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異世界に逃げ込んだ犯罪者をPKするのが仕事です――ヒデンスター・ノヴァで命を狩る者  作者: 鳩夜(HATOYA)
第一部 第三章 最果てへ

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EP51 ラフリットへ報告

『ハトヤさん、お久しぶりです。帰還したんですね』


「ああ。進行ルートで詰まってな。とりあえず、一旦戻ってきたんだ」


 そう話していると、ネフィラがそっと通信画面を覗き込む。

 そしてラフリットの顔が映った瞬間、何かに反応したように、慌てて画面から顔をそらした。


『……ハトヤさん。先ほど映った方は……?』


「ああ、ネフィラっていうんだ。さっきまで行き倒れてたから、保護することになってな。でも、強いやつでさ。次の遠征には同行してもらうことにしたよ」


『そう……ですか。とにかく、お気をつけて』


「ああ、ありがとう。ところで、バレイは元気か?」


『ええ。副ギルドマスターとして毎日冒険に出ています。今は装備調達のため、レベル5エリアを調査中です』


 バレイは、DtEOの新体制発足に際して、ギルドマスターの座をラフリットに譲った。

 本人曰く――


「すまぬラフリット!! 事務作業をしたくないのだ! 我は冒険に行きたい!」


 そう土下座で懇願され、押し切られたらしい。


 ラフリットも最初は猛反対だったが、最終的には折れて現体制が決まったのだった。


(まあ……バレイらしいな)


『あ、ハトヤさん。そうそう、お伝えしておかねばならないことがありました』


「ん?」


『実は、2ヶ月前にハトヤさんの逮捕状は正式に取り下げられております。今なら、地球への帰還も自由です』


「おお、ありがとう! ……まあ、戻りたい気持ちはあまり無いんだけどな」


『ふふ、まあ恋しくなったら、いつでもどうぞ』


 ラフリットはそう言って笑っていた。

 その後、俺はレベル6エリアでの進捗と調査報告を一通り伝え、通信を終えた。


「よし、そろそろ必要な消耗品を買い足しておくか。ネフィラも一緒に来るか?」


 そう声をかけると、ネフィラは首を横に振った。


「ここで留守番してる……」


「そっか。じゃあ、クリーンタイムになる前にさっさと行ってくるよ。それと、DtEO本部にも顔を出しておこうと思ってる」


「……わかった。行ってらっしゃい」


 短いやりとりを交わし、俺はギルドハウスを後にした。

 行き先はマルチポータルタウン。買い出しと情報収集、そして久々のDtEO本部――。

 いよいよ再出発に向け、最後の準備を整える時が来た。


・・・

・・


 ――北部レベル0エリア 草原エリア クリーンタイム中 北部連合ギルド城


 夕暮れの空を赤く染めながら、草原にそびえる巨大な西洋風の城――それが、北部連合が占拠するギルド専用城だった。

 重厚な石造りの城は中央に堂々たる本丸を構え、その最頂部には、ひときわまばゆい輝きを放つ《宝珠》が鎮座している。


 城壁は二重に張り巡らされ、外郭と内郭それぞれに巨大な門を持つ。

 門そのものは開かれておらず、紫紺のシールドに覆われていた。

 侵入するためにはこのシールドを破壊する他なく、それはすなわち――正面突破を意味する。


 すでに第一の門は破られていた。

 今、南部連合の軍勢が第二の門を目指し、波のように押し寄せていた。


「死ぬ気で奥へ入れ! たとえここで命が尽きようとも、本当に死ぬわけじゃないッ!」


 戦場には無数の怒号と叫びが飛び交い、何百人もの冒険者たちが入り乱れていた。

 斧が振るわれ、スキルが飛び、爆炎と剣戟が響き渡る。

 そこはもはやファンタジーではなく、まるで戦国時代のような修羅場。

 最前線はシールドの残滓と火花に塗れ、地面すら見えぬほど戦士たちで埋め尽くされていた。


 一方で、北部連合は冷静だった。


「司令官! 第二の門前にすでに敵が雪崩れ込んでいます。増援を!」


 伝令の言葉に、司令官と呼ばれた男は微動だにせず、城壁の上から戦場を見下ろしていた。


「……このままで構わぬ。クリーンタイムの間、宝珠を守り切れば我らの勝利だ。むしろ、第二の門後方の防衛増員を急がせよ。それと、自身のシールドが割れた者は即刻退避せよ。無駄に命を捨てるな」


「承知いたしました!」


 伝令が駆け出していく。その背を見送りながら、司令官はなおも表情を崩さなかった。


・・・


 その戦場の様子を、遠くの丘の影からじっと見つめる男が一人いた。

 黒いローブに身を包み、フラットなフルフェイスマスクを被ったその男――名をレスター。

 ゴールドスカーに接触していた、謎多き存在。


「くくく……同じヒト族でも、ここまで馬鹿な連中だったとはな。すべてはおいらの杞憂だったかもしれねえ」


 レスターの声は、風にかき消されるように小さく響いた。

 その眼には、燃え盛る戦場がただの愚行にしか映っていなかった。

 想定していたより、はるかにレベルが低い。まるで統率のない野蛮人の集まり。

 星の中で争い、まとまることもせず、いずれ同じ場に立ち介入してくる可能性があったとしても……この程度なら恐れるに足らない。


「こいつらは勝手に戦ってりゃいい。おいらは――異色キューブを持つ者を探すことに注力するとしよう」


 そしてもう一つ。

 彼の脳裏には、一人の男の姿が浮かんでいた。


 ――ハトヤ。


 ゴールドスカーを倒した男。

 彼は「言葉に出さずにスペルを発動する」ことができた。それは《天力》の所持者にしか不可能な芸当――。


 誰が介入した? どこで教えられた? 偶然か、それとも意図された干渉か……。


「ネフィラが接触している。あいつから探りを入れさせようか。教えた人物がわからねーならそれでいい。だが、もし敵側の“計画”の一部だったとしたら……その時は――」


 レスターの口元が、不敵に歪んだ。

 風が吹き、彼の姿は砂塵の中に溶けるように消えていった。

 戦火の轟音のなか、誰一人として、その男の存在に気付く者はいなかった。

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