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2.友達

「レイモンド様――!!どこにいますか??レイモンド様――!!うわっ!!」

くっくっくっくっく。

セドリックめ、またも引っかかりよったわ。

「ぐはっ!また落とし穴を!!おのれ〜〜〜!!レイモンド様め!!」

「はっはっは、甘いな!セドリック!戦場であればお前は命を落としているぞ!!もう少し注意深くしないとな。」

そう言って俺は落とし穴の上からセドリックを見下ろす。

子供が作った落とし穴だろって?

いやいや、舐めてもらっては困る。この落とし穴は高さ3メートルはある立派な落とし穴だ。

子供にそんな落とし穴が掘れるわけがないと?

ふふふ。

この世界はどこだい?

そうステラだ。

魔法の使える異世界だ。

そして俺は5歳。

幼稚園でいうところの年長さんだ。

遊びたい盛りなのさ。

じゃあどうする?

もちろん全力で魔法を使って遊ぶに決まっているだろう。

幸い(?)俺は双子に生まれ、魔力が豊富だ。

双子のことを神子なんて呼ぶこともあるくらい魔力量は多い。

だから、本気で落とし穴を掘って遊ぶのさ。

「ちくしょーーーーー。」

レイモンドの絶叫が放置し、俺は遊びに行く。

「ははははは。」


あれから俺は順調に成長し、いよいよ固有魔法が使えるようになるであろう5歳にまで成長した。

貴族の息子というだけあって、小さいうちから英才教育を受けた。

午前中は座学で、昼からは魔法実技。

先生はセドリックだ。

セドリックは知識が豊富だ。

俺が喋れなかった頃も、ジュリアとセドリックが赤ちゃんの俺に色々話してくれたおかげでこの世界の知識がたくさん増えた。

勉強しだしてからは、セドリックに教えてもらい、俺は貪欲に知識を吸収していった。

やっぱり知らないことを学ぶというのはおもしろい。

教師として教えたり、考えさせたりすることがほとんどだったが、やっぱり俺は学ぶことが好きなんだなと改めて実感するのだった。

そして、魔法実技だがこれが良くなかった。

この年齢で使えるようになる魔法はあらかたできるようになった。

最初こそ、なかなか魔法を使うことはできなかったが、一度できるようになればあとは他の魔法も比較的簡単だった。

結局、魔法というのは体の中にある魔力を使って別のものに具現化するというようなイメージだ。

だから、頭の中で『炎を出す』というイメージを明確にもち、魔力を操作して外に出せば炎ができるのだ。

(マンガやアニメやラノベ大好きの俺からしたら、そんなイメージなんか朝飯前だぜ!!)

ということで、ほとんどの魔法は覚えてしまった。

それまでは良かった。

新しい魔法が使えるのが楽しくて毎日必死で練習した。

でも、新しく習う魔法がなくなると、ただひたすら反復練習をするだけだった。

挙げ句の果てに、

『魔力を使い切るまで魔法を出し続けるのです!そうすることで魔力量が増えるのです!!』

なんてセドリックのやつが言い出すから俺は怒った。

『小さな子供に魔力を使い切るぐらい魔法を使わなせて何になる!?そんなの体に悪いに決まってるだろう!?』

そうするとセドリックは、

『レイモンド様、昔から貴族の子供は毎日必死に練習をして一流の魔法使いになるのです。サボってはいけません!』

だとさ。

これはもう議論の余地はないなと思って俺は逃げ出したね。

なんせセドリックは博識だ。

自分の知識に絶対の自信を持っている。

そして、先人たちがそうやって魔法が立派に使えるようになったという事実が、俺にひたすら魔法を使わせるという昭和のスポ根みたいな指導へと駆り立てているのだろう。

全く、厄介この上ない。


「いいかい?子供の仕事とはなんだ?」

「えーっと、家の手伝いとか?妹や弟の世話?」

「違う!!遊ぶことだ!!」

「ええぇぇぇ!!」

「いいか!子供にとって遊ぶことは学ぶことなんだ。野山を駆け回って遊ぶことで健康的な体ができる。友達といろんな遊びをすることでルールの大切さに気づいたり、喧嘩して仲直りすることで人との関わり方を覚えたりする。それに、自然に触れることで自然に対する知識が増えるんだ。遊ぶことは楽しい!だからこそ、子供は本気で遊ぶ。ひたすら同じ魔法を何回も何十回も何百回もやらされたところで学びなんてない!!そうは思わないか??アル?」

