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異世界に逃げ込んだ犯罪者をPKするのが仕事です――ヒデンスター・ノヴァで命を狩る者  作者: TOYA
第一部 第一章 犯罪者狩りのPKハンター

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EP30 死闘の結末

 【霊灯の街道 ― 最奥部《灯冥の間》】


 ――戦いの終わりを告げる静寂の中、俺のヒデンキューブに何かが転送される気配があった。

 ダメージ量に応じた報酬が、直接キューブ内部に格納されていたのだ。

 表示された報酬を確認する。

 目に飛び込んできたのは、大量の【エネルギー5】と、ひときわ異質な輝きを放つ【神器化結晶石】。


 だが、それだけじゃなかった。


「……これは、[S6(リープ)グランヴェイルメイス]……?」


 俺は思わず口にした。

 グランヴェイルの名を冠した、レベル5の武器。しかも――


「スキル6が付与されてる……!」


 すぐに俺はそれをキューブから取り出し、所有権を放棄した。

 そして、迷いなくそれをバレイに手渡す。


「見ろ、バレイ。固有ドロップ武器が、ゲームのときより遥かに強化されてる。これはお前が使ってくれ。俺にはもう、レベル5の装備は不要だ。」


 バレイは一瞬だけ躊躇したように目を伏せたが、やがて真っすぐに俺を見て、頷いた。


「……分かった。ありがたく、受け取らせてもらう。」


 そのやり取りの最中、サナが振り返って言った。


「見て、エリア5の扉が開かれるわ!」


 皆の視線が、ボスの奥にあった巨大な封印の扉へと注がれる。

 そこに刻まれていた封印文様が音を立てて砕け、ゆっくりと、大扉が開いていく――


「これで追いついたな、ゴールドスカー……!」


 しかし、それは決して喜びだけの瞬間ではない。

 フナシ隊は全滅、他の隊員たちも多くを失った。

 だが、それでもこの勝利は、予定よりも遥かに早い前進だった。


「犯罪者との戦力差も、まだ大きくは離れていないはずだ!」


 そう、これで追いつける。奴らに対抗する道が、ようやく見えたのだ。

 バレイが一歩前に出て、全隊へと指示を出す。


「まずはこの場所に拠点を築く! 各員、早速動き出してくれ!」


「了解!」


 仲間たちが動き出す中、俺はそっと、開かれた大扉の前に立つ。

 その先は白く、何も見えない光に満ちていた。景色も、音も、一切が遮られている。


「ハトヤ、行くのか?」


 背後からバレイの声が聞こえる。


「――ああ。幸い、超元気だ。どんな場所か、サクッと見てきてやるよ」


「ふ……お前は本当に、ぶれないな。」


 バレイは小さく笑い、視線を大扉の先へと移した。


「我々も、準備ができたらすぐに向かおう。ゴールドスカーに勝つには、時を止められても耐えきれるシールドを得るか、あるいは一撃で粉砕する火力を手にするしかない。どちらにせよ、装備の先行が一番の近道だ」


