EP101 脱出後
「ハトヤ……ありがとう……!」
廃墟を離れた直後、メルヴェは俺の胸に飛び込んできた。
その小さな体を抱きとめながら、ほっと息をつく。
「友達を助けるのは当たり前だろ。それより──ここから出られなかったってのは、さっきの奴のせいか?」
「うん……。ここから出ようとすると、あいつに気配を察知されてすぐ殺されるの。
でも“深淵の空の日”──空の星が全部消える夜だけは、外に出てもバレなかったんだ」
「星が消える日、か……そんな現象があるのか」
純天族。
秩序を守る存在と名乗ったが、あの視線、あの圧力──ただの監視者ではない。
俺の中で、警戒の糸がまだ張りつめていた。
「どちらにしても、もう出られるなら村へ行こう。みんな心配してた」
「うん!」
そうして俺たちは並んで、村へと向かった。
村の門をくぐった瞬間、周囲がどよめいた。
「おおっ、先導者様が帰還なされたぞ! ……神様もご一緒だ!」
瞬く間に人々が集まり、村中が歓声に包まれる。
俺たちはそのまま兵士に案内され、村長の家へと通された。
「よくぞ……よくぞ無事で……! 神様も、本当に……生きておられたのか……!」
村長は涙をこぼしながらメルヴェの手を取った。
「村長、何度も言ってるけど、“神様”はやめてよ。ボクは普通の人族(?)だから……」
メルヴェが照れくさそうに笑う。
俺は苦笑しながら、持ち帰った青いバッテリーを村長に差し出した。
「これを。あまり多くは取れなかったが、少しでも役に立てば」
「おお……! ありがたい……!」
村長の目が輝く。
だがその横でメルヴェが指をぴっと立てた。
「ねぇ村長、お礼にタブレットちょうだい!」
「もちろんじゃ!」
「えっ? それじゃあ何のためにエネルギーを持ってきたのかわからないだろ」
「よいのじゃ。タブレットは儂らには不要じゃ。それにの、この青いエネルギーには別の使い道がある」
「そうなのか?」
「うむ、とにかく……バッテリーを作るかのう」
村長は作業台に向かい、手慣れた手つきで青いエネルギーを流し込む。
淡い光が木製の装置を満たし、やがて一つの筒状のバッテリーが完成した。
「──できたぞい!」
メルヴェがそれを受け取り、満面の笑みを浮かべる。
「ありがとう村長! これからもちょくちょく作業台のメンテに来るからね!」
「おお……神様、感謝いたしますぞ……!」
「だから神様って呼ばないでってば~!」
そう言いながらメルヴェは俺の手を取り、村の出口へと歩き出した。
「え、ちょっと。村に残らないのか?」
俺が問いかけると、彼女はむすっとした顔を向けてくる。
「ボクがついてきたら、迷惑なの?」
「いや、そんなことはないけど……」
「ならいいでしょ、一緒に行っても! あの廃墟はずっと嫌な匂いがしてたし、
村も“神様”とか呼ばれて落ち着かないんだもん!」
頬をふくらませながら、メルヴェは俺の手をぐいぐいと引いた。
その力に思わず笑いがこぼれる。
「わかったよ。じゃあ俺の拠点に戻ろう」
そう言って俺は、肩の上で眠っていた小さなはむまるの頭をそっとなでた。
「きゅ!」
「はむまる、二人だけど行けるか?」
「きゅきゅ!」
元気よく鳴くと、はむまるの体が一瞬で光に包まれ──
次の瞬間、巨大な金色のハムスターの姿に変わった。
「わ、わああっ! か、かわいい……!」
メルヴェが目を輝かせ、毛並みを撫でる。
「だろ? 大きくなれるのは一時的だけどな。拠点に戻ったら、また遊んでやってくれ」
「もちろん! うわぁ……ふわふわだぁ……」
そうして二人ではむまるの背に乗り、風を切りながら帰路についた。
夕暮れの空の下、遠くで沈みゆく光が赤く地平を染めている。
その光の中で、メルヴェは小さく呟いた。
「ハトヤ、ありがとう。ボク、もう一人じゃないんだね……」
俺は何も言わず、ただ頷いた。
――静かに、はむまるの背が夜風を切って進んでいく。




