EP28 武器制作、そして隔壁ボス
俺は作業台に拘束され、武器制作が終わるまでここから動けない。
バレイとラキルは、フナシを捜索するため隊を組んでいる
サナはギルド倉庫に残り、エネルギー4がどのように動かされたのかを改めて調査し始めた。
数十分後――
「ハトヤ、わかったわ!」
サナが駆け寄ってきた。
「エネルギー4は、全身レベル4装備を5人分作るために使われていたの!」
「……つまり、5人で出撃したってことか」
嫌な予感が脳裏をよぎる。
「もしかして――隔壁ボスに行ってるんじゃないかしら……」
サナはそう推測し、すぐにバレイへと連絡を飛ばした。
バレイからの返答はすぐだった。
「わかった。今すぐ向かう。霊灯の街道――最奥、《灯冥の間》だな」
ラキル隊、サナ隊を引き連れ、バレイたちはレベル4エリアの最奥へと急行した。
もし仮に、最大レベル4程度の装備で隔壁ボスに挑んでいたら――
その結果は、言うまでもない。
隔壁ボス。
幽輝王グランヴェイル。
黒銀の甲冑をまとった骸骨王。
鎧の隙間からは霊灯のような青白い火が漏れ、背中には無数の霊火を灯した灯籠マントが広がる。
周囲は常に夜のように薄暗い霧に包まれ、彼の一歩ごとに、地面からは無数の霊の手が伸び、近づく者を引きずり込もうとする。
巨大なランタン型メイス。
霊魂の鎖に繋がれたシャドウウォーカーの群れ。
そのすべてが、プレイヤーたちを容赦なく追い詰める。
バレイから、俺にもメッセージが届いていた。
『フナシはエリア4にいる可能性があり、調査を開始する』
ボスに挑んでいるなら――その末路は、想像するまでもない。
・・・
・・
・
霊灯の街道――最奥、《灯冥の間》。
フナシ隊は、すでに幽輝王グランヴェイルとの戦闘の真っ最中だった。
だが、そこにいたのは、
フナシと――残った隊員が、たったの二人。
隊員の一人が絶望に満ちた顔で叫ぶ。
「絶望的だ……ボス部屋、クリーンタイム状態だなんて……! やっぱり、皆で行くべきだったんです!」
――クリーンタイム。
シールド破壊後の緊急脱出発動しない、絶対絶命の時間帯。
だがフナシは顔を歪め、怒声を上げた。
「黙れ! 私は間違っていない! だいぶ削っているはずだ! 引き続き攻撃をするぞ!」
その叫びは、半ば錯乱にも近かった。
ボスの巨体がゆっくりと動く。
そして――ランタンメイスが、空気を切り裂く音と共に振り上げられた。
「ひい……っ!」
隊員たちが恐怖の声を上げた刹那――
ゴォォン!!という重低音と共に、巨大な一撃が直撃。
フナシは無様に吹き飛び、地面に叩きつけられた。
鎧に覆われた幽輝王グランヴェイルは、静かに、ゆっくりと歩み寄る。
足元から湧き出す霊の手が、フナシの身体を這うように絡み取ろうとする――。
・・・
フナシは地面に倒れ、身体が光の粒子へと変わりかけていた。
そこへ――バレイが駆けつけた。
だが、フナシの身体はすでにボロボロだった。
シールドは砕け、ライフすでにゼロ……回復スキルを使える状態ですらない。
そんな中、フナシは薄く笑いながらバレイを睨みつけた。
「……お前のせいだ。お前も……やられてしまえばいい……」
その言葉を最後に、フナシは光の粒子となって消滅した。
バレイは無言でフナシを見送った。
その表情は、悲しみでも怒りでもない、ただ冷たい覚悟の色を浮かべていた。
「さて、ボスエリアに入っちゃったわね」
サナが小さく息をつき、冷静に言う。
それにラキルも頷いた。
「ああ……やられるわけにはいかぬからな」
目の前には、隔壁ボス――幽輝王グランヴェイルが悠然と構えている。
【攻撃パターン】
・ランタンメイスによる強烈な一撃
・移動するごとに発生する【霊の手】による持続ダメージ
・霊魂の鎖から定期的に放たれる【シャドウウォーカー】たち
本来の作戦では、リヴィエール隊が回復支援を担当する予定だった。
だが、今ここにいるのはバレイ隊、サナ隊、ラキル隊――総勢30名だけ。
リヴィエール隊は、新たに発見された犯罪者アジトとの戦闘に手一杯で、合流は見込めない。
しかも、装備もレベル5ではなく、ほぼ全員レベル4装備のまま――。
状況は圧倒的に不利だった。
だが、もう引くことはできない。
この場でボスを討ち果たす以外、生き残る道はない。
バレイは即座に指示を飛ばした。
「ラキル隊! ボスへの攻撃に専念せよ!」
バレイは続けてサナへ向かって叫ぶ。
「我らバレイ隊は攻撃と回復を兼任だ。サナ隊はシャドウウォーカーの処理を最優先、余裕があればボスに攻撃を!」
「了解!」
各隊は武器を構え、配置に着く。
「いくぞ!」
バレイの号令と同時に、戦闘が開始された。
・・・
・・
・
――その頃、俺は。
製作完了まで、残り1時間。
作業台に括り付けられたまま、歯噛みしていた。
「……くそっ」
バレイたちにメッセージを送るも、返事がない。
ボスエリアに――
まさか、もう突入しているのか?
今すぐ様子を見に行きたい。
だが、製作を途中でキャンセルすれば、貴重な材料はすべて失われる。
ゴールドスカーを倒すために必要な、絶対に欠かせない武器だ。
「……早く完成してくれ……!」
ただひたすら、作業ゲージが進むのを祈ることしかできなかった。