 バレイの言う通りだ。

 この先、隔壁ボスはもうレベル9まで存在しない。


 ――だが、レベル9まで行くには相当の時間がかかる。


 その間にも、あいつらの手で苦しめられている人がいるかもしれない。

 俺はバレイに頷き、何も語らず、大扉の向こうへと足を踏み出した。


・・・

・・


 【北部レベル5エリア:深淵の洞窟】


 そこは、北部に存在するレベル5エリア――“深淵の洞窟”と呼ばれる広大な地下空間。

 光すら届かぬその底で、ゴールドスカーの姿があった。

 周囲には、彼の仲間と思われる3名の人物。そして、首輪と鎖で繋がれた10名ほどの人間たち。

 奴隷。いや、“使い捨ての探索駒”と呼ぶ方が、より適切かもしれない。


 ゴールドスカーたちは穏やかに食事をとっていた。

 温かい香りが立ち上るその様子を、奴隷たちはただ虚ろな瞳で見つめるだけだった。


「……そろそろ行こうか」


 ゴールドスカーが立ち上がる。

 その声に、部下の一人が即座に反応した。


「了解です。立て、奴隷ども」


 鎖が鳴り、無理やりに立たされる人々。その中のひとり、年配の男性が指名された。


「次はお前だ。先行しろ」

「や、やめてください、お願いです……! 帰ったら、子供たちとこの世界で一緒に遊ぶって……約束してたんです……! 今、死んだら……もう、もう二度と……!」


 切実な懇願。だが、それに対するゴールドスカーの返答は冷酷だった。

 彼は静かにその男に歩み寄り――そして、口元に指を伸ばす。


「死ぬわけじゃないんだ……なんて軽い代償だろうか」


 そう言って、その舌を無造作に引っ張り出し、短剣で切り刻んだ。


「――ッ!!」


 苦痛にのたうち回る男。呻き声が響く。だが、ゴールドスカーは涼しい顔でつぶやいた。


「こうやって切り裂いても、数十分で治っちゃうから……楽しくないよね」


 男性に刃を突き立てながら言う。


「さぁ先行しろ。何かあったらすぐに知らせるんだ。いいな?」


 男は泣きながら、震える足取りで洞窟の先へと歩き出す。


「早くレベル6に行かないとね。装備をどんどん更新していこう。そして……DtEO共を全滅させてやらないとね」


 そう口にしたゴールドスカーは、残りの仲間と共にさらに洞窟の奥へと進もうとした――そのとき。


「……やぁ、ちょっとおいらと話をしないか?」


 不意に現れたのは、滑らかなフルフェイスマスクを被った謎の男だった。


 全身を覆うその装備は異様に洗練されており、ただ者ではない気配を放っている。

 即座にゴールドスカーは反応した。


「――オーバーライド・エターニティ」


 キューブを掲げ、発動。時が止まる。

 その男も例外なく動きを止められ――部下たちが刃を振るった。


 ……が、次の瞬間、時が再び動き出すと――その男には、傷ひとつついていなかった。


「おいおい、好戦的だねぇ。だが残念、おいらには“天力”ってやつが備わってる。それに装備も、お前らの10倍……いや、100倍くらい強いからな?」


 男の余裕ある口ぶりに、ゴールドスカーたちは一斉に戦闘態勢をとった。


「……君は誰なんだい?」


「答えてやりたいとこだけど、無理だ。下手においらの情報を伝えると、君たちの記憶が飛んじまうし、俺自身も元いた場所に強制送還されちまう」


「実際……おいら達は数年前に一度会ってる! でもお前は全く覚えてないだろう?」


 意味不明な言葉の数々。しかし男の様子は嘘ではなさそうだった。


「直ぐに信じろとは言わないさ……なら、挨拶代わりに“正しいスペルの使い方”ってやつを教えてやろう。まぁ、使いこなせるかどうかは本人次第だけどな?」


「そんなものは必要ない。僕たちは先に進むのに忙しいんだ。そろそろ消えてくれないか?」


「はっは、それが必要なんだって。スペル、スキル……“言葉に出して発動”させてるうちは、すぐに壁にぶつかるぜ?」


 ゴールドスカーの表情が険しくなる。


「どういう意味だ?」


「細かいことは後でいい。まずは武器を納めてくれ」


「……それを教えることで、君に何のメリットがある?」


「大いにあるさ。“邪魔されたくない”んだよ。おいら達の“戦争”をな」


 男は淡々と話し続ける。


「DtEOだっけか? それとお前らで争ってるんだろ? 大いに結構。だが、おいらの話を聞かなければあっという間にお前らは負ける」


 男の話は、抽象的で、断片的で、まるで現実味がなかった。

 それでも――ゴールドスカーは静かに武器を収めた。


「習得するのにどれだけ時間がかかる?」


「お前次第だが……三カ月から半年位はかかるだろう。だが、それくらいの時間を掛ける価値はあるぜ」


 異世界の闇の底で、異なることわりを持ち込んだ男の話に、耳を傾け始めたのだった。

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