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EP4 DtEOへ

「自己紹介が遅れたな。俺は鳩廻はとかい 集矢しゅうやだ。君の名前は?」


「私は猫里ねこざと 凛花りんかです。先ほどは助けていただき、本当にありがとうございます」


 彼女は深々と頭を下げる。


「聞いておいてこんなこと言うのもなんだけど……ここでフルネームをむやみに言わない方がいい。」


「え……?」


「君のような青色のキューブ……色付きのキューブを持つ人間の情報は価値がある。フルネームが知られると、リアルでの個人情報を特定される可能性もゼロじゃない」


「……そんなこともあるんですね」


「だから、俺のことはハトヤとでも呼んでくれ。君のことは一旦リンカと呼ばせてもらう」


「分かりました……ハトヤさん」


「それと、一つ忠告しておく」


 俺はリンカの持つ青いキューブを指しながら言う。


「君のキューブは白じゃない。白以外のキューブは、このゲームでは激レアだ。不用意に他人に見えるように操作すると、さっきみたいなやつに目を付けられるぞ」


「そうなんですね……すいません……」


「別に謝ることじゃないよ。ただ、覚えておいてくれ」


 そう言いながら、俺は空を仰ぐ。

 この時間になると、"クリーンタイム"が近い。


「……もう21時半か。もうすぐクリーンタイムだ。そろそろ戻らないとまずいな」


「クリーンタイム?」


 リンカが不思議そうに首を傾げる。

 どうやら、彼女はクリーンタイムが何なのかを知らないようだ。


 ――説明するしかないか。


・・・


 クリーンタイムとは

 日本時間22時〜24時の間、セーフゾーンに一切入場できなくなる時間帯のこと。

 さらに、退場ボタンも消失し、この世界に残り続けることになる。

 クリーンタイム中に滞在できるのは、モンスターが徘徊するエリアのみ。

 そのため、大半のプレイヤーはこの時間が来る前にログアウトして地球へ帰還する。


 だが、最も危険なのは――

 「緊急脱出が発動しない」こと。

 通常、プレイヤーは防具と自身の強さを参照した透明のシールドを纏っている。

 シールドは一定のダメージを受けると破壊されるが、割れた時点で60秒後に自動でセーフゾーンに脱出する機能がある。

 シールドが割れたら逃げ回るだけで、ほぼ確実に生存できる。


 ――だが、クリーンタイムではこの緊急脱出機能が完全に停止する。


 シールドが割れた状態で更に一定のダメージを受けると、完全に死亡しこの世界には二度と入場できなくなる。

 クリーンタイムでの活動は非常に注意が必要だ。


・・・


「だから、早めに戻っておくんだ」


 そう言った俺に、リンカは戸惑った表情を浮かべた。


「……えっと。その退場? ボタンが無いです……」


「……まだあるだろ?」


 俺は自分のキューブを操作し、裏面を見せる。


「退場はキューブの裏だよ。ほら、『退場』って書いてあるだろ?」


「ほら!」


 リンカは他人に見えないようにしながら、自分のキューブの裏面を俺に見せる。


 ……たしかにない。

 本来ならあるはずの『退場』ボタンが、どこにも存在していない。

 俺は一瞬、絶句した。

 だが、リンカは静かに言葉を続ける。


「そもそも……ここはどこですか?」


「……え?」


「私は……悪質なストーカーから妹を守って刺されて……」


 彼女は自身の腹部をそっと触れる。


「……思い出せない……!」


 そう言いながら、その場にへたり込んでしまった。

 放っておける状況じゃない。


 ――地球に帰れないのなら……あいつに頼るしかないな。


「リンカさん、とにかく落ち着いて。安全な場所に行こう」


 俺はヒデンキューブを操作し、テレビ通話機能を起動する。

 そして、DtEO本部へと繋いだ。


 DtEO(デポーテーション・トゥ・アース・オーガニゼーション)

 ヒデンスター・ノヴァの出現後、国際機構が設立した犯罪者強制送還組織。

 通称DtEOディーティーイーオー

 ヒデンスター・ノヴァが出現してからというもの、囚人たちは次々とこの世界に逃げ込んだ。

 それを看過できないと判断した各国が手を組み、発足したのがDtEOである。


 犯罪者には半年間の帰還猶予が与えられ、それを過ぎても戻らない者は、帰還次第、即処刑が決定づけられた。

 そのため、猶予を既に過ぎている犯罪者たちはより慎重にこの世界へ隠れるようになった。

 DtEOの任務は、そうした犯罪者を見つけ出し、PKし、強制送還すること。


 クリーンタイムに帰還していない人間は、犯罪者の場合が多い。


『はい! こちら、デポーテーション・トゥ・アース・オーガニゼーションのサナです!』


 テレビ通話に映ったのは、黒髪のポニーテールの女性だった。


「……よく噛まずにそんな長い名前言えるな。DtEOを略さず言うの、お前くらいだぞ」


 俺がそう言うと、サナは驚いた表情を浮かべた。


『……ハトヤ君!?  ちょっと、1年間どうしてたのよ!?  連絡しても全然返事しないし……!』


「言いたいことは色々あると思うけど、今急いでるんだ」


『なに?』


「何らかの理由で、地球に戻れない子がいる。そっちで匿ってくれないか?」


『無理ね!』


 サナは即答する。


『クリーンタイムで帰還できないなんて、ほぼ犯罪者よ。私たちのPK対象かもしれないわ』


 ――まあ、そう言うのも当然だ。


「違う。そういうのじゃないのは俺が保証する」


『……どういうこと?』


「対象者の名前はリンカ。キューブの裏に、退場ボタンがない。 だから帰れない」


『そんな……!』


 サナの表情が一気に真剣になる。


『……わかった。すぐに迎えを寄越すわ。 そこで待ってて』


「ああ。でも急いでくれ。あと15分しかない」


『分かってるわよ!  とにかく待ってて!』


 そう言って、通話は切れた――。

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