EP58 死の予感
巨大な歯車が軋みを上げ、黒金の蒸気が吹き上がる。
空間がうねり、熱を帯びたように振動する。
――発動の予兆。
「来るぞ……!」
俺は歪みに包まれるその刹那、リープを発動。
蒸気の中を瞬時に駆け、巨獣《ダラ=ヴォイドロア》の懐へ飛び込む。
刃を構え、三連撃を叩き込んだ。
ザシュ――ザシュッ!
だが、わかっていた。一切のダメージは通らない。
蒸気の奥で、機械の眼がギラリと光る。
攻撃が始まる――!
――ディスラプションカット
空間を斬り裂くようにキューブを操り、起動中のスキル構造を切断。
刹那、あたりの空間の歪みが静止する。
「ネフィラ、今だ――!」
「……ブラッドヴェインッ!」
ネフィラが自らのシールドを犠牲にし、赤い閃光を放つ。
深紅の斬撃がダラ=ヴォイドロアの前脚を斬り裂いた。
ズ……ッ!
傷は浅い。だが――0ではない。
「効いてる……微々たるものだけど……!」
「この流れを繰り返すしかない!」
ディスラプションカットでスキルを止め、その隙にネフィラのブラッドヴェイン。
俺はスキルの阻害に集中し、彼女が唯一のダメージ源として攻撃を続ける。
「ハトヤ、シールドポーション、残り3個しかない……!」
「温存しろ! 俺のシールドを使ってくれ!!」
ネフィラは迷いなく《クロスオブスティグマ》を発動。
紅のキューブが俺の胸に触れ、シールドが吸収されていく。
(……俺のシールド量でも、2~3発分が限界だろう)
それでも繋がなければ、戦いの火はここで潰える。
だが、その時だった。
再び放たれたブラッドヴェインが――異常な輝きを放った。
ズシャアッッ!!
「グォォオオッ!!」
ダラが呻き声をあげる――!
「な、なんだ……!?」
「いつもより……威力が高い……?」
――そうだ。
この一撃は、明らかに他のブラッドヴェインとは違っていた。
「……まさか。他者のシールドを吸った方が、威力が上がる……?」
「ネフィラ! シールドポーションを2本! 俺に投げろ!」
「う、うん!」
飛んできたポーションを受け取り、一気に自分へぶっかける。
「よし……まだいける!」
シールドを補充し、ネフィラに再び吸わせて攻撃させる。
だが――
時間が経つごとに、敵の動きは加速する。
こちらのポーションはどんどん減り……ついに、底をついた。
「くそっ……まだ削り切れてない……!」
その時。
ネフィラの足元がぐらつく。
ダラのわずかな腕の動きによる牽制が、彼女の肩を掠めた。
パリンッ……!
ネフィラのシールドが粉砕された。
「ネフィラ!」
その瞬間、俺は考えるより先に身体が動いていた。
次の一撃は――確実に殺す。
巨大な脚が振り下ろされる。
空間が歪む、重力が崩れる。
死の予兆。
――だが、俺はその前にネフィラの前に飛び出した。
「ぐっ……!」
シールドは一瞬で砕けた。
だが、無慈悲な連撃は止まらない。
ドンッ――
視界が白く、遠くなっていく。
「ハトヤっ!!」
ネフィラの叫び声が、遠くから聞こえていた。
……だけどそれも、次第に霞んでいく。
――この世界で、倒れたら二度と帰れない。
それは、俺にとって死んだも同然だ。
そう、分かってたはずなのに。




