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異世界に逃げ込んだ犯罪者をPKするのが仕事です――ヒデンスター・ノヴァで命を狩る者  作者: 鳩夜(HATOYA)
第一部 第三章 最果てへ

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EP52 ギルド招待

 時刻はすでに24時を過ぎていた。

 静まり返った機構の谷を抜け、ギルドハウスに戻ってくると、外に設置された椅子に腰掛けるネフィラの姿があった。

 膝の上にはキューブを載せ、じっとそれを見つめていた。


「ネフィラ、まだ起きてたんだね」


 声をかけると、ネフィラははっとした様子でキューブを隠し、ぱたぱたと立ち上がる。


「おかえり……!」


 いつもの淡々とした調子で、だがどこか嬉しそうに返してきた。


「思ったより遅くなってしまったな。明日は昼前に出発する予定だ。だから……今日はもう寝よう」


 そう言いかけたそのとき、ネフィラが小さく声を発した。


「あの……」


 俺は足を止め、振り返る。


「ハトヤは……スペルを口に出さないよね? どうやって覚えたの」


 その問いに、俺は少し苦笑いを浮かべた。


「あー……それ、よく聞かれるんだけどさ。覚えてないんだ」


「記憶がないの?」


「うーん……それに近いかな。俺にはね、ちょっと曖昧な期間があるんだよ」


 それは、《修練の塔》奪還のあと。

 ちょうど半年ほどの期間にわたって、記憶がまばらに抜け落ちているような感覚がある。

 まるで夢を見ていたかのように、ところどころが霞んでいるのだ。


「すでに体に染みついててさ。だから、教えたり言語化したりするのは……難しいんだ」


 ネフィラは黙って聞いていたが、やがてこくんと小さくうなずいた。


「そう……」


「さ、明日に備えて寝よう。ネフィラはこの部屋使っていいよ」


 そう言って、俺はいつも自分が使っているベッドを指さした。

 ネフィラの目が一瞬見開かれる。


「ハトヤは……?」


「俺は外のハンモックで寝るよ」


「……わかった。ありがとう……」


 そう言って、ネフィラはためらいがちにベッドへ近づき、ふわりとシーツをめくってもぐり込んだ。

 その体がマットレスに沈んでいくと、彼女の表情がふっとやわらいだ。


「ふかふか……久しぶり……」


 その言葉を最後に、ネフィラはすぐに静かな寝息を立て始めた。

 俺は彼女の安らかな寝顔を確認し、そっと扉を開けて夜の空気へと身を投じた。

 明日はまた、未知の地平へと旅立つ――そのための、静かな夜だった。


 まだ完全に信用しきったわけではない。

 だが、思っていた以上にスムーズに次のステップへ進めそうで、正直ありがたかった。

 戦闘は基本的に《ゼロフラクチャー》で捌くつもりだし、スペルは同じギルドメンバーには効果を及ぼさない仕様になっている。


 ただ、《リープ》による高速移動がしにくくなるのは少し面倒ではあるが……まあ、それも仕方のないことだ。

 ネフィラも、俺と共に進む中で何かしらの目標や、自分の進むべき方向を見つけられたらいいのだが――

 そんなことを思いながら、俺はハンモックに身を預け、穏やかな眠りへと落ちていった。


・・・

・・


 ――翌朝


 目を覚ますと、ネフィラはすでに起床しており、ギルドハウスの裏手で黙々と素振りを繰り返していた。


「おはよう、ネフィラ。俺も付き合っていいか?」


 声をかけると、ネフィラはふわりと振り返り、小さく頷いた。


「もちろん……!」


 それから、俺たちは朝のトレーニングを共に行った。

 斬撃の角度、踏み込み、体幹の制御――どれも洗練されている。


「お疲れ。いい汗かいたな」


「うん……トレーニング、いつも一人だったから……嬉しい」


「毎朝やってるのか?」


「うん」


「なら、これからは俺も付き合うよ。一人より気付きがありそうだしな」


「喜んで……!」


 俺も日課としてトレーニングは欠かさず行っていたが、それより早く起きて動いているとは思わなかった。

 剣での打ち合いは一人ではできないし、これは俺にとってもいい刺激になる。

 学ぶことは多そうだ。


 とはいえ、今日はこのあと高レベル帯への遠征が控えている。

 無理は禁物だ。程々にしておかないと――


「よし、準備するか」


 昨日買い足した消耗品を取り出す。

 簡易テント、焚火セット、水と食料……あとは応急処置の道具一式。


「大体、均等にして二人で分けよう」


「ネフィラも、持っていいの?」


「もちろんだ。はぐれてしまったら困るからな」


「ありがとう……」


 そう言ってネフィラが受け取った背嚢を大事そうに手に取った瞬間――俺はふと思い出し、軽く額を叩いた。


「しまった、肝心なことを忘れてた」


 俺はキューブを操作し、ギルド設定画面を開く。

 そして、ネフィラを《はむまる隊》に招待した。


「同じギルドメンバーが二人いないと開けられない扉があるんだ。もしよければ、ギルドに入ってくれないか?」


「でも……知らない人と話すの、苦手……」


「そうなのか? でも安心して。《はむまる隊》には俺しかいない。ソロギルドだよ」


 そう言った瞬間、むまるが服の隙間から飛び出し、俺の袖をかじった。


「いてっ……! ごめん、二人だった……!」


 その様子を見て、ネフィラはふっと笑った。

 口元が少しだけ緩んだその笑顔は、昨日よりもずっと自然なものだった。


「じゃあ……入れてもらう」


 その一言で、《はむまる隊》に初めてのギルドメンバーが加わった。


「よし、早速行こうか!」


 そう声をかけ、俺とネフィラ、そしてはむまるは再び冒険の道を歩き始めた。

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