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異世界に逃げ込んだ犯罪者をPKするのが仕事です――ヒデンスター・ノヴァで命を狩る者  作者: 鳩夜(HATOYA)
第一部 第三章 最果てへ

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EP53 ネフィラの正体

 ――南部レベル5エリア、《逆さの宮殿》。


 この地に再び足を踏み入れてから約20日が経過していた。

 進行度はすでに半分を超えており、今のペースならリープで駆け抜けていた頃と変わらない。

 それどころか、ネフィラが同行している今の方が、安定感は増しているのかもしれない。


 ――ザンッ! ザシュッ!


 その証拠に、ネフィラはレベル5エリアに登場する強敵、《ディストルーパー》すら難なく処理してみせた。

 物覚えが良く、伝えた戦法はすぐに実行に移す。

 唯一の難点は、ややコミュニケーションが取りづらい点くらいだが……

 ……まあ、それすらも俺にとっては“ちょうどいい距離感”と感じられるから不思議だ。

 むしろ、無駄に喋らないからこそ、息を合わせやすい部分もある。


「ハトヤ……だれか、戦ってる」


 ネフィラが前方を指さす。

 その先に見えたのは――バレイ、ラキル、サナの三人だった。


 どうやら、彼らも《ディストルーパー》と交戦中のようだ。

 バレイが先頭で盾を構え、ラキルが火のキューブで腕を焼き、サナが周囲の魔物を迅速に排除する。


 まるでマニュアル通りのような、無駄のない連携――思わず唸りたくなる完成度だ。

 ディストルーパーを討伐し終えると、俺はバレイたちに声をかけた。


「バレイ!」


「ん……おおっ、ハトヤ! 久しいな!」


「そうだな。調子はどうだ?」


「良い感じだ! よかったら近況を聞かせてくれないか?」


 バレイの言葉に頷き、その場で腰を下ろした。


「ここならしばらく魔物は湧かない。バレイ、俺は周辺を警戒しておくぜ」


「感謝する。ラキル」


 ラキルはそう言ってその場を離れた。


 そして、互いの近況を報告し合うことにした。


「二人で開ける扉か……相変わらず先へ行ってるな、ハトヤ!」


「それをクリアできたら、さらに先に進むつもりだ。……早く追いついてこいよ」


「もちろんだ! ……ところで、ずっと気になっていたが……ハトヤの背中にぴったり隠れてる、その方は……?」


「ああ……ちょっとシャイみたいでな。《ネフィラ》って言うんだ」


 そう言って俺は一歩横に移動し、ネフィラの姿が見えるようにした――その瞬間。


「む……その子は……!」


 バレイが立ち上がり、なんとネフィラに武器を向けた。


「お、おい! どうしたんだ、バレイ……」


「貴様……ゴールドスカー側についていた、深紅のキューブ持ちだな!」


 その言葉に俺は驚き、ネフィラを振り返る。

 ネフィラは俯きながら、小さく――だがはっきりと頷いた。


「ちょっと! どういうこと!?」


 サナが声を荒げる。

 だが、不思議と俺は落ち着いていた。

 以前の俺なら――サナのように動揺していたかもしれない。


 だが、色々な経験を経て、鍛えられたのだろう。

 目の前の現実に、動じることなく向き合えるようになっていた。


「ネフィラ……詳しく教えてくれないか? どういう状況だったんだ?」


 バレイに視線で武器を収めるよう促し、ネフィラの顔を覗き込む。

 やさしく、穏やかに問いかけると、彼女はしばらくの沈黙の後――ゆっくりと語り始めた。


・・・


「レスター……何者なの……それに、“天力”ってなによ!」


 サナの困惑した声が響く。無理もない。

 ネフィラが語った内容は、これまでの常識を覆すものだったからだ。


 一つ――ネフィラは《ゴールドスカー》の一員ではなかった。

 彼女は“レスター”という名の男に付き従い、ヴィランツと共に行動していた。

 もう一つ――そのレスターは、レベル10装備をはるかに凌駕する未知の装備をまとい、シールドにすら傷一つつけられないという圧倒的存在。

 さらに、自分の正体について話しすぎると“話を聞いた側の記憶が消える”という謎の制限まであるらしい。


 わかっているのは――名前くらい。それ以外の詳細は、彼女ですら知らされていなかった。

 そして、“天力”という単語。

 それはスキルやスペルを“言葉に出さずに発動する”ために必要とされる力だという。


 ネフィラの話では、背中からその天力を“流し込まれ”、それが馴染めば発動が可能になるとのことだった。

 ――天力。


 その単語に、俺は妙に引っかかる感覚を覚えていた。

 なぜなら、俺も“スペルを口にせずに発動”できている。

 つまり、それは――俺自身も“天力を持っている”ということになる。


「ハトヤ……修練の塔を奪還したあとの記憶、曖昧なんだよね?」


「ああ……考えたくはないが、その時に――俺はレスターに会っていたのかもしれないな」


 そう口にすると、ネフィラが首を横に振りながら、


「……多分、会ってない。レスターが……ハトヤが“誰から無詠唱を教わったか”を聞き出せって言われたから」


 と、ぽつりと打ち明けた。


「それで……以前、あんな質問を?」


「……うん。ごめんなさい。言わなきゃ……ハトヤを殺すって……言われたから……」


 ネフィラは少し涙ぐみながら視線を落とす。


「しかし……危険だわ。そのレスターって人、本当にそんなに強いのなら……出会ったら、一瞬でやられてしまうかも」


 サナが焦りを滲ませるように言った。


「いや……多分、大丈夫だ」


 俺はゆっくりと首を振った。


「もし本当に手を出せるなら、とっくに襲ってきていたはずだ。就任式の時に自分が来ず、ヴィランツとネフィラに任せたことからも分かる」


「つまり……何か“制限”があるってこと?」


「そうだ。“自分のことを話しすぎると記憶が消える”って条件と同じく、手を出せない“誓約”のようなものが存在するんじゃないかと思う」


 そう言うと、サナは少し黙り込んだ後、ふっと息をつき、


「ハトヤ……前から落ち着いた性格だとは思ってたけど、なんだか……より磨きがかかってるわね……」


「ははっ。誉め言葉として受け取っておくよ」


 そう笑って返しながら、俺は腰を上げた。


「まぁ、分からないことをいくら考えても仕方がない。とりあえず、俺たちは先へ向かうよ」


 そうして立ち上がろうとしたとき、サナが小声で俺の袖を掴み、耳元でささやいた。


「ちょっと……ネフィラと一緒に行って大丈夫なの?」


「大丈夫だ。確かに、まだ全部を知ってるわけじゃない。でも……今のネフィラから、敵意のようなものは感じられない」


 俺は静かにそう返す。


「それに、どちらにしても人手は必要だ。一緒に同行してもらうよ」


「……そう。気を付けてね」


「ああ。ありがとう」


 俺はにっこりと微笑み、バレイに振り返った。


「バレイ。じゃあ、先に行ってくる」


「うむ! ……さぁ、我らももう少し休憩した後、狩りに戻るぞ!」


 そうして、再び俺たちは――ネフィラとはむまると共に、冒険の道へと歩き出した。

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