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異世界に逃げ込んだ犯罪者をPKするのが仕事です――ヒデンスター・ノヴァで命を狩る者  作者: TOYA
第一部 第三章 最果てへ

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EP54 再び先へ

「……ハトヤ、怒った?」


 ネフィラがぽつりとつぶやくように聞いてきた。


「ん? ゴールドスカー側にいたことか? いや、全然気にしてないよ」


 そう答えると、ネフィラは少し驚いたような表情を見せた。


「でも……敵だったのに……」


「俺は“実際に見たもの”を重視するんだ。過去がどうであれ、些細なことだ。」


 それに、と続ける。


「ネフィラがいなければ、俺はここまで進めなかった。一緒に来てもらわないと困るくらいさ」


 ネフィラはまだ申し訳なさそうな表情を崩せずにいた。


「何より、はむまるが懐いている。つまり悪い奴じゃぁ無いってことだ」


 そう言うと、俺の肩から“はむまる”がぴょこんと飛び出し、どや顔を披露してくれた。

 ネフィラはその様子を見て、思わずふっと笑っていた。


 そしてその夜――

 夕食を終え、安全地帯に簡易テントを設営していたときだった。


「ハトヤ……簡易テント、一つでいい。一緒に入るほうが……節約できる」


「あ、ああ……確かにそうだけど、結構狭いよ?」


 簡易テントの内装はその名のとおり簡素だ。

 畳にして二畳程度の空間に、壁から降ろせるシングルベッドがひとつ。

 寝ないときはベッドを折りたたんで壁に収納し、床に布団を敷いて眠ることも可能だ。


 ネフィラは俺の設置したテントにするりと入り込み、すでに手慣れた様子でベッドを収納し、布団を敷きはじめた。

 ……なるほど。


 簡易テントには耐久度がある。使用回数や環境によって摩耗し、いずれ壊れる。

 ここ“逆さの宮殿”では、特に摩耗が激しく、思っていたよりも劣化が早い。

 たぶん、ネフィラはそのことを感じ取っていたのだろう。

 だからこそ、わざわざ“共有”を提案してくれたに違いない。


「ありがとう。確かに二つ使うより、ずっとコスパはいい。一晩試してみようか」


 そう言うと、ネフィラはどこか嬉しそうな顔を見せた。

 ただ、ふと気になって念を押す。


「……でも床の布団は俺が使うから。ネフィラは、ベッドで寝てくれ」


「……え……?」


「ベッドを下ろしても、こっちに十分なスペースはある。俺が下で寝るよ」


「……わかった……」


 どこか、少し残念そうな表情をしていた。

 もしかしたら、下で寝たかったのかもしれないな――などと考えながら、その夜は二人で一つのテントに眠りについた。


 ――深夜。


「……んぐっ……」


 身体に、ずしりとした重みを感じて目を覚ました。


「……ネフィラ……?」


 どうやらベッドの上から、寝返りか何かで俺の上に落ちてきてしまったようだった。

 そっとどかそうと手を伸ばしたそのとき――


「……すてないで……」


 小さな、かすれた声が聞こえた。

 ネフィラは、俺の服を握りしめたまま、夢の中でそう呟いていた。

 俺はそっと、彼女の頭をなでてから手を外し、音を立てぬようにテントを出た。


 “逆さの宮殿”の夜は、まるで夢の中のようだ。

 天井にあたる場所が、床のように感じられる。

 どちらが上下か、分からなくなる。どこを見ても――満天の星空が広がっていた。


 ……天力。


 それは、レスターが持ち、俺も持っている可能性のある“力”。

 だが、レスターと会った記憶はない。


 もしそうならば――俺は、別の誰かからそれを授かったということになる。


「……まったく、思い出せないな」


 修練の塔奪還からの、あの曖昧な半年間。

 その間に、何があった? 誰と会い、何を得た?

 どれだけ目を凝らしても、その記憶だけは霧の中だ。


「……この記憶が戻る日は、来るんだろうか……」


 空を見上げながら、そんなことをぼんやりと考えていた。


 そして気がつけば――俺はそのまま、満天の星の下で、静かにまどろんでいた。


・・・

・・


 それから十五日が経過した。

 俺たちは、夢幻の書庫へと続く隔壁の前に立っていた。

 ネフィラの成長は予想以上で、ここまでの道のりはかなり順調なペースだった。


 この先に広がるのは、南部レベル6エリア――《夢幻の書庫》。

 すでに道中でも説明してあるが、このエリアは特異だ。

 安全地帯が限られており、状況次第では十日以上、休む間もなく動き続けなければならないこともある。


「どんな場所でも、大丈夫」


 ネフィラは短く、だが力強く答えた。

 その言葉に俺は頷き、気を引き締める。


「よし、行こうか」


 俺たちは隔壁を越え、次なる深部――夢幻の書庫へと、足を踏み入れた。

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