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異世界に逃げ込んだ犯罪者をPKするのが仕事です――ヒデンスター・ノヴァで命を狩る者  作者: TOYA
第一部 第二章 ゴールドスカーとの決着

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EP43 増援

「――二人同時に来ないのであれば、好都合ですね……」


 ラフリットは《S0 レッドサイズ》を正面に構え、静かに息を吐いた。

 目の前には、双剣を構えた黒髪の少女――ネフィラ。

 彼女が装備するのは、かつてラフリット自身が《ヒデンスターオンライン》で使っていた、

 異色のキューブのひとつ――深紅のキューブ。


 そのスペルは、2つ。

 

 一つは、[ブラッドヴェイン]。

 シールドを50%消費し、その3倍の威力の一閃を放つ高リスク高リターンの技。


 もう一つが、[ブラッドオブスティグマ]。

 キューブを直接敵に当てて発動し、相手のシールドを吸収する。

 先の消耗を補う、非常に効率的なコンボスペルだ。


「……!」


 ネフィラが地を蹴る。

 双剣を揺らしながら、一直線にラフリットへ突っ込んできた。


 瞬間、剣閃が乱れ舞う。

 ――速い……だが、読める。


 双剣は立体的な軌道を描き、左右上下からラフリットの身体を切り刻もうとする。

 だが彼女は、鎌を扇のように回転させ、的確に攻撃をいなしていく。


 左の剣が上から振り下ろされ――それを受け止めた、その瞬間。


「ブラッドヴェイン!」


 ネフィラの声が響く。

 彼女のもう一方の手、膝下あたりまで下げていた剣の根元で深紅のキューブが光を放った。

 赤黒い魔力の奔流が、至近距離から一閃。


 ――速い! この距離では、避けきれない!


 誰もがそう思ったその時。


「……ふっ!」


 ラフリットは、地面を蹴って跳び上がる。

 まさにギリギリのタイミング――風圧が髪をなびかせるほどの距離で、その一撃をかわした。

 地面が抉れ、焦げた跡が残る。


「今のを……避けるなんて……」


 ネフィラが驚愕に染まる。


「ふ……同じようなことを、昔何度もしてきましたからね」


 ラフリットが小さく笑みを漏らすと、ネフィラは不思議そうな表情を浮かべた。


「……でも。こうやって相対すると嫌ですね。深紅のキューブは」


 戦いながら、あの頃の記憶が蘇る――

 シールドを削ってでも火力を求めた、ギリギリの戦い。

 その全てを知っているからこそ、怖い。


「……ッ」


 ラフリットは呼吸を整え、気合を込め直す。

 すると――後方から、軽薄な声が響いた。


「ネフィラ!! 時間を掛けすぎです」


「私も参戦するので、さっさと終わらせますよ?」


 その声と共に、深緑のキューブを構えた男――ヴィランツが、

 巨大な斧を肩に担ぎながら、前へと歩を進めてきた。


「っ……来ますか、そちらも」


 ラフリットは舌打ちを心の中に留めながら、鎌を握り直す。


 深紅と深緑。

 同時に相手にするには、情報が足りなすぎる――だが、退く選択肢はない。


「……しかし、二人相手は少々分が悪いですね」


 ラフリットが呟いたその瞬間――

 背後から風を裂いて、一人の男が跳び出した。


「ならばこれで二対二だ!!」


 響くのは豪快な声。

 グランヴェイルメイスを振り上げながら、バレイが戦場に駆け付けた。


「バレイ!」


 ラフリットが驚きと共に名前を呼ぶ。


「おお、遅れてすまん! 逃げ遅れた人を避難させていたのだ。さあ、お主の相手は我が請け負う!」


 バレイのメイスが唸りを上げてヴィランツの頭上に振り下ろされる。

 だが――


「……力任せな方ですね」


 ヴィランツはその一撃を軽やかに回避してみせた。


「不意打ちにもかかわらず綺麗によけおったか……だが!」


 ――すでに足元では、“何か”が起きていた。

 ヴィランツの立つ地面から、緑色の棘やツタが噴き出す。


「これは……!」


 バレイのスペル、[エバーグロウスパイク]


 無数の植物が絡みつき、ヴィランツの足を捕らえていく。


「おやおや……色付きキューブでしたか」


「やっと私の仕事が来ましたよ」


 ヴィランツが余裕の表情で、自らのキューブを掲げた。


「パラサイト・コード」


 ――すると、バレイのキューブが鈍くくすんだ色に変化する。


「……なっ!? 我の緑が……!」


 同時に、足元から伸びていたツタが細く弱まり、拘束が解けていく。


「ふふ……私のスペルは“色付き”キューブに干渉し、弱体化させるのです」


「もう、使い物にはなりませんよ」


「なに……!」


 ヴィランツが冷笑を浮かべる。


「さて。色付きに頼り切った者は――ここで終わりだ」


 そう言った瞬間、バレイは咆哮と共に再びメイスを振るった。


「ふはは! 使えぬなら武器で戦うまでよ!!」


 重く、硬質な音。

 一打一打の攻撃に、ヴィランツは徐々に押され始める。


「ぐ……っ! 中々、力強い……ですね!」


 余裕の面は徐々に崩れ――そこに、ラフリットが動いた。


「――今だ」


 ネフィラの隙をついて一歩後退し、斜め後方へ大きく跳躍。

 旋風のように鎌を振るう。


「ザンッ!!」


 刃がヴィランツの背を切り裂く。


「なっ……!?」


 一瞬の隙に生まれた、決定的な破綻。


「はぁっ!!」


 バレイのメイスがヴィランツを地面へと叩きつけた。

 振動と共に、ヴィランツのシールドが砕け散る。


「ぐ、ぐぅぅっ……!」


 そして――ヴィランツが叫ぶ。


「パラサイトワーム!!」


 地面が割れ、緑の魔力を纏った巨大なワームが出現した。

 口を開いたそれは、バレイのスペル――[エバーグロウスパイク]を模倣し、

 ツタと棘を再発生させる。


「なっ……!」


 ラフリットとバレイは拘束された。


「はぁ……はぁ……くそっ……!」


「ネフィラ! シールドが割れました! 私は離脱する!」


「えっ!? ちょっと、待ってよ……!」


 ネフィラが慌てて武器を収め、ヴィランツを追って走り出す。

 ――二人の姿は、深緑の霧へと消えていった。


 ラフリットは、拘束を切り裂きながら呟く。


「……逃げてしまいましたか」


「まだだ! このワームを倒し、すぐに追うぞ。」


 ラフリットが振り向くと、バレイが口元に笑みを浮かべていた。


「……しかし、来ないかと思いましたよ」


「ふ……来るに決まっておるだろう。」


 バレイはメイスを構え直す。


「リンカとサナはそれぞれの塔を目指しておる。犯罪者はこの場所から逃がしはせぬ。」


 その眼差しは、ギルドマスターの頃から変わらない。

いつも見ていただきありがとうございます。

第二章はもうじき完結します。

第三章も引き続き頑張ってまいりますので、ブックマークと評価をどうか宜しくお願いします!

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