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異世界に逃げ込んだ犯罪者をPKするのが仕事です――ヒデンスター・ノヴァで命を狩る者  作者: TOYA
第一部 第一章 犯罪者狩りのPKハンター

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EP17 犯罪者狩りのPKハンター

「……やっと見つけたぞ、犯罪者共」


 俺は《南部レベル1エリア 黒き森林》を調査していた最中に、指名手配されている犯罪者3名を発見した。

 木々の間から顔を覗かせると、向こうもこちらに気づいたようだ。


「なんだお前は……DtEOの人間か?」


 そう言いながら、3人は武器を構えた。

 だが俺は静かに首を横に振る。


「違うな。俺は……個人的に、犯罪者をPKして回ってる者だ」


「ちっ、舐めやがって!」


 次の瞬間、3人が同時にスキルを発動した。


「スキル4! バインド!」


 声と同時に、バインドが射出される。


 だが俺は、左手の黒と白銀時計模様で輝くキューブをスッと空中にかざし、心の中で念じた。


 ――ディスラプションカット


 刹那、空間が裂けるような軌跡が走り、放たれたバインドは跡形もなく霧散した。

 拘束魔法は俺をかすめることすらなく、後方の木に突き刺さり、消滅する。


 ディスラプションカット


 敵の攻撃やスキルの“中間工程”を完全に消失させる技。

 スキルやスペルの発動起点を読み、瞬時に狙わなければならないが、

 成功すればほぼ全ての攻撃を無効化できる。


「おい……こいつのキューブ、まさか……!」


「ぐっ、お前……犯罪者狩りか!」


「今さら気づいても遅えよ」


 俺は一歩踏み出し、キューブを地面に叩きつける。


 ――ゼロフラクチャー


 周囲の空間がピキリと軋むように歪んだ。

 3人の身体が淡く発光し、動きが鈍くなる。

 その一瞬を突いて、俺は大剣を抜き放ち、光る残像を描きながら斬り刻む。

 3秒後、敵の発光が収まった。


「な、なんだ? ダメージがな――」


 言い終える前に、それは起きた。

 蓄積されていたダメージが一気に解放され、3人の犯罪者を襲う。

 シールドが砕け、ライフごと粉々に砕け散り、彼らの身体は粒子のように消えた。


 ゼロフラクチャー


 キューブを地面に叩きつけ、周囲に見えない“亀裂”を走らせる。

 空間内の敵を「始まり」と「終わり」に分断し、発光中のダメージを蓄積。

 一定時間後にまとめて解放することで、大ダメージを与えることができる。


 効果は絶大だが、同じ相手に繰り返し使えば効果時間が短くなる。連戦には向かない技だ。


「ふう。もう少しスマートに倒せたな……」


 キューブが覚醒してから、俺はひたすらスペルの使用と実験を繰り返し理解を深めていった。

 その過程で、スキルやスペルの“発声”を省略しても発動できるようになっていた。


 ……ただ、それがいつ、どうやって可能になったのか。どうしても思い出せない。

 まるで、記憶の断片だけが意図的に抜き取られているような、そんな感覚すらある。


 俺のキューブは、他のプレイヤーのものと明らかに違う。


 スペルも《零始終結ゼロ・トゥ・エンド》……“始まり”と“終わり”に特化しているようだ。

 異色キューブのスペルは、今のところ二つだけ。


 異色のスキルが二つというのは、かつて俺がやり込んだゲーム《ヒデンスターオンライン》と同じだった。


 問題は、このキューブがゲームと同じく“神器化”するかどうか――


 もし、金色のキューブを神器化されたら非常にまずい。

 絶対に阻止しなければならない。


 ……さて、今回のPKについて、DtEOに報告しなきゃな。


 依頼を受けてから5日後。

 俺は犯罪者3名を発見し、即座にPKを決行。

 その内容を淡々と報告書に記載し、DtEOへ送った。


「……今日は帰るか」


 そう呟いて俺は退場ボタンを押し、ヒデンスター・ノヴァを後にした。

 目を開けたその場所は、いつもの鳩廻事務所――地球の、俺の帰る場所だった。


「……ふう」


 地球に戻った俺は、事務所のソファに腰を下ろし、コーヒーメーカーのボタンを押した。

 部屋に広がる香ばしい匂いに、一息つく。


 ――修練の塔を制圧してから、もう半年か。


 この六ヶ月、ヒデンスター・ノヴァの世界ではさまざまな動きがあった。

 一番大きなニュースはやはりDtEOによる《修練の塔》の制圧作戦だ。

 あのスラムと化した塔から犯罪者を一掃したニュースは、瞬く間に世間をにぎわせた。


 DtEOの功績は称賛され、その結果、活動資金も増加。

 組織は一気に知名度を上げ、一般市民にも名前が知られるようになった。


 ……ただその副作用もあった。


 人権団体が「犯罪者にも更生の機会を」だの「PKは殺人と変わらない」だのと、次々にクレームを入れてくるようになったのだ。

 その対応に追われたサナは、一時期ひどくやつれていた。

 パソコンの前で顔をしかめる姿は、なかなか見られないレアなものだったが……見てて気の毒だった。


 だが、主要国の大統領が公式にこう声明を出してからは、さすがにクレームもピタリと止んだ。


「ヒデンスター・ノヴァに逃げた犯罪者に、我々は半年の帰還猶予を与えた。それ以上の慈悲は与えない。自称人権団体が足を引っ張るのなら、しかるべき対応を取っていく」


 言葉の重みが違ったんだろうな。

 ……まぁ、それでも完全には収まってない。


 今でも、比較的軽微な罪で逃げ込んできた犯罪者をDtEOがPKすると、決まって馬鹿みたいなクレームが飛んでくる。

 そういった「炎上案件」は、俺が“依頼”という形で代行している。


 DtEOが関与しない“ただのプレイヤー”によるPKなら、抗議の入れようがない。

 俺はあくまで、プレイヤー個人として行動しているにすぎないのだから。


 ……犯罪者狩りのPKハンター。

 気が付けばそんな風に呼ばれている。


 あの日、修練の塔で全てを見て、俺は決意した。

 この世界から犯罪者を追い出す、と。


 だが、それでも――最初は、やはり躊躇いがあった。

 俺の手で直接殺しているわけじゃない。

 ヒデンスター・ノヴァから“退場”させているだけだ。

 だが……その先に待っている現実は、十分に知っている。


 俺は、間接的に――次々と犯罪者たちを“殺している”のだ。


 その事実に、胸が軋んだ日々もあった。

 だが……三ヶ月も経てば、抵抗は自然と消えていた。


 ――これが良いことだとは、決して思っていない。


 けれど、今なら言える。

 「ゴールドスカー」にとどめを刺す時、俺の中に迷いが生まれることはないだろう。

 

 DtEOもまた、同じように歩みを進めていた。

 かつて犯罪者の巣窟だった修練の塔は、そのままDtEOの本部へと改装され、セキュリティも大幅に強化された。


 “クリーンタイム”にログアウトできなかったプレイヤーたちを保護できるよう、塔には常時保護スペースが確保されている。

 そして、塔の中には警備部隊が常駐し、定期的に魔物を掃討して回っている。


 それにより、塔周辺は純粋に《ヒデンスター・ノヴァ》の世界を楽しみたいプレイヤーにとって、より安全な冒険の場へと変貌を遂げていった。


 俺たちの戦いは、まだ終わらない。

 だが、少しずつこの世界は確実に変わってきている。

 そして俺もまた、このヒデンスター・ノヴァで、少しずつ前に進んでいるのだ。

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