俺にすごい剣幕で言われてアルベルトが、座ったまま後ずさっていく。

「レイモンド様はお貴族様の子供だから仕方ないんじゃないの?」

「レモン!!アルは6歳で年上だろ?あだ名で呼んでって言ってるだろ?」

俺がそういうとアルベルトは苦笑いしながら、

「そんなん、俺がレイモンド様をレモンくんって呼んでるのを親父やお袋に聞かれたらどやされるよ!」

「いいんだよ。子供だけで遊んでる時はいいだろ?」

「ううん、わかったよ。」

「よし、じゃあ今日は森で遊ぼうぜ!」

「OK!」

そう言ってアルベルトと俺は森の方へと歩いていった。


10日前のことだった。

いつものように俺がセドリックを撒いて、森の方に遊びに来ているとアルベルトが野犬に襲われていた。

アルベルトは足を挫いてしまって逃げられない状態だった。

「ファイヤーボール!!」

「キャイン、キャン・・・・」

俺が火の魔法を放つと野犬は逃げていった。

「大丈夫か?」

「あっ、ありがとうございます。」

足は挫いたようだが、それ以外の怪我はないようだ。

「立てるか?」

「はい。いっ、痛!」

「よし、肩に掴まれ。」

「いえ、お貴族様ですよね?そんな、お貴族様の手をお借りするわけにはいきません!」

だんだん腹が立ってきた。

「おい!」

「何でしょう?」

「名前は?」

「アルベルトと申します。」

随分言葉遣いが丁寧な平民だな。

「アルベルト。」

「はいっ!」

アルベルトが挫いた右足を庇いながらも気をつけする。

「向こうの大きな木まで歩いてみろ。歩けたら俺はお前を置いて帰る。もし歩けなかったら大人しく俺の肩に掴まれ。いいな?」

大きな木までは大体10mだ。

10mも歩けないやつが家まで帰れるはずがない。

「わかりました。」

そう言ってアルベルトは歩き出した。

・・・が、5歩歩いたところで盛大にこけた。

ずてん!!

「イタタタタ。」

「では約束通り肩に捕まるな?」

「えええええ!でも!!」

「じゃあ、無理矢理にでもおんぶするぞ。俺は普段から鍛えて(野山で遊び回って)いるからそれくらい余裕だ。」

「い、いえ。肩をお借りします。」

「よろしい。」

そして、俺はアルベルトを家まで送っていった。

アルベルトの親父さんは農家をしていて、いつもアルベルトは親父さんの手伝いをしたり、弟や妹の世話をしたりしているらしい。その日は、薪を拾いにいくために森まで行ったのだが運悪く野犬に襲われ、驚いて足を挫いたらしい。


「お坊ちゃん、本当に申し訳ねえだ。お貴族様に肩貸してもらうなんて。どうお詫びすりゃいいか。」

「当然のことをしたまでだ。お礼なんていらないさ。」

「そんなわけにはいかねえ。こいつはバカ息子だが、俺の大事な子供だ。もし野犬に殺されでもしたら、俺は辛くて辛くてたまんねぇ。救ってもらったお礼は何としてでもさせてもらいてえ。何でも言ってくだせえ。」

お礼ねえ。

俺は貴族の子供だから、平民が持っているもので欲しいものは特にはない。

何なら生活の苦しい平民の皆さんから何か取り上げるなんてできるわけない。

なら・・・

「では、アルベルトと友達になりたい!俺は友達が欲しい。ダメか?」

アルベルトと親父さんは顔を見合わせた。

「お坊ちゃん、正気ですかい?お貴族のお坊ちゃんが、平民の子供と友達って・・・。」

「本当ですよ。レイモンド様にはもっと相応しい友達がいらっしゃるのではないのですか?」

それがねー

「いや、いない。家の教育方針でひたすら勉強と魔法の訓練ばかりだ。遊ぶことは許さん、みたいなオーラを執事が出しまくってくる。俺は嫌だから執事を撒いて、森に遊びに来ているんだ。」

「・・・お貴族様も大変なんですね。」

「ああ、だからアルベルトが俺と友達になって遊んでくれ!」

俺がそういうとアルベルトの親父さんが渋い顔をして、

「それは勘弁してくだせえ。」

「どうしてだ?何でも言ってくれと言っていただろ?」

「こんなのでも、大事な働き手の1人だ。こいつがいなくなりゃ、弟妹の世話を上さん1人に任せなきゃならなくなる。それに、畑の世話も手伝ってもらわんと俺1人じゃ間に合わねえ。」

