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EP2 マルチポータルタウン

「変わらず人が多いな」


 転送先は、[マルチポータルタウン]。この世界のセーフゾーンであり、誰も死ぬことがない場所だ。

 広大な敷地に無人の武具販売所や食料販売所が点在し、人々があふれている。

 転送と同時に、地球でのスーツ姿は消え、紺色のレザーコートをまとった姿へと変化した。

 髪は銀色のパーママッシュヘアーに。

 髪型は変わらないが、黒から銀へ変わるのは最初驚いた。


 ――どうせなら顔もかっこよく変えてほしかったが、そこは変わらないままだ。


 地球の物は一切[ヒデンスター・ノヴァ]に持ち込めない。逆もまた然り。

 [ヒデン・キューブ]だけは例外だ。


 ――その時、レザーコートの内ポケットがごそごそと動いた。


「はむまる! 元気にしてたか?」


 俺の掌に乗ったのは、一匹の小動物。

 見た目は完全にゴールデンハムスターだが、俺のいない間にアイテムを集めてくれる頼れる相棒だ。


「おお、今日は甘い木の実と銅鉱石を手に入れたのか! えらいねえ~」


 俺はそう言いながら、[最高級の種・デラックスナッツ]を手渡した。


「キュッキュ!」


 はむまるは嬉しそうにナッツを頬張る。

 俺は相棒の姿を見ながら、これから向かうべき狩場を思案した。


「さて、メタルダガーか……在庫あったかな」


 俺はヒデンキューブを出現させ、操作メニューを開いた。

 ヒデンキューブは地球では入場ボタンと換金項目しかないが、こちらの世界では通話や倉庫機能、エリア間テレポートなど、さまざまな機能が解放される。

 まさにこの世界の中核を担うデバイスだ。


「げ、[3エンハンス]はあるけど[2ウォール]が無いな」


 倉庫の一覧を見て、思わず苦い顔をする。


「露店で買えば……2500ゴールドか。2.5コイン相当だから、ほぼ儲けがないな」


 わざわざ買い付けていては、ほとんど利益が出ないどころか、手間の分赤字になりかねない。


「仕方がない。在庫調達を含めて狩りに行くか」


 俺はヒデンキューブの画面を切り替え、テレポート先と魔物一覧を表示する。

 メタルダガーの素材である「ベーシックメタル」を落とすのは……レベル1黒き森林に生息する《ストーンクロウラー》だ。


 《ストーンクロウラー》――見た目は巨大な岩塊にしか見えないが、よく観察すれば表面が微かに脈動し、まるで生きているようにうごめいている。

 全長3メートル、四足歩行の岩の獣。

 ゴツゴツとした不揃いな岩肌が特徴的だが、その外見に騙されてはいけない。

 あいつの頭突きは見た目以上に素早く、まともに食らえばシールドが砕ける危険すらある。


「さて、行くか」


 俺はレベル1黒き森林を選択し、転送ボタンを押した。その瞬間――

 視界の端に、青色のセミロングぱっつんヘアの少女が映った。

 彼女は周囲に無頓着な様子で、自身のヒデンキューブをじっと見つめている。

 そのキューブの色――青色に見えた。


(……青色のヒデンキューブ?)


 一瞬、目を疑った。

 地球では、ヒデンキューブの色は「真っ白」が基本。

 もし違う色を持っているなら、他人に見られないように慎重に扱え――そんな注意喚起が、テレビでも連日流れている。


「……見間違いか?」


 意識の片隅に疑問を残しつつ、俺の身体は粒子化し、転送が開始された。


 ――次の瞬間、黒い森林へと降り立つ。


 ここは、葉が黒く染まった木々が鬱蒼と生い茂る薄暗い森。

 日の光がほとんど届かないため、視界は悪く、魔物の奇襲を警戒する必要がある。


(相変わらず、不気味な場所だな)


 慎重に足を進めながら、辺りを見渡す。

 ……この森では、魔物だけでなく、「人」にも警戒しなければならない。


 ヒデンキューブを操作し、マップを取り出す。

 過去にストーンクロウラーを目撃したポイントをチェックし、装備を倉庫から取り出した。


「ストーンクロウラーには、この武器が良いか」


 俺はヒデンキューブを操作しながら、[S0 スパイクダガー]を取り出した。

 [S0]――スキル番号が"0"という事なのだが、スキルなしの武器を表している。

 スキルがない分攻撃力に補正がかかり、純粋なダメージは高くなっている。


 この世界はレベル制ではない。

 ただし、熟練度のような概念はヒデンスターオンラインと同じく存在し、一定の熟練度がなければ装備できない武器や防具があるようだ。


 とはいえ、熟練度の数値は可視化されていない。

 どの程度の熟練度があるのかは、装備を試してみて「つけられるかどうか」で判断するしかない。


「ヒデンスターオンラインでは、数値が見えて便利だったんだけどな……」


 ぼやきつつ、目の前の地形を確認する。


 ――居た。


 黒い木々の奥、石畳のような皮膚を持つ《ストーンクロウラー》が一体。

 俺は少し距離を取った状態で、そいつの正面に立った。

 俺の気配を察知したストーンクロウラーが、すぐに突進の態勢に入る。


「……来る」


 俺はスパイクダガーを逆手に持ち、顎あたりで構えながら、中腰になるまで腰を落とした。

 スパイクダガーは、太く鋭い刃を持つ刺突特化の武器だ。

 打撃武器ほどの破壊力はないが、硬質な魔物相手には十分な効果を発揮する。


 ストーンクロウラーは、一切迷いなく一直線に突進してきた。

 俺はその場から動かず、タイミングを見計らう。


 ――寸前のところで、身体を落とす。


 同時に、構えていたダガーを相手の胸部へ向けて下げ、左手で柄を支える。

 そして、突進の速度を利用しながら、ダガーを深く押し込むように突き刺した。


「グォォォ……!」


 魔物は短い咆哮を上げると、粒子となって霧散した。

 その場に、ヒデンキューブと同じくらいのサイズの白く発光する箱が二つ、ポトリと落ちる。


 俺はそれにヒデンキューブを近づた。

 すると光の粒子となり、デバイスの中へと取り込まれる。

 はむまるから光を受け取ったときと、同じ感覚だ。


 すぐに入手アイテムを確認する。


 ――エネルギー1と、ベーシックメタル。


「おお、いきなりゲットか! 幸先が良いな」


 魔物を討伐すると、確率でエネルギーと固有の素材がドロップする。

 エネルギーは数字が大きくなるほど、強力な魔物でないと落とさない。

 ヒデンスターオンラインではエネルギーは10まで存在したが、ヒデンスター・ノヴァではレベル4エリアでドロップしたエネルギー5までしか確認されていない。

 何故ならレベル4エリアの魔物の時点で超高難度で激戦必至でクリアが難しいからだ。

 だからゲームとは違い、現状エネルギー5がこの世界でみる最高ランクのエネルギーだ。


「この調子で、あと5本分は集めたいな」


 武器を制作するとき、基本的にはスキルは1〜6のランダム。

 自分でスキルを選ぶことが出来ない為、多めに調達しておく必要がある。


「さて、周辺情報を確認するか」


 俺は再びヒデンキューブを操作し、マップを表示した――。

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