ラフリットを始めとした関係者、
さらには観客までもが集まっていた。
「な、なにこれ……」
「ねぇ、あの人見たことある。DtEOっていう一番大きい組織のトップよ……」
ライカが小声で両親に耳打ちする。
「なんでそんな奴が来てんだ……?」
焦りの色を隠せない家族たちを横目に、ラフリットが中央に歩み出た。
「ハトヤさん、すみません。思っていた以上に賑やかになってしまいました」
「いいよ。証人は多いほうがいいからね」
ハトヤとラフリットの親しげなやり取りに、ライカたちは混乱する。
「では、整いましたので始めましょう。内容は――会社の代表権と二千万円の無償融資を賭けた、ネフィラさんとライカさんの一騎打ち。この認識でよろしいですか?」
ラフリットが父に問う。
「ちょ、ちょっと……万が一ライカが負けたら……」
「バカ野郎! ライカが負けるわけないだろ! その内容で間違いない!」
わたしにも確認が入り、小さく頷いた。
「……はい。あと……以前はごめんなさい……」
「ハトヤさんが信頼している人ですから。過去のことは気にしないでください」
「装備条件は双方レベル2相当とします。武器はどれにしますか?」
提示されたリストを前に、わたしは大剣、ライカはショートソードと盾を手に取る。
(負けたら……すべて水の泡。でも……)
武器を手にした瞬間、手の震えがぴたりと止まった。
(……見える)
広がる視界。小さく見える両親と妹。
(武器を持って戦い抜いてきた……あの日々が、わたしを支えている)
ハトヤとの時間。戦いの数々。
その研鑽が、彼女を強くしていた。
構えを取った瞬間、ライカと両親がたじろぐ。
「な、なんだあいつの構え……様になってるぞ……?」
「見せかけよ! すぐ終わらせるんだから!」
「ナイフが地面に刺さったら開始です!」
ラフリットの手から舞うナイフが空を切る。
――カッ。
地に突き刺さる音と同時に、戦闘開始。
ライカはその場で盾を構えて動かない。
「……何してるの?」
わたしの声に、ライカは鼻で笑う。
「基本は防御。攻撃は後回し。知らないの? 学校行ってないもんね」
「そっか……でもそれ、レベル4序盤までしか通用しない……」
(学校がレベル4で卒業の理由が分かる……通用しないことを理解しているんだ……)
ネフィラは静かに歩き出す。
「く、来るなら来なさいよ!」
「ライカ、その戦い方じゃ強くなれないよ。高いお金払って行く必要なんてない。その学校……意味ない」
一歩――踏み込んだ。
そして一瞬で背後に移動し五閃。
――ガシャッ!
ライカのシールドが破壊され、へたり込む。
「ラ、ライカのシールド破壊確認! 勝者、ネフィラ!」
観客の歓声が爆発した。
「すげぇ……何発入れたんだよ、今……」
「俺、何も見えなかったぞ……」
会場はわたしを称賛する声で包まれる。
「ありえない……私が……ネフィラに……!?」
混乱するライカを無視して、ハトヤが父に告げる。
「では、約束通り代表から退いていただきます」
「み、認めん! こんな契約書ごときで代表降りるとかありえん!」
「これだけ証人がいる中で?」
「証人なんて関係あるか! 無効だ、こんなもん!」
「では、融資も白紙になりますが?」
「……構わん!」
「わかりました。すべてなかったことに」
「フン! 他を探して金を借りるだけだ!」
その瞬間――
「融資先を探すのは貴方じゃなく、いつも僕です」
「す、鈴木! なにしてる!」
「社長、僕だけじゃありません」
続いて現れたのは、工場長、従業員、総勢20名。
「お、お前ら……仕事に戻れ! 減給だぞ!」
「私たちは全員、先代社長……貴方の父に大変世話になった」
「その恩もあり、待遇がどんどん悪くなってもここで働き続けた」
「だがもう我慢の限界だ」
「全員、今をもって退職させていただく。退職届はあんたの部屋の机にすでに全員分置いている」
「な……ふざけるなぁッ!!」
「訴えても構いませんよ。その場合、未払い残業代と違法労働で訴え返しますので」
「ぐ……ぐぅ……!」
社長はその場でうなだれた。
鈴木はハトヤに手を差し出した。
「ありがとうございました。ようやく目が覚めました」
「それは良かった。今後のことはラフリットに」
「悪いようにはしません。得意先も、社員も、守ります」
ラフリットが頼もしく微笑む。
「おい! やっぱり会社の買い取りに同意する! 報酬も下げていい!」
「自らの保身の為に何度も意見を変える人間は信用できません。他の融資先……見つかると良いですね」
「ネ、ネフィラ! お前からも――」
「ふざけないで!!」
ネフィラの叫びに、場が静まり返る。
「これは今までの報い。わたしはもう、あなた達とは金輪際関わらない。ハトヤ、ラフリットさん……ありがとう。これで終わりです」
「では、こちらで締めましょう」
「何から何まで、ありがとう。ラフリット」
ハトヤとネフィラは、その場を後にした。
背後からは、両親たちの断末魔のような叫びが聞こえ続けていたが、もう振り返ることはなかった。
ふたりは、まっすぐに――希望ある未来へ向かって歩いていった。