なるほど。この世界の平民の生活水準はかなり低いな。

「親父さん、関係ない話だけど聞いてもいいか?」

「何でしょう?」

「親父さんやお母さん、アルベルトは文字は読めるのか?」

親父さんは突然の質問に困惑しながらも答えてくれた。

「まさか!読めるわけねえじゃねーですか。」

「文字が読めなくて困らないのか?」

「そりゃ、困る時もあります。手紙を書くことも読むこともできねえ。街に行っても何が書かれているか分からねえですから。でも、この辺の平民は大体文字は読めねえです。昔、街で商売していたジークの爺さんが読み書きできるくらいでさあ。」

ということは、

「計算もできないか?」

「へえ。息子は誰に似たのか多少賢いけど、俺なんかは数字もさっぱりでね。だから物を売り買いするときは、本当に合っているのか心配になるもんだ。でも、わかりゃしねえから、きっと騙されてるんだろうなあ。」

なるほど。

「ちなみに、アルベルトの仕事にはどんなものがあるんだ?」

話があっちこっちに行っているからだろう。

親父さんの頭には『?』が浮かんでいる。

「えっ?あっ、ああ。川に水を汲みに行くのと、薪拾い。それから、妹と弟の世話。あとは時々畑を耕すのや野菜を取るのを手伝ってもらってるのさあ。」

よし。

では最後の情報収集といきますか。

「親父さん。」

「何でえ、すか?」

慣れない敬語は大変だよね。

「今の話をまとめると、アルベルトの仕事に支障がなければ遊んでも構わない、ってことでいいだろうか?」

「えっ?あっ、ああ。そうだな。することさえしてくれりゃ、構わんさ。でも、無理だろう?」

今度はアルベルトに聞く。

「アルベルト。一番時間のかかる仕事はなんだ?」

「えっ?ええっと。それは水やりです。川まで行って帰るのに四半刻で、それを5〜8往復くらいかな。」

四半刻は30分。ということは毎日2時間半から4時間くらいは水やりに時間を使っているってことだよな。

「それと薪拾いは森で拾うんだろう?」

「はい。そうです。今日は拾えませんでしたが・・・。」

よし

では交渉開始。

「親父さん。水やりは、俺がやる。薪拾いは、遊んだ帰りに持って帰ってくる。だから、それで空いたアルベルトの時間を俺にくれないか?」

しばらく、沈黙が続いた後に、

「・・・・ええええええええええええええええええ!!!」×2

「レイモンド様に水やりをしてもらうって!!」

「坊ちゃん、何言ってるんでえ?そんなことさせようもんなら俺ぁ捕えられてしまいまさあ。」

どうやら勘違いをしているらしいので実演して見せるか。

「今日は水やりはしたのか?」

「いや、まだできてないよ。僕が足を挫いちゃったから、今日は水やりができなくて・・・。」

ナイスタイミングだな。

「じゃあ、水をやっても問題ないな?」

「そりゃあ、やってくれりゃありがたいが、どうする気だ?坊ちゃんに水汲みに行かせるなんてできないぞ?」

「親父さん、ここはステラだぜ?もっと便利なもの使おうよ。」

そう言って俺は畑に向かって手を上げる。

「シャワーズ!」

俺が魔法を唱えると、俺の手から白い靄のようなものが出てきた。

そして、その靄が上の方に上がっていき、畑の上に広がった。

すると、耐えきれなくなったかのようにそこから雨が降ってきた。

ざーーーーーーーー

「親父さん、こんなもんか?」

親父さんが空を見つめて固まっている。

「おーい、親父さん!もう止めていいか?それとももう少しか?」

「いっ、いや!もう十分です。ありがとうごぜえます。」

親父さんはそう言って頭を深く下げた。

「でっ。どうだい?」

「???何がですかい?」

どうやらあまりの衝撃に、元の話を忘れてしまったらしい。

「お父さん、レイモンド様は僕と遊んでいいかって。」

「あっ、あああ!そうでしたねえ。はは、はははは。」

親父さんの乾いた笑いが響く。

でも、そこから気持ちを切り替えて、親父さんは聞いてきた。

「確かに坊ちゃんが魔法を使ってくれたら、アルベルトが水やりをすることはなくなる。でも、だめでさあ。」

うーん、まだダメか。

「どうしてだ?」

