表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に逃げ込んだ犯罪者をPKするのが仕事です――ヒデンスター・ノヴァで命を狩る者  作者: 鳩夜(HATOYA)
第一部 第三章 最果てへ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

50/117

EP50 腕試し

 小屋から少し離れ、開けた場所へと移動した。

 そこで俺とネフィラは距離を取って向かい合っていた。


  《グレイデュオ》――正式名称は《アシェン&ソーンブレイド》。北部エリア・レベル5の最奥でのみ入手できる伝説級装備だ。

 この双剣には、ある特殊な性質がある。


 通常使用する場合は、性能こそ優れてはいるが、レベル5相当の威力にとどまる。

 しかし――

 シールドに干渉することで、その真価が解放される。

 自身、または相手のシールドが削れた際に発生するエネルギー。

 それを一定以上吸収することで、二つの剣は融合し、大剣モードに移行する。


 その火力は、俺の《リファレクションブレイド》をも凌ぐ。

 そしてこの世界においては珍しく、装備とキューブスペルの相性が極めて重要だ。

 大剣状態を維持しながら戦えるかどうかで、この武器の性能は天と地ほども変わってくる。


 ネフィラがどこまで使いこなしているのかは分からないが――


「……楽しみだな」


 俺は小さく呟きながら、ナイフを手に取った。


「じゃあ、ナイフが地面に刺さったらスタートだ」


 そう言って、ナイフを真上へと投げる。

 ――ザクッ。

 地に突き立った刹那、ネフィラが音もなく動いた。


「はやいッ……!」


 その初速は俺以上。だが――

 攻撃は単調気味だ。直線的な斬撃が多く、読みやすい。


 しかし連撃の速さそのものは本物。

 すべてを捌ききるには、かなりの集中が必要だ。


 そのときだった。


「ブラッドヴェイン!」


 ネフィラの声が響く。

 彼女の左手に握られていた剣の根元――そこに、深紅のキューブが装着されていた。

 赤黒い魔力が奔流となって溢れ、至近距離から一閃。


「ッ――!」


 俺は咄嗟に右へリープし、辛うじてそれを回避する。


(深紅のキューブ……! しかも、ブラッドヴェインだと!?)


 これは偶然か、それとも……。

 ブラッドヴェインは、自身のシールドを半分消費して放つ一撃必殺のスペル。

 して、それによって発生するシールド干渉エネルギーは、グレイデュオの合体条件にピッタリ合致する。


 加えて、もし《ブラッドオブスティグマ》まで使えば、相手のシールドを吸収して強化しながら戦える。完璧な構成だ。


(なんという相性……一つの完成形じゃないか……)


 これなら、大剣モードへの移行も容易。

 しかも、維持まで狙える。ここまで組み合わせが整っているプレイヤーは、そうそういない。


 だが――


「……使わないのか?」


 ネフィラは一向に大剣モードに変形させる気配がない。


(……まさか)


 しびれを切らした俺は、ゼロフラクチャーを発動。

 空間を砕き、ネフィラの周囲の時間を鈍足化させる。そして、そのまま駆け寄り、剣を突き立てた。


 ――戦闘終了。


 ネフィラは肩で息をしながら、目を伏せていた。


「なあネフィラ、なんで大剣モードを使わなかった? まさか……手を抜いたのか?」


 俺の問いに、ネフィラはわずかに眉を寄せ、険しい表情を見せた。

 そして、頭上に――「?」マークが浮かんでいるように見える。


「もしかして……知らない?」


 ネフィラは小さく頷いた。


「……なるほど。説明には書いてない隠し性能だからな。よし、教えてあげるよ」


 俺は微笑みながら、グレイデュオの真の使い方を、ゆっくりとネフィラに教えることにした。


 彼女には――可能性がある。

 今ここで物にできるのであれば、連れて行く価値は十分にある。


 ギルドにも所属していないようだし、何より……あの扉を開ける条件を満たすことができる。


 数時間後――。

 そこには、手慣れた動きで《グレイデュオ》を合体させ、大剣モードで訓練に励むネフィラの姿があった。


「……すごいな。元々、大剣を使っていたのか?」


「双剣の前はずっと使ってた」


「なるほどな……納得だ」


 俺は感心しながらも、先ほど教えた戦法について確認する。


「俺の言った戦い方、覚えてるか?」


「うん。ブラッドヴェインを打つ前に……いっぱい斬るとき、クロスオブスティグマをつける」


「そうだ。それをすればシールド値を維持しながら火力を出せる。忘れないようにな」


 彼女の吸収力は凄まじい。

 数時間前まで存在すら知らなかった大剣モードを、今や完全に自分の武器として扱っている。


「……よし、今日はしっかり準備しておこう。明日から、いよいよ再出発だ」


 そう声をかけると、ネフィラが少し不安そうな顔をしてこちらを見つめてくる。


「あの……ネフィラは……」


「……ああ、ちゃんと言ってなかったな」


 俺は右手を差し出しながら言った。


「粗削りな部分はある。でも、それは俺も同じだ。共に、先へ進もう」


 ネフィラの顔がぱっと明るくなり、俺の右手を両手でしっかりと握ってきた。


「……よろしく」


 そんなネフィラに微笑みを返しつつ、俺は懸案事項を思い出す。


(そうだ。一応、帰還の報告だけはしておくか……)


 俺はギルド通信用のキューブを取り出し、ラフリットに通信を繋いだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