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異世界に逃げ込んだ犯罪者をPKするのが仕事です――ヒデンスター・ノヴァで命を狩る者  作者: TOYA
第一部 第一章 犯罪者狩りのPKハンター

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EP20 戦果は

 日が傾き始めた頃──。

 気がつけば、100体以上のシャドウウォーカーを狩っていた。


「エネルギー4が50個、エネルギー5は……5個か」


 確率で言えば、およそ5%。公称の3%よりは運が良かった方だ。

 とはいえ、レベル5防具を作るには、1部位あたりエネルギー5が50個必要だ。


 単純計算で、防具一式を揃えるには150個。つまり──


「5時間で5個……1時間1個のペースだと、150時間!?」


 一段階上のエネルギー集めは、やはり尋常ではなく効率が悪い。

 それでも──


 装備の“1レベル”上昇は、この世界では桁違いの差を生む。

 攻撃力、シールド、ライフ……すべてが数倍に跳ね上がる。


 だからこそ、あの《修練の塔奪還作戦》では、俺の攻撃一発で大半の犯罪者どもを瞬殺できた。

 レベル5武器にとって、レベル3以下の防具は──紙みたいなもんだ。


 しかも、スペルにも装備補正が付く。強い装備が、強いスペルをさらに強化する。

 ゆえに、この世界では“装備更新”が何よりも優先されるのだ。


「……1か月もあれば、揃うか? 久々に、がっつり狩り頑張るか」


 そう思い、そろそろ帰るかと街道を引き返そうとしたそのとき──


「……はむまる?」


 相棒が水面をじっと見つめていた。


「キュ……?」


 その視線の先、鏡のような水面に──泡が浮かび上がり始める。


「……なんだ?」


 音もなく、静かに、しかし確実に泡が増えていく。

 すると、泡の中心がぐらりと揺れ──突如、岩の裂け目のような《洞穴》が現れた。


「これは……!」


 間違いない、《隠しダンジョン》だ。

 エリア内に極稀に出現する、特殊なダンジョン。

 出現確率は染色扉並みの低さで、こっちは出現後すぐに消えるため、目撃した時点で即決が求められる。


「……迷ってる暇なんかねーよな。こんな機会、二度とないかもしれない」


 俺は飛び込んだ。泡の渦に包まれながら、視界が一変する。


・・・

・・


 目を開けた先には、広大な鍾乳洞のような景観が広がっていた。

 だが天井は高く、閉塞感はそれほどない。

 前方には長い傾斜が広がり、その先は闇に飲まれて見えない。


「今のところ魔物の気配はないか……助かる」


 この足場の悪さで魔物が出てきたら、かなり厄介な戦闘になる。

 俺は、暗闇に備えて[L-0 ドーンメイス]を手に取る。


 白銀の鉱石から作られたこのメイスは、打撃部が淡く発光しており、周囲を柔らかく照らしてくれる。


「……行くぞ、はむまる」

「キュ」


 慎重に、斜面を下りていく。

 足場は滑りやすく、少しでも気を抜けば転倒しそうだ。


「ヂヂ!」


 突然、はむまるが甲高く鳴いた。

 これは──魔物が近くにいる時の警告音!

 咄嗟に上を見上げた──その瞬間。


「うおッ!?」


 天井から、粘液のような何かが降ってきた!

 ねばねばしたそれを全身に浴び、反射的に動こうとした瞬間──足を滑らせた。


「ぐっ……!」


 鍾乳石にしがみつこうとするも、手はつるりと滑り、まったく掴まらない。

 そのまま──俺の身体は斜面を勢いよく滑り落ちていった。

 視界がぐるぐると回転し、まともに息ができないまま、落下が続く。


 ──ドンッ!


 ようやく地面に叩きつけられるようにして止まった。


「……くそっ……」


 ここは、青白く発光する奇妙な空間だった。天井は低く、2メートルあるかどうか。

 もし地球なら、確実に死んでいた高さだ。

 だがこの世界ではバリアは半分近くまで削れただけで済んだ。


 地面はまだ滑りやすく、起き上がるのにも注意がいる。


「……とにかく、前に進むしかないな」


 静寂が支配する空間。魔物の気配は、今のところ──ない。

 ふと気づけば、今日は一度も休憩していなかった。

 身体も重く、腹も減っている。


「……少しだけ休むか」


 俺は壁にもたれかかり、はむまるのいる方向を見た。

 この静寂の奥に、何があるのかはわからない。

 だが、それを知るためにも──まずは一息、整えておく必要がある。


 静寂に包まれた鍾乳洞の奥で、俺はキューブを取り出した。


「……よし」


 キューブから取り出したのは《簡易テント》。ワンタッチで展開される便利な代物だ。そしてその前に《焚火ユニット》を出す。

 火打石もマッチも不要。キューブから出した時点で、焚火は自動で点火され、周囲をぽうっと温かい橙色で照らした。

 設営の工程なんていらない。まるで“使う”を選択すれば、その場にぴたりと現れるような感覚。

 この世界での時間が長くなったせいか、最近では地球でもついキューブで「出せる」つもりで動いてしまうことがある。


「……慣れって怖いな」


 俺はキューブから《草原牛のスライス肉》を取り出し、《鉄板プレート》の上に並べて焼き始めた。

 ジュウ……という音と、肉の焼ける香ばしい匂いが周囲に広がる。

 ヒデンスター・ノヴァの草原エリアには、牛や鶏、うさぎ、魚など、動物の姿を模した魔物が多く存在する。

 奴らを倒すと、他の魔物同様、消滅して《食材キューブ》という形でドロップする。


 それをキューブから再出現させると、まるまる一頭分の死体が現れる。

 素人には扱いにくい状態だが、無人加工機に放り込めば、綺麗に部位分けされてパッケージされるから問題はない。


 食事を終える頃には、肉の旨味が身体中に染み渡っていた。

 ヒデンスター・ノヴァで食べる食事は、リアルと遜色ない……むしろ地球ではこんな大きなステーキを頬張る機会は滅多にないだろう。


 はむまるがナッツを頬張る姿を見ながらふと思い出す。


 この世界で腹を満たしても、地球に戻った時には──腹は“来る前の状態"に戻っている。

 相互の持ち込み不可なのは食った物も含まれるのかな……


「飢餓で苦しむ子供たちが、ずっとこの世界で暮らせたら、いつも腹いっぱいに食えるよな……」


 もちろん、それが解決になるとは言えない。でも──

 少なくとも、空腹で夜を越すことはなくなる。

 そんなことを考えながら、コーヒーの最後の一滴を喉に流し込む。


 そして、満腹になったお腹をさすりながらまたふと疑問がわいた。


「こっちで食べたもの、体の中でどう処理されてるんだ?」


 トイレに行きたくなることもない。腹を下すこともなければ、ガスが溜まることもない。

 もしかすると、摂取したものは全てエネルギーに変換されて、無駄なく消費されてる……?

 そんなファンタジー理論が浮かんできた。


 リアルとファンタジーの境界が曖昧なこの世界。


 だからこそ、ふとした瞬間に「ここはゲームなんだな」と思い知らされるのかもしれない。

 焚火の残光を横目に、俺はテントの中に入り、寝袋に身体を沈めた。

 静かな世界。眠気が、じわじわと意識を溶かしていく。

 ──しばらく、目を閉じよう。

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