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EP5 DtEO本部

 五分ほど待つと、鎧に身を包んだ男が俺たちの前に現れた。

 全身を硬質なプレートで覆い、隙のない立ち姿。DtEOの構成員であることは一目で分かった。


「貴方がハトヤさんですね」


「そうだ。例の子はこっちだ」


 俺がリンカの方を指すと、男は一瞥して小さく頷いた。


「分かりました。では、転送設定を私の同行に変更してください。また……こちらの目隠しをお願いします」


「目隠し?」


「ええ。我々のアジトの場所が割れないようにするための規則です」


 まあ、そりゃそうだ。DtEOは犯罪者を取り締まる組織だ。

 当然、本拠地の場所を知られないようにするのは当然の処置だろう。


「分かった」


 俺は素直に頷き、それをリンカにも説明する。

 正直な話、ヒデンスターオンラインをプレイしていた人間ならすぐに分かる場所なんだけどな……。

 そうして、俺たちは目隠しをされたまま、DtEOのアジトへと転送された。


・・・


「到着しました。このまま真っ直ぐ進み、右手の扉に入場してください」


 目隠しを外すと、見覚えのある巨大な城が目の前にあった。


 ここは本来ならボスが出現する場所だ。

 ボスを倒せば、大量のエネルギーと装備がドロップすることから、多くのプレイヤーが挑戦し、そして敗れ去った。

 今ではDtEOが改装し、プライベート転送装置を設置して、直接ここに来られるようにしている。


 周囲には強力な魔物が徘徊しており、天然の要塞としても機能していた。

 それらが外部の侵入者を寄せ付けない鉄壁の防御になっている。


 ただ、フィールドを改造ができるのはDtEOだけではない。

 極端な話資材があれば誰でも出来てしまう。

 その影響で初心者向けの「修練の塔」がまるでスラムのような場所になってしまった。

 今では犯罪者たちが集まる危険地帯となり、とても近寄れる場所ではなくなっている。


「ハトヤさん! 久しぶりですね!」


「戻ってきてくれるんですか?」


 通路を歩いていると、すれ違うDtEOのメンバーが次々と声をかけてきた。

 俺はその都度、軽く会釈を返す。


 彼らは全員、何かしらの装備で顔を隠していた。

 犯罪者を地球に強制送還するという仕事柄、身バレは命取りになる。

 もし正体が知られれば、地球にいる家族や友人にまで危険が及ぶ可能性があるからだ。


 そんな状況の中、俺たちは右手の扉を開け、サナの書斎へと足を踏み入れた。


「久しぶりね、ハトヤ!」


 明るい声とともに、黒髪のポニーテールを揺らしながらサナが立ち上がった。


「ああ、一年ぶりだな、サナ」


 そして、サナの視線がリンカへと移る。


「そして、貴方がリンカさんね。私はサナ。よろしくね」


「よろしくお願いします」


 軽く挨拶を交わした後、サナは手を組みながら俺たちを見渡した。


「じゃあ早速だけど、退場できない理由を調べてみるわ」


「そうだな。後は任せたよ、サナ」


 そして、俺は書斎を立ち去ろうとした。


「待ちなさいよ!」


 背後からサナの鋭い声が飛んでくる。

 振り返ると、彼女はジト目で俺を睨んでいた。


「リンカさんを置いて行く気?」


「え? いや、俺がいても仕方ないだろう?」


 リンカの退場できない理由を調べるのはサナの役目だし、俺が横にいたところで何かできるわけでもない。

 そう思っての発言だったが、サナは呆れたようにため息をついた。


「とにかく、原因がわかるまでは居てよ。それにバレイが会いたがってたわよ。そこで時間つぶししといて」


「バレイか……そうだな、久々に顔を出すか」


 そうして俺は書斎を後にし、最奥の扉へと向かった。


「いるか? バレイ」


 扉を開けながら声をかけると、部屋の奥に座っていた人物が顔を上げた。

 全身をエメラルド色の金属鎧に包んだその男──バレイは、俺の姿を確認するや否や立ち上がり、満面の笑みを浮かべた。


「おお ハトヤ、久しいな!」


 がっしりとした手が俺に差し出される。俺も迷わずその手を握り返した。


「DtEOとうちが合併した時以来か!」


「ああ、そうだな」


 ガシッと握手を交わしながら、俺たちは短く言葉を交わす。


「もしや再加入する気になったか? お前のためにサブマスターの席は空けてある。いつでも──」


「ごめんな、バレイ」


 俺は少し肩をすくめながら答える。


「俺には、お前みたいな正義とか大義はないんだ。ただ、この世界を好きに楽しむだけさ」


 バレイは少し寂しそうに目を伏せたが、それでもすぐに笑顔を取り戻した。


「そうか……まぁ、気が変われば言ってくれ。いつでも歓迎するぞ!」


 そう言うと、彼は勢いよく俺の背中を叩いた。


「さぁ座ってくれ! 久方ぶりにヒデンスター・ノヴァについて語らおうぞ」


 そう言って、バレイは部屋の奥の棚へ向かい、飲み物を取りに行った。


・・・


 バレイと俺の付き合いは、ヒデンスターオンラインの時代からだ。もう五年以上になる。

 当時はギルドを組み、バレイがギルドマスター、俺がサブマスターとして、最前線を突き進んでいた。

 もちろん、サナともその頃からの付き合いだ。


 そしてヒデンスター・ノヴァが登場した時、俺とバレイは「この世界でも最前線を目指す」と意気込んで、ヒデンスターオンラインを引退した。

 全員がついてきたわけではないが、それでもギルドメンバーの半数以上が一緒にヒデンスター・ノヴァへ飛び込んだ。


 その後、俺たちは二年間、最前線を走り続けた。

 だが、DtEOが現れ、俺たちのギルドに接触するようになったことで、状況が変わった。


 正義感が強いバレイは、犯罪者を野放しにはできないと考え、DtEOとの協力体制を築き、最終的に犯罪者討伐部隊としてDtEOに合併した。


 その時、バレイは俺にも「共に犯罪者を地球に戻そう!」と誘ってくれた。

 ……だが、その時俺は首を縦に振らなかった。


「待たせたな!」


 バレイが飲み物を持って戻ってくる。


「そういえばハトヤ、スキル6は出たか?」


「でねえな。5すら出ない」


「やはりか! 我も1000本一気に作成したが……駄目だった」


「1000本!?  すげえな、規模が違うな!」


 そんな他愛もないヒデンスター・ノヴァの話で、俺たちは久しぶりに盛り上がった。

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