EP27 現状報告、そして……
「えっと、ちょっといいか?」
俺が口を開くと、全員が一斉にこちらを向いた。
「エネルギーの件なら問題ない。エネルギー5が100個、エネルギー6を10個持っている。とりあえず、レベル6の装備を作らせてもらうから、エネルギー5は50個は余ってるな」
その言葉に、場の空気が一瞬にして変わった。
「レベル6!? いったいどうやって入手したのだ!!」
「ハトヤさん、もしかしてこっそりレベル5エリアに入ったんですか!?」
みんなが一斉に驚きと興奮をぶつけてくる。
俺は手を上げて、落ち着くように促した。
「違う違う。簡単に言うと――隠しダンジョンに潜ってた。そこのドロップが良かっただけだ」
さらりと説明すると、バレイが腕を組んで唸った。
「……しかし、50個もあれば、レベル5の防具が作れるぞ? 本当に我らに渡してしまっていいのか?」
「構わないさ。俺はレベル6の武器で早期決戦を狙う。早く終われば、その分被弾率も下がるしな」
俺が笑って言うと、バレイは深々と頭を下げた。
「ありがとう……! ヒールは我に任せろ!」
頼もしい言葉だ。
「よし、早速武器を揃えよう! 1つにつきエネルギー5を10個・エネルギー4が50個必要だな」
こうして俺たちは、ギルドの武器製造施設へと向かった。
広々とした作業場に、煌々と照らされる炉と、エネルギーを充填するための巨大なキューブ装置。
皆、それぞれの希望武器の設計図を引き出していく。
「ハトヤ、ディストルーパーの素材でレベル6武器を作っちゃうの?」
「ああ。ちょうど試したいことがあるんだ。もしかしたら、大化けするかもしれない」
俺は頷きながら、作成可能武器を指さした。
【S5 リファクション・ブレイド】
漆黒の刀身に、不規則な赤い裂け目が走る異形のソード。
鍔はエネルギーが渦巻くリング状で、斬撃を三回放つと刀身が砕け、柄に宿る赤いコアが脈動し始める。
刀身が破壊された状態でスキル5【ブラスト】を放つと、刃が再生成される仕様だ。
サナが小声で呟いた。
「リファクション・ブレイド……ヒデンスターオンラインじゃ、不遇武器って言われてたわね」
「レベル6武器にもかかわらず、その威力はレベル7相当……」
「ただ、三度の攻撃で刃が砕けるから、結局、ブラストを撃てるタイミング以外は、しばらく刃がない状態で戦わなきゃならなかった」
サナの説明に、俺も頷く。
「……ゲーム時代はいろいろ試行錯誤したっけな。刃がない状態だけ武器を持ち替えるとか」
「でも、最終的には――」
「他のレベル6武器で絶え間なく攻撃する方が安定する、って結論になったのよね」
苦笑交じりにそう言い合った。
それでも――今なら、あの頃とは違う。
「普通ならそうだろうな。でも、俺が持てば話は変わるかもしれない」
俺は静かに言葉を紡いだ。
「スキル使用に待機時間がないからな」
その瞬間、サナとバレイはハッとしたように顔を上げた。
「た、たしかに! ハトヤの場合、スキルを連続で発動できるんだったわね……!」
「ああ。ただし――スキル6以外は、発動した瞬間に消えちまうから効果は無い。だが……刃の換装条件は"ブラストの発動"だ。発動さえすれば、刃は生成されるはずだ」
「うむ、試してみる価値はあるかもしれんな!」
バレイも力強く頷く。
「ああ……早速、作成に入る」
俺は作業台へと向かい、設計図を広げた。
カチリとキューブ装置が起動し、制作のための準備が始まる。
作成時間――3時間。
レベル5以下の装備なら10分程度で済んでいたが、レベル6以上になると飛躍的に時間が伸びる。
「3時間か。少し仮眠でもさせてもらうか……」
製作中は作業台に拘束されるため、俺はこの場から離れられない。
「我らはレベル5の武器準備を進めておくぞ!」
バレイがそう言い、サナと共に歩き出した――その時だった。
タタタタッ、と慌ただしい足音。
「バレイ! 大変だ……!」
駆け寄ってきたのはラキルだった。任務からちょうど帰還したのだろうか。
「任務で得た材料を入れようとギルド倉庫を見たら……エネルギー4が、ごっそり無くなっていた!」
「なに……!?」
バレイの声が低く響く。
「使用記録には……何も無いのか?」
ラキルは悔しそうに首を振る。
「だが、犯人は限られている。倉庫にアクセスできるのは、我と五名の分隊長だけだ」
DtEOには、バレイを総指揮官とする5つの分隊が存在する。
――対犯罪者部隊の、サナ隊、ラキル隊、リヴィエール隊。
――調査・補給専門の、フナシ隊、ログイ隊。
ラキルが説明を続けた。
「なくなったのは、今日の8時から今の時間までの間だ。8時に我が確認した時には、確かにあった」
「サナはその時間我と一緒にいたな。リヴィエール隊とログイ隊は北部調査で3日間不在……」
「……消去法でフナシ隊しかいないじゃない……!」
サナが憤りをあらわにし、すぐさま隊員に招集通知を飛ばすよう指示した。
しかし――
「メッセージ、送信できません! 端末が圏外になっています!」
隊員の報告に、全員が固まった。
「く……まさか……」
バレイの顔に、微かな険しさが浮かぶ。
「バレイ、フナシと何かあったのか?」
俺は訊いた。フナシのことは、正直詳しく知らない。
DtEOと合併した後、急遽加入した人物――それくらいの認識だった。
ただ、第一印象は――プライドが高く、外様の俺を嫌っている節もあった。
「……ああ、少しな」
バレイは苦々しい表情でため息をつく。
だが、隣のサナが堪えきれずに言った。
「少し、じゃないわよ! あいつ、何度も問題起こしてたの!」
サナは怒りを抑えきれない様子で続けた。
「勝手に"染色の扉"に突撃して部隊を半壊させたり、倉庫の素材を無断使用したり……フナシ隊の死亡率、異様に高いのよ。地球に強制送還された隊員、何人もいるんだから!」
「……なんでそんな奴が分隊長なんだ?」
思わず俺が訊くと、サナは悔しそうに眉を寄せた。
「フナシ……DtEOのえらいさんの息子なのよ。だから、首にしたくてもできないの!」
「そういうことか……」
組織が大きくなれば、避けられない"しがらみ"というやつだろうか。
状況が見えてきた。
だが、今は感情より行動だ。
「とにかく――我らで手分けして探そう」
バレイたちはその場から離れ、俺は一人鍛冶場に取り残された。




