表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に逃げ込んだ犯罪者をPKするのが仕事です――ヒデンスター・ノヴァで命を狩る者  作者: 鳩夜(HATOYA)
第二部 第一章 開拓編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

102/115

EP102 帰還後

 拠点に戻ると、そこはいつも通りの――いや、少しだけ寂れた作業場だった。

 大きな雨除け屋根の下には、いくつもの作業台。テーブルと椅子、そして俺が仮眠をとるためのハンモック。

 とりあえずは生活できる。だが、“とりあえず”でしかない。


「うわぁ……村のほうがよっぽどいい生活じゃない?」


 メルヴェは心配そうに辺りを見渡しながら言った。


「はは、まぁこれから作っていくよ。これはこれで落ち着くよ?」


「落ち着く……の? ほんとに?」


 その顔はどう見ても信用していなかった。


 そんな他愛のないやり取りを交わしながら、俺たちはテーブルについた。

 外では、はむまるが木の実を抱えて何やら嬉しそうに跳ねている。


「さて、何から聞けばいいのか……とりあえずはメルヴェ、君のことを知りたい」


「そうだよね……」


 メルヴェは小さく息を吸い、真剣な表情になる。

 そして、静かに語り始めた。


「ボクは“未来人族”なんだ。ハトヤたちと同じように、母星を失ってローカル世界に入場したの」


「そうだな。人族から未来人族に変わったんだったな」


「うん。レベル10を達成した後、ボクたちはここに似た無人島に降り立って開拓を始めた。

 百年後――その島が動き出して、グローバル世界に統合されたんだ」


 メルヴェの声はどこか懐かしさを帯びていた。

 だが、その瞳の奥には、深い悲しみが見え隠れしている。


「でもね、その統合のあとが地獄だった。

 戦争推進派が、議論もなしに他の種族へ攻撃を仕掛けたの。

 そのせいで、いまだに戦争が続いてる」


「……君は反対派、か」


「うん。ボクたちは“戦争反対派”だった。

 でもね、少しずつ迫害されていったんだ。

 そのうち、“人員が足りない”って理由で、ローカル世界で平和に暮らしてた人たちまで拉致されるようになって……」


 メルヴェの声がかすれる。

 涙が頬を伝う前に、彼女はぎゅっと拳を握りしめた。


「そんなとき、科学者だったボクのおじいちゃんが“この世界の構造”を発見したんだ。

 グローバル世界は、上層と下層――二層構造になっていて、下層には無数の島が点在しているって」


「下層……?」


「そう。おじいちゃんは座標を固定して、ある島を指定した。

 そして、反対派のみんなを次元転送でそこに逃がしたの」


「それが……あの村、ってことか?」


「そう。とても広い島だったから、あとからローカル世界にいた人たちも救い出してね。

 たぶん、天族にならずにグローバル世界に来たのは、ボクたちが最初だったと思う」


 メルヴェは遠くを見つめるように言った。


「でも――平和は長く続かなかった」


「管理者、か」


「うん……。突然、“管理者”を名乗る者が現れたんだ。

 ボクはその時、大怪我をしてて天力を回復するためにコールドスリープに入ってた。

 だから、何もできなかった」


 メルヴェの指が震えていた。


「管理者はこう言ったんだ。

 “未使用の無人島に勝手に居住するのは重大なルール違反”って。

 そして……問答無用で全員を殺した」


 部屋の空気が一気に重くなる。

 彼女の瞳には、もう涙が浮かんでいた。


「彼らの天力感知はすさまじかった。逃げる間もなく、次々に殺されていった。

 助かったのは……天力を持たないただの未来人族と、コールドスリープにいたボクだけ」


「逃げた天力を持たない未来人たちはサイバーシティを離れて、ひっそりと村を作った。

 ボクが“神様”って呼ばれていたのは……多分ずっと歳を取らないから。気づけばそう呼ばれてたよ」


 最後の言葉を吐き終えると、メルヴェは小さく息を吐いた。

 語り切ったというより――ようやく吐き出せた、というような顔だ。


「……そういうことだったのか」


 俺は静かに椅子の背にもたれる。

 この小さな少女が背負っているものの重さに、胸が痛んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