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異世界に逃げ込んだ犯罪者をPKするのが仕事です――ヒデンスター・ノヴァで命を狩る者  作者: TOYA
第一部 第三章 最果てへ

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EP57 罠

 ――ついに来た。

 崖を超え、いくつもの歪みを避けながら数時間――

 俺たちは、かつて「ゲーム」では踏み込めなかった場所、世界の端へとたどり着いた。

 目の前には、果てしなく上空へと伸びる真っ黒の壁がそびえている。

 その質感はまるで液体のように柔らかそうでありながら、硬質な存在感を放っていた。


「これが……」


 ネフィラがぽつりと呟き、首を反らして壁の頂上を見上げる。

 ――この壁、ゲームでは「この先へは侵入不可」と表示されていた場所だ。

 だが、今は違う。


「ネフィラ、同時に触れよう。ここまで一緒に来た仲間だ。抜け駆けは、したくない」


 ネフィラは小さく頷き、俺の手にそっと自分の手を重ねる。


「いくぞ……」


 二人で同時に、壁へと手を伸ばした――。


 ズブリッ

 まるで液体に沈み込むように、俺たちの手首までが壁の中へと吸い込まれた。


 次の瞬間、黒い粒子が全身を包み、身体が一瞬動かなくなる。

 抜こうとしても、強い力で引き止められ、まるで“何か”に解析されているような感覚。

 そして――


「ッ……!」


 脳を貫く強烈な衝撃が襲ってきた。


 ――いや、これは痛みではない。

 “記憶が戻ってくる”感覚だ。


 断片的だった記憶、空白の時間に感じていた違和感、忘れていた数々の感情――

 まるで滝のように、頭の中に流れ込んでくる。


「ハトヤ……文字が浮かんでる」


 ネフィラの言葉に我に返り、壁を見る。

 そこには、まるで天からのメッセージのように、淡い光の文字が浮かび上がっていた。


 【以下の条件を満たしていない為、入場不可】

 ① 身体の統合が完了していない。


「……身体の統合?」


 言葉の意味がまったく分からない。

 ネフィラもまた文字を読んでいるようで、少し顔を曇らせていた。


「ネフィラ、お前は?」


「わたしのは……」


 ① 入場に必須の神器化結晶石を所持していない。

 ② 身体の統合が完了していない。

 ③ 熟練度が規定を満たしていない。


「……俺とは、違う内容だな。条件をクリアしないと入れないってことか」


 俺はキューブから神器化結晶石を一つ取り出すと、そっとネフィラに手渡す。


「これ……いいの?」


「せっかくだし、二人で入場しよう。……どのみち、すぐには行けないけどな」


「熟練度……わたし、頑張ってみる……」


「そうだな。だが一番の問題は、身体の統合ってなんだよ……」


 その時だった。

 空間が、“瞬間的に”ねじれた。


「……ネフィラ、危な――」


 言葉より先に、ネフィラの目の前に突如出現した歪みが、彼女を包み込むように広がった。


「ハトヤ――っ!」


 叫びとともに、ネフィラの身体は空間の裂け目へと吸い込まれた。


「来ないでっ! 逃げて――っ!」


 その言葉は、彼女から初めて聞いた“必死の叫び”だった。

 だが――


「置いて行けるわけがないだろ……!」


 俺は迷わず、ネフィラが吸い込まれた空間の歪みへと飛び込んだ。


「ハトヤ、なんで来たの……!」


 ネフィラが叫ぶ。声が震えていた。


「見捨てられる訳ないだろ。大事な仲間だ。」


 静かに、でも強くそう告げた。

 その一言に、ネフィラの表情が揺れる。


「ハトヤ……」


 だが感傷に浸っている暇はない。


「ネフィラ、俺のほうじゃなくて“あいつ”を見ろ。」


 ゆっくりと、奴が姿を現す。


 それは、獣と機械が不完全に融合したような、悪夢のような存在――


 《ダラ=ヴォイドロア》

 四脚で、全身を黒金の甲殻に包み、

 骨のようなフレームに歯車と蒸気機関が噛み合っている。

 背中からは空間のノイズのような靄が吹き出し、

 目には理性の欠片も感じられない紅い光が宿っていた。


「こいつは……ゲームで見たことがある。」


 俺の脳裏に蘇る情報。


 ・一定範囲の空間を「虚無」に落とし、スキル・スペルを封印

 ・空間ごと踏み潰す、回避不能の即死級ダメージ

 ・戦闘時間が長引くほど形態が変化し、能力が強化される


 ここがヒデンスターオンラインそのままだとするなら――


「俺の攻撃は効かない。レベル10の魔物には最低でもレベル9の武器が必要だからだ」


 だが、可能性はある。


「攻撃の起点は分かる。俺の《ディスラプションカット》で奴のスキル発動を無効化できる。そして、ネフィラ――お前の《ブラッドヴェイン》なら、固定ダメージとして通る可能性が高い」


 ネフィラは驚いたように目を見開いた。


「でも、それはシールドの50%を消費する……。ポーションも限られてて……」


「俺のも全部渡す。そして……」


 俺はキューブから全シールドポーションを取り出し、ネフィラに渡した。

 そしてもう一つ――


「《クロスオブスティグマ》――あれを俺に使え。俺のシールドを吸収して攻撃に変換するんだ」


「でも……! そんなの……!」


「それが一番生き残れる可能性が高い。頼む……!」


 ――一瞬の沈黙。

 だが、ネフィラの表情が変わった。

 恐れが、決意に塗り替えられる。


「……わかった……!」


 歯を食いしばり、血の気が引いた顔でも、目だけは強く光っていた。


 ゴウン…… ゴウン……

 蒸気が吹き出し、鉄が軋むような音が鳴る。


 ――《ダラ=ヴォイドロア》が動く。

 巨体の中心に収束するように、蒸気の渦が集まり、腹部の炉が赤く発光していく。


「さぁ、来るぞ――!」


 俺とネフィラは、死地に立つ覚悟を胸に、武器を構えた。

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