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異世界に逃げ込んだ犯罪者をPKするのが仕事です――ヒデンスター・ノヴァで命を狩る者  作者: 鳩夜(HATOYA)
第一部 第三章 最果てへ

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EP55 DtEOの状況

 ――地球:DtEO本部 会議室


 冷たい蛍光灯の明かりが照らす会議室に、十数名の幹部が静かに並び座っていた。

 この日、議題となっていたのは、かつてのDtEO副官・フナシをギルドマスターに据え、地球から運用体制を構築しようとする提案だった。


「最終審議の結果……ラフリットがギルドマスターを継続。フナシおよびニナシの要求は、全面的に棄却する」


「ぐ……ぬう……っ!」


 フナシは悔しげに拳を握りしめた。

 一方、ラフリットは軽く肩の力を抜き、深く息を吐いた。

 だがこの結末は、最初から見えていたものだ。


 ゴールドスカーによる本部襲撃事件以降、ニナシへの信頼は大きく揺らいでいた。

 特に問題視されたのは、事件当夜の行動である。

 本部が混乱していた中、ニナシはどこかの「夜の店」に入り浸っており、現場に姿を見せなかった。

 その事実が明るみに出たのは、店のホステス・ジュリアが自ら証拠写真を持って現れたからだった。


 この“証拠写真降臨事件”により、ニナシ派だった中間幹部たちも激怒。

 結果、票は自然と中立、あるいはラフリット支持に傾いていった。

 すべては、ラフリットの目論見どおりに進んだ――とはいえ、彼は一切の関与を否定し、あくまで淡々とした態度を貫いていた。


「……ありがとうございます。では、引き続き、任務を全ういたします」


 会議室を一礼して去るラフリット。その表情は一切の感情を見せなかった。

 席に戻ると、端末に一通のメールが届いていた。


「……またか」


 差出人は――ヒデン社の社長だった。

 件名はシンプルに、「南部レベル10への進捗について」。

 かつては完全に静観していたヒデン社だが、ここにきて頻繁に催促のメールが届くようになっていた。


「戦争が始まったあたりから……急に増えましたね……」


 ラフリットは無難な返信を返した。だが、送信ボタンを押して間もなく、着信音が鳴り響く。


「……社長……直通……?」


 通信先は、ヒデン社の代表取締役。

 ラフリットは気を引き締めて応答する。


「はい。DtEOギルドマスターのラフリットです」


『メールを読んだ。まだレベル7が最大到達点か?』


「はい、現時点では。ですが、とある二人組が開拓を進めており、順調にいけば一ヶ月以内にはレベル8へ到達するかと……」


『その二人というのは? 直接話を聞きたい』


 ラフリットは一瞬、言葉に詰まる。

 だが、ハトヤの安全は地球においてもすでに法的・政治的に保障されている。


「……鳩廻集矢。ハトヤというプレイヤーです」


『……ハトヤ? まさか……ヒデンスターオンラインでトップだった、あのハトヤか!?』


「ええ、同一人物です」


『……それは期待できるな! ありがとう、すぐに連絡を取ってみる』


「ハトヤは今も高レベル帯におりますので、連絡はつかないと思います」


『そうか……ではメッセージを送って帰還を楽しみにしているよ』


 電話はあっさりと切られた。

 ラフリットは背もたれに身を預け、指を組み、遠くの景色を見つめるように天井を仰いだ。


「ハトヤさん……申し訳ない……また、面倒ごとを背負わせてしまったかもしれませんね……」


 ラフリットは静かに呟いた。


 南部レベル4エリア――《霊灯の街道》。

 青白く揺れる霊灯が等間隔に並び、昼夜を問わず淡く街道を照らす幻想的な地。


 その中を、リヴィエール隊とリンカ隊の二部隊が合同で駐屯していた。

  静かに霊灯の影をすり抜けながら、リンカが戻ってくる。


「……やっぱり。あの城を占拠してるのは、北部連合でも南部連合でもなさそうです」


 そう言って、リンカは手元の写真をリヴィエールに見せた。

 城の構造、周囲の配置、そしてその場にいた人影――それらを無言で確認した後、リヴィエールがぽつりと呟く。


「なんとなくやけど、雰囲気が以前の修練の塔に近いなあ」


「……あの、犯罪者が巣食ってた時のってことですか?」


「せや。少なくとも軍人の類には見えへん。探してた連中――犯罪者の一部かもしれんな……」


 リヴィエールは画像を拡大し、ある一人の男の姿に視線を止めた。


「ルド=グデス……」


 名を口にしたとたん、周囲の空気が僅かに張り詰めた。


「とにかく、今は辛抱や。どちらかの連合が近いうちにあそこへ攻め入るはずや。その時を、じっくり待つんや」


 リンカは小さく頷き、二人は再び周囲を警戒する隊員たちの中に溶け込んでいった。


 ――同時刻、地球:DtEO本部

 数か月前より、フナシ派とニナシ派の影響力は急速に低下していた。

 組織の方向性が揺れる中、DtEOは新たな二つの目標に焦点を絞って動き始めていた。


 一つ目は、《ルド=グデス》の捜索。

 彼の所在は現在も不明だが、かつて大混乱を巻き起こした犯罪者のリーダー格であり、依然として最重要対象とされている。


 ゴールドスカーがルド本人でないことは、様々な情報からほぼ確定的となった。

 そして、ゴールドスカーの正体――

 それはかつてバレイが自ら救出し、戦火の中で命を落としたと思われていた“あの少年”である可能性が、極めて高かった。


 この事実を、ラフリットはまだバレイに伝えていない。

 ――言うべきではない。

 そう判断した末の、重い沈黙だった。


 二つ目の任務は、《エリア1~4の治安維持》。

 戦争の混乱に乗じ、下層エリアでは無法者の跳梁が目立ち始めている。

 それらの摘発と排除は、DtEOに課された地味だが重要な任務であった。


  《ヒデンスター・ノヴァ》は、生きていた。

 人と人が交差し、思惑と策略が絡み合い、絶え間なく形を変えていく。

 そして、その“生”には現実が密接に絡んでいる。


 もはや、ただのゲームではない。

 仮想世界……いや異世界と現実が地続きとなったこの世界で、DtEOもまた変化に順応し続けるしかなかった。


 その中でも――

 ただひとり、変わらぬ者がいた。


 ハトヤ。

 彼はただ、己の信じた道を貫き、最奥へと足を止めることなく進んでいた。

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