EP48 出会い
――ギルドハウス《はむまる隊》
帰還した俺は、倒れていた女性を布団に寝かせ、すぐさま水を取り出して声をかけた。
「君、飲めるか?」
彼女はうつろな表情でこちらを見て、震える手を伸ばそうとするも、力が入らないようだった。
「ごめん、ちょっと身体を起こすよ」
そう言って腰を支え、上体をそっと起こす。
そして水の入った容器を口元に運ぶと――
「……ゴク、ゴクゴク……!」
勢いよく、水を飲み干していった。
「……相当、のど渇いてたみたいだな」
安心する暇もなく、次に取り出したのはナッツと乾燥フルーツを混ぜ込んだふっくらとしたパンだった。
「これも……食べられるか?」
そう問いかけると、彼女の目がぱっと輝き、次の瞬間には勢いよくパンにかぶりついていた。
「食う元気はあるのか……よかった」
その姿に、自然と口元が緩む。
「俺はハトヤ。君の名前は?」
そう聞くと、彼女は小さな声で答えた。
「……ネフィラ」
「ネフィラさんか。食料はまだあるから、おかわりも出来るからな」
俺がそう言って立ち上がると、ネフィラはそっと俺の腕を掴み、まっすぐな瞳で言ってきた。
「……今のパン、もっと欲しい」
「うまかった? たくさん食べていいよ」
俺はキューブから追加でいくつかのパンを取り出すと、ネフィラは目を輝かせ、夢中でほおばり始めた。
どこかで見た光景だと思えば、はむまるが食事に飛びつく様子にそっくりで、思わず小さく笑ってしまった。
・・・
一通り食べ終え、俺たちはテーブルに向かい合って座った。
「ところで、君はなんであんなところで倒れてたんだ?」
「……食糧を、探してた」
「……あんなところで?」
「どこにあるか、わからなくて……」
……どうやら本気で食料を探していたようだ。
「食べ物を落とす魔物は、低レベルエリアにしかいないんだ。ここには1体もいないよ」
「……そうなの?」
「お腹がすいたら、草原エリアに行きな。レベル0の牛が食べ物をドロップするからな」
「……わかった」
(……しかし、あまり話そうとしない子だな)
しばし沈黙が流れ、俺はふと思い立って口を開いた。
「普通に腹が減ったら地球に戻るって選択肢もあるんだぞ? 無理にここにいることも――」
「地球には……戻りたくない。母に、たくさん叩かれるのはもう……嫌」
ネフィラの表情が、見る見るうちに陰を落とす。
(母親に虐待だろうか……。やはり、訳ありか)
「そうか……。じゃあ、ずっとヒデンスター・ノヴァにいるってことだな。……いつもはどこに?」
「……いつもいた場所は、もうない。何ヶ月も、一人だった」
俺は言葉に詰まり、少しだけ目を伏せた。
きっと、誰にも頼れず、どこにも行けず――孤独の中で生きてきたのだろう。
「……行く場所がないなら、何処か見つかるまで、ここ使っていいよ」
その一言に、ネフィラの表情がぱあっと明るくなった。
「……ありがとう!」
その素直な笑顔に、少しだけ胸が温かくなる。
「じゃあ好きにしといて。俺はちょっと、やることがあるんだ」
「……わかった」
そう言い残して俺は立ち上がり、設置していた《お知らせ掲示板》へと向かった。
三ヶ月ぶりの帰還だ。ログは山のように溜まっているに違いない。




