EP46 決着後……
――とあるエリアの郊外、燃え尽きた戦場の静けさの中。
「……ゴールドスカー、しんじまったか」
フラットなフルフェイスマスクの男の声に感情はなかった。
「レスター様、申し訳ありません……」
ヴィランツがうつむいたまま答えた。
「まぁ、いいさ。シールドが割れるまで戦ったんだ。生き延びることにも意味はあるからな」
レスターはヴィランツの肩をたたいた。
「ヴィランツ……」
ネフィラが小さく呼びかけて近づこうとすると――
「僕に触るな!」
振り払うような声。ネフィラの足が止まった。
「君には……本当に愛想が尽きたよ」
「え……?」
「なぜ僕が離脱した後、のこのこ戻ってきた!?君はシールドもポーションもまだ十分に残っていただろう」
「それは……その、一人だと……どうすればいいのか……」
しどろもどろの返答に、ヴィランツは鼻で笑った。
「まぁヴィランツ、落ち着けよ」
と、近くにいたレスターが割って入る。そして、ネフィラに向かってこう言った。
「とにかくネフィラ。お前は一旦、離脱しろ。こういう流動的な作戦には、向いてないようだ」
「え……離脱って、その後どうすれば……」
「好きにすればいいさ。結局、おいらの“天力”も、ヴィランツと違って、お前には馴染んでないみたいだしな」
「……いや、でも……次はきっと……!」
言いかけたネフィラの言葉を、レスターはため息混じりに遮る。
「ネフィラ……人がオブラートに包んで言ってる間に、おとなしく消える方が傷つかなくて済むんだぜ?」
「オブラート……?」
「”はっきり言うが――”もういらないんだよ。お前はな」
「頑張ろうって気概も見えねぇ。実際、まだ戦えるのに勝手に離脱とか……愚行そのものだ」
「一人で動けない奴は、例え“異色のキューブ”を持っていても……不要だ」
その言葉に、ネフィラの表情が明らかに変わった。
怒りでも涙でもない。ただ、何かがぽっきりと折れるような、そんな顔だった。
「ヴィランツ。別の奴を用意してある。明日からはそいつと組め」
「ええ、分かりました。助かります。こいつと組むなんてもう我慢なりません」
そう言ってヴィランツと男は立ち上がる。
「……よし、行くぞ」
「あ……待って……!」
か細い声が、虚空に吸い込まれた。
だが――彼らは振り向かなかった。
そして、ネフィラを置いて、ふたりは消えた。
・・・
・・
・
――地球:DtEO本部・庭園付近
午後の陽光が庭の芝生を穏やかに照らしているというのに、空気はどこか張りつめていた。
「……ブンキ所長。それは、本当に……絶対に間違いないんですか?」
ラフリットの声には、ほんの僅かな動揺がにじんでいた。
「ああ、間違いない」
ブンキと呼ばれた壮年の男が、眼鏡を押し上げながら答える。
「奴の檻は特別製だからな。何か異常があれば即座に警報が鳴る仕組みだ」
「……録画も遡って確認していただけたんですよね?」
「もちろんだ」
所長はうなずく。
「その間、ルド=グデスは一度も戻ってきておらん……」
「そう、ですか……ありがとうございます」
深く頭を下げるラフリット。その表情は冷静だが、その奥に何かがきしんでいた。
「やはり……ゴールドスカーは“別人”だったということですね」
「どの犯罪者だったのかは、これからの課題になりますが――」
「まずは……本物のルド=グデスが、ヒデンスター・ノヴァのどこに潜んでいるのか、調査しなければなりません」
ブンキ所長がうなずく。
「どちらにしても、まだまだ多くの犯罪者がノヴァに潜んでいる。我々DtEOの任務はこれからも続きますね」
すると、そこへ兵士の一人が慌ただしく駆け寄ってくる。
「ラフリットさん! ニナシが来ます! すぐにヒデンスター・ノヴァへ!」
ラフリットの目が鋭くなる。
「……わかった。ありがとう」
すぐにキューブを操作し、彼はヒデンスター・ノヴァへと消えた。
・・・
・・
・
――ハトヤ(はむまる隊)ギルドハウス
「……ふぅ」
ベッドの縁に腰を下ろした俺――ハトヤは、静かに息を吐いた。
「ゴールドスカーの討伐。一応、目的は果たせた……」
だが、どこか引っかかる。
「退場ボタンがなかったという、あの発言――あれは、気のせいだったのか。それとも……」
答えの出ない問いを振り払い、俺は天井を仰いだ。
「……ま、どっちでもいいか」
肩の力を抜いて、口元に笑みを浮かべる。
「これでようやく――本格的にエリアレベル10を目指せる」
ヒデンスターノヴァでは、かつてのVRMMOのように大規模ギルド連合で挑まなければならないと考えていた。
だが、実際は違った。
「リープスキルとキューブスペル――この二つがあれば、ソロでも戦える。装備を整えてから進むより、ダンジョンに潜ってユニーク装備を現地調達しつつ頑張ってみるか」
「ふっ……なんだかワクワクしてきたな。やっとだ。やっと、純粋にこの世界を楽しめる時が来た」
そうつぶやきながら、俺はベッドに身を横たえる。
この世界に来てからというもの、常に背中を押すような緊張と、殺気立った空気に晒され続けてきた。
だが、今は違う。
眠気が、久しぶりに穏やかに訪れていた。
――明日から、本当の「冒険」が始まる。
第二章 完結です!!
ここまで見ていただきありがとうございました。
第三章もまとまったら投稿していきます。
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