「そりゃ、息子も遊ぶ時間ができるんだ。親としては嬉しいさ。でもなあ。お貴族様に魔法を使ってもらうだなんて、平民の俺には恐れ多すぎて。」

なるほどな。

まあ、この世界には絶対的な身分の差がある。

それを考える親父さんの言うことにも納得だわな。

ガサガサ

おっ、ナイスタイミング。

「なあ、セドリック!」

「はっ、レイモンド様」

そう言いながらセドリックは草の陰から出てきた。

こいつ絶対聞いてたよな。

「セドリック、おまえ見てただろ?」

「申し訳ございません。出るタイミングを見失いまして・・・。」

「まあいいや。ちょうど都合がいいや。なあセドリック?」

「はっ!」

「俺さあ。毎日ここで水魔法の練習をしようと思うんだけど、どう思う?」

「・・・・なるほど。それは素敵な考えでございますね。」

「だろ?ということだ親父さん。」

「どういうこってすか?俺には何が何やら?」

「お父さん、つまりね。レイモンド様は僕たちのために水やりをするんじゃなくて、ここで水魔法を使う練習をしているだけなんだって。たまたまそこにうちの畑があるだけだって。だから、僕たちがレイモンド様に魔法を使わせているわけじゃないから、そのことは気にしなくていいんだよってあの執事さんが言っているんだよ。」

「本当にいいんですかい?」

親父さんが半信半疑でこちらを見てくる。

「セドリック。俺が魔法の練習をどこでやろうと文句はないよな?」

「もちろんです。サボられるよりマシです。」

おいおい、そこの執事。もう少し言い方考えろよ、全く。

「というわけだ。明日から、昼過ぎに遊びにくるから待っていてくれ!」

「はっ、はい!!」

んっ?そういえば。

「親父さん、今日の薪はあるのか?」

「あっ!いや、ないけど。それは拾いに行ってきまさあ。」

ふーん

「なあ、セドリック?」

「何でしょう?」

「火の魔法でさあ。火をしばらく燃やし続けるやつってある?」

「いえ、火の魔法は狙った対象物にぶつかり、対象物を燃やしたら消えます。」

「・・・・・おい、セドリック!実験だ!!用意しろ!!!」

「はっ!!」

そこから、俺は継続的に燃え続ける魔法が作れないか実験を重ねた。

最終、魔法を放ってから1分程度は燃え続ける魔法を作ることに成功したが、気がついたら夜になっていた。

親父さんとアルベルトは始めこそ目を白黒させながら俺たちを見ていたが、次第に俺たちが実験に熱中して周りが見えていないことに気づいて自分の仕事に戻っていった。

帰る前に、俺が開発した継続型火魔法「コンロ」で、アルベルトのお袋さんが料理を作った。

めちゃめちゃ恐縮していたが、俺が『実験です!ご協力ください。』と言い張って、無理やり使ってもらった。


セドリックと家に帰りながら、

「レイモンド様?『コンロ』ってどういう意味ですか?」

おっと、これは不注意だった。

5歳児が自分の知らない知識を持っていたら戸惑うわな。

特に、自分の知識に自信満々の執事なんかは。

「んっ、あああ、えええっと。なんとなく?」

「えっ?なんとなくですか?」

「そう!なんとなく。燃え続けそうな感じがする響きだから。」

「・・・・そう、ですか。」

誤魔化せたかなー。


そして、現在。

「お腹すいたな。」

「そうだね。一角うさぎか猪鹿でもいないかな?美味しいのに。」

「えっ?アルは捌けるの?」

驚いて聞くと、

「もちろん。うちは5人家族だから畑の野菜だけじゃご飯は足りないよ。お父さんと森で狩りをして一緒に捌いたこともあるよ。」

おお、さすが平民。たくましいなあ。

俺は、魔法で捕まえるのはできるけど捌くのは苦手だな。

血を見ると青くなっちゃうよ。

でも、お腹すいたしな。

「よし、じゃあ、俺が捕まえるから、アルは捌いてくれるか?」

「じゃあ、一角うさぎにしてよ。さすがに、子供の僕じゃ猪鹿は大きすぎて捌けないからさ。」

「OK!じゃあ、レッツクッキングーー!!」

「???どういう意味??」

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