EP59 到達
これは……?
視界が白く染まり、次第に景色が鮮明になる。
そこにいたのは、幻想的なほど白い肌に、エメラルドのロングヘアを持つ女性と、幼い少年だった。
俺……? あの少年は……間違いなく、俺だ。
女性が優しく微笑み、少年へ語りかける。
「あなたは、私の力も受け継いでいるの。地球で生涯を終えるのなら、それを使うことはないわ」
「でも……あなたは、もう一つの星へ行く運命にある」
「母さん……何の話?」
「今はまだ、分からなくていい。……ただ、もし“命の危険”を感じた時があれば」
そう言うと、女性は自らの胸元に手を伸ばした。
――キューブ。
この時代ではまだ知られるはずのないその結晶体を、女性は胸に差し込み、語る。
「こうするのよ――自身のキューブを胸に刺しなさい」
「ハトヤ!!」
ネフィラの声とともに、現実が一気に押し寄せる。
俺はすぐさまキューブの角を、自分の胸へと突き刺した。
――バチィィィン……!
雷鳴のような衝撃とともに、背中から灼熱のオーラが翼となって噴き出す。
翼はすぐに自らを包み込み、全身に力がみなぎる感覚が走った。
「ハトヤ! 危ない……!」
ダラ=ヴォイドロアが、最大出力の一撃を放とうとしていた。
だが――
「大丈夫だ。今なら、負ける気がしない」
俺は静かに、腰に携えていた一本の刃――
[S6:赤く錆びた太古の短剣]を抜き、構えた。
踏み出すと同時に、重力が逆巻くような空間が襲い掛かる。
ズガァァアアアアアン――ッ!!
鈍く、重い衝撃が虚界を揺らす。だが俺はその力を真正面から受けきった。
「……効かないな」
――俺はキューブを掲げた。
「カオスアビス」
低く、静かに唱えると、空間がねじれる。
そこから生まれたのは――極限に収束された重力虚無。
その中心に引きずり込まれたダラ=ヴォイドロアは、悲鳴をあげる間もなく、
シールドを完全に消失し、ライフが一瞬で1に落ち込んだ。
戻ってきた時には、すでに勝負はついていた。
俺は静かに、クイックスロットから鉄の槍を取り出し、風を切って投げ放つ。
ザンッ!!
突き刺さると同時に、異形の巨獣が断末魔のような叫びをあげる。
「グオオオオ――……!!」
虚界全体が揺れるような震動の中で、ダラ=ヴォイドロアは粒子となって崩れ去っていった。
横を見ると、ネフィラは気を失って倒れていた。
だが、彼女はまだ“ここにいる”。
生きている――それだけで、俺の中の緊張が一気に解けた。
「……終わったな」
そう呟いた瞬間、全身の力が抜ける。
かつてないほどの疲労に襲われ、俺の膝が地に着く。
意識が、遠のいていく……。
「ハトヤ! 無事か!」
――その声に、俺は目を細めた。
……知っている、この声は。
かつて、スペルとスキルを声に出さず使う方法を教えてくれた……
あの人物の声。
記憶の深淵に浮かぶ声を聴きながら、俺の意識は完全に闇に沈んでいった。
「……まったく。天力がなければ使えない抜け道を、無自覚に通るとは」
褐色の肌に、ホワイトブロンドの長髪を持つ小柄な少女が呆れたように呟く。
身長は130cmほどだが、細い腕でハトヤとネフィラを軽々と抱き上げていた。
「覚醒しているようじゃな……適正装備なしでダラ=ヴォイドロアを倒すとは」
目を細めながら、少女は虚界の裂け目から足を踏み出す。
――この場の真実を知る者だけが辿れる道を、静かに、確かに歩き出していった。




