EP23 最奥には……
レベル5エリアの魔物……やはり、格が違う。
ただ、純粋にレベル5にいる魔物よりHPは低いように思える。レベル4エリアの強さに多少は合わされているのだろうか。
だがそれでも、一体だけでこれだけの手応え。これが複数体で襲ってきたら、流石に今の俺でも厳しい戦いになるだろう。
ドロップしたエネルギー5をキューブに収めながら、ふと前方を見た俺は、岩でできた扉の存在に気が付いた。
「……まだ先があるのか」
慎重に、だがためらわずにその扉を開く。
その先には、円形に開けた小さな空間が広がっていた。中心には一本の鍾乳石。
そして、そこに――
「これは……」
鍾乳石の頂に、一本の赤く錆びた短剣が突き刺さっていたのだ。
まるで、誰かがずっとここに封印していたかのように。
「これがこのダンジョンの宝って事か……?」
俺はゆっくりとキューブを短剣に近づけた。すると、抵抗もなく、そのまま吸収されるようにアイテムは収容された。
表示されたアイテム名を見て、思わず声が漏れる。
「[S6 赤く錆びた短剣]……S6!? スキル6ってことか……!」
一瞬だけ「なんだこの錆びた短剣は」と疑問が頭をよぎったが、それをかき消すように胸の高鳴りが一気に押し寄せる。
レア装備、それもスキル6付き。
こんなにワクワクしたのは、いつぶりだろうか。
俺はその場で即座に短剣を装備した。そして、スキル情報を確認する。
スキル6:リープ
武器の先端から5センチほどのキューブを射出。
ヒットした地点まで放物線軌道でジャンプする。射程およそ25メートル。
「なるほど……俺自身がジャンプして飛び込む、ってことか?」
直感的に、これは距離を詰めるための突進スキル。
だが、少し拍子抜けしたのも事実だ。
もっとこう……凄い攻撃スキルみたいなのを想像していたんだが……
「とはいえ、25メートルってのはデカいよな。ジャンプでそんな距離、一気に移動できるスキルなんて滅多にないだろう」
スキル説明は一通り読んだ。でも、実際に使ってみなければ感覚は掴めない。
「よし、試してみるか……」
まずは声に出して発動してみる。
「スキル6:リープ!」
次の瞬間――
「……!?」
瞬きする間もなく、俺は前方へ瞬間的に移動していた。
「これは……」
感覚的にはジャンプというより、空間を裂いてワープしたような軽さすら感じた。
「なるほど……」
このスキルの異次元の可能性に胸が高鳴る。
まだ完全には慣れていないが、使いこなせれば唯一無二の最強のスキルになるに違いない。
・・・
・・
・
――二日後……
「……もうすぐ、湧く」
俺は小さく呟いた。
見慣れた空洞の奥、薄暗い闇の中に、ギギギ……という嫌な音が響きはじめる。
その瞬間、ディストルーパーが前方――およそ20メートル先に再び姿を現した。
やはりこの魔物、人間の存在を感知し20メートル以上離れた地点に出現するようだ。
理にかなっている。奇襲を防ぐための仕様ってわけか。
だが、今の俺には――
――スキル6:リープ
俺は静かに構えた。
そして、即座に狙った場所まで瞬間的に移動……ディストルーパーの背後――真後ろに俺は立っていた。
――ゼロフラクチャー
キューブを地面に叩きつけると、空間が無音で軋み、亀裂が周囲を覆った。
ディストルーパーの動きが一気に鈍化する。
「……終わりだ」
俺はそのまま、斬撃を幾度となく叩き込む。
そして、ダメージは一気に解放されそのまま消滅した。
そして、俺の手元には――
「エネルギー5、これで100個目か……エネルギー6は、10個目だな」
ディストルーパーのドロップ率は異常に高い。
さらに、エネルギー6まで落とすという事実から考えると、どうやらこの魔物……エリア5の隠しボスのような扱いなのだろう。
しかも、今回はそれだけじゃなかった。
「……これは、ディストルーパーの鏡、か」
この魔物固有のレアアイテムだ。
エネルギー6が10個、エネルギー5が50個、そしてこの鏡があれば――
「……レベル6の武器、作れるな」
代償として防具は一か所しか更新できないが、それでも十分だ。
新しい武器があれば、レベル4の隔壁ボスにも対抗できる。
一度倒すとしばらく奴は出現しない。
ひとまずその場で腰を下ろし、先ほどの戦闘を脳内で振り返る。
俺はここで、何度もディストルーパーと戦いながらスキル6《リープ》について、より理解を深めていった。
スキル6:リープ
本来は、射出されたキューブの位置まで放物線を描いて跳ぶスキルである。
だが、俺の特性――《零始終結》の影響で、ジャンプの“中間工程”が完全に消失している。
その結果、発動と同時に、狙った場所に即座に着地するという現象が起こった。
これはもはやジャンプではなくワープのようなスキルとなっている。
スキル6は、俺の干渉を受けても機能する唯一のスキルとなり、その効果は非常に強力なものへと昇華していた。
「ゴールドスカーと戦う時――このスキルが鍵になるかもしれないな」
そう呟きつつ、俺は次のディストルーパー出現を静かに待ち続けた。




