EP29 幽輝王グランヴェイル
【霊灯の街道 ― 最奥部《灯冥の間》】
黒き霧が立ち込める空間に、幽輝王グランヴェイルが鎮座している。
王冠のような角飾りを戴き、片手に巨大なランタンメイス、もう一方の鎖には、うごめく影――シャドウウォーカーたち。
「いくぞッ!」
ラキルが咆哮し、ラキル隊がボスの前に立ちはだかった。
彼は大剣を振りかざしながら赤色のキューブを強く握りしめ、魔力を爆発させる。
「フレイムバースト!」
ラキルの放った火球がグランヴェイルに炸裂。続けざまに、地面から炎の柱が噴き上がる。
「ブレイジングストーム!」
赤熱の暴風が吹き荒れ、ボスの黒銀の鎧に無数の傷を刻んだ。
バレイは一歩下がり、緑色のキューブを操る。
「ワイルドバースト!」
鋭い緑色の衝撃波がボスを直撃し、その体勢を揺らがせる。
同時に、バレイは味方に向けて【フォレストベール】を発動。
淡い緑のシールドがラキルを包み回復、ダメージを軽減させた。
サナは黄色のキューブを叩きつける。
「サンダークラッシュ!」
雷光が爆発し、グランヴェイルの鎧を焦がす。
だがサナは、他の二つのスペルはあえて温存。シャドウウォーカー対策を優先していた。
そして――鎖がうねり、グランヴェイルが呻くと共に、無数のシャドウウォーカーが解き放たれる。
「来た! サナ隊、シャドウウォーカーを抑えろ!」
サナは即座に部隊を率いて動き、雷撃や剣で影たちを切り伏せていく。
バレイはその様子を注視しつつも、ラキルの支援に回り続けた。
戦況は苦しいながらも、わずかに、確かにボスのHPは削れていく。
だが――
「まただ……!」
シャドウウォーカーの召喚頻度が明らかに増してきた。
サナ隊の対応が追いつかない。
「ぐっ……!?」
悲鳴が響き、二名の隊員がシャドウウォーカーに飲み込まれ、粒子となって消滅した。
バレイは即座に判断する。
「バレイ隊から5名、サナ隊の援護に回れ!」
「了解!」
新たな援軍が加わり、なんとか影たちの数を捌き始めた。
だが当然、その分だけボスへの攻撃は鈍る。
さらに――
「まずい、また来る……!」
グランヴェイルの鎖が波打ち、さらに多くのシャドウウォーカーが呼び出された。
サナ隊とバレイ隊の連携でも追いつかなくなり、次々に隊員たちがシャドウウォーカーの牙に倒れていく。
人数はみるみる減っていった。
ラキルが歯を食いしばりながらグランヴェイルに斬りかかるも、ライフはまだ半分も削れていない。
(――このままじゃ、全滅する……!)
バレイの胸中に、冷たい焦りが渦巻いた。
もう、あと一押しで崩壊する。
絶体絶命の危機が、《灯冥の間》を支配していた――。
――その時だった。
・・・
・・
・
俺は全力でリープを駆使してバレイの元へと走っていた。
「バレイ! まだ生きてるか!」
空間に俺の声が響き渡る。
そしてそのままボスエリアへと飛び込んだ。
その手に握るのは、新たに完成した武器、【S5 リファクション・ブレイド】。
――ゼロフラクチャー!
即座にキューブを地に叩きつけ、空間に見えざる亀裂を走らせる。
範囲内にいたシャドウウォーカー9体全てが、動きの始まりと終わりだけを残し、鈍重なノロマに変貌した。
――リープ!
武器の先端からキューブを放ち、発動範囲内を跳躍する。
放たれた刃が一閃、二閃、三閃――
3体のシャドウウォーカーが瞬時に斬り裂かれ、消滅する。
だがその瞬間、【リファクション・ブレイド】の刃が砕け散った。
サナが心配そうに見守る中――
俺は構えを取り直し、即座に【ブラスト】を発動。
砕けた刃が、鮮やかに、完全な姿で再生成された。
「遅くなってすまない。だが――もう大丈夫だ」
再びリープで移動しながら、無傷のシャドウウォーカーを次々と斬り伏せる。
再生と斬撃を繰り返し攻撃を行う。
瞬きする間に、9体すべてのシャドウウォーカーが消滅していた。
「ハトヤ……! 本当に助かったぞ……! 目論見通り、刃は即座に再生成できるようだな!」
「――ああ。もはやこのレベル帯では最強の武器になった」
俺は静かに言い、また一度刃を煌めかせる。
次の瞬間、リープでボスの頭上へ瞬間移動し、三度、一閃。
重い衝撃音とともに、グランヴェイルの黒銀の鎧が砕け散った。
「グオオオオ……!」
黒い霧が爆ぜ、巨大な霊体が姿を現す。
《灯冥の間》の灯火が激しく燃え上がり、地面が崩れ始める。
「ライフが半分削れたようだ。第二形態に移行する! 地面が砕けて下に落ちるぞ!」
俺の声に、全員が備える。
やがて、幽輝王グランヴェイルは両手を天に掲げ、力を蓄え始めた――
無数のシャドウウォーカーを降らせる、最悪のチャージ攻撃。
だが、俺は迷わなかった。
――リープ!
一瞬でグランヴェイルに飛び乗る。
――ゼロフラクチャー
再び空間に走る見えざる裂け目。
幽輝王グランヴェイルの動きが、信じられないほどに鈍る。
俺は容赦なく、時間いっぱいまで斬り続けた。
刃が砕けても、即座にブラストで再生し、さらに斬る。
ゼロフラクチャーの効果が終わる――
次の瞬間、それまでに与えた膨大な累積ダメージが一気にグランヴェイルに降り注いだ。
――パンッ……
「グオオオオッッ!!」
幽輝王グランヴェイルは悲鳴を上げ、霧散するように消滅した。
《灯冥の間》には、一瞬だけ、深い沈黙が訪れる。
……そして。
「うおおおお!!」
バレイ隊、サナ隊、ラキル隊。
全員が歓声を上げ、武器を高く掲げた。
限界寸前だった彼らに、勝利の実感が、確かに、もたらされたのだった。




