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1.決意

アニスのコンサートの2曲目が始まった。

月の光に続いて、2曲目もドビュッシーの作品だ。

これは『子供の領分』という組曲だ。

6つの小品でできた組曲だ。

この組曲は、ドビュッシーが再婚した時にできた子供クロード・エンマが3歳になった時に、娘のために書いた作品だと言われている。

ドビュッシーはなかなかに破天荒な人間で、女癖も悪かったが、娘であるクロード・エンマのことはシュシュ(可愛い人)と呼んで溺愛したそうだ。

その組曲の中で一番有名なのが第6曲の『ゴリウォーグのケークウォーク』だ。

ゴリウォーグというのは、フローレンス・アップトンの絵本に出てくる黒人の男の子人形のキャラクターの名前で、ケークウォークは黒人のダンスの一種なんだとか。

どうしてそんなことを知ってるかって?

それは、俺の豊富な知識が・・・

「嘘つき!」

「えっ?」

気がつくとまた周りに人が誰もいなくなった。

「本当はコンサートに来る前にネットで調べたんでしょ?」

「えっ、あっ、まあね。って、だからなんで俺の心の声がわかるの?」

「顔を見たらわかるよ。『俺、この曲知ってるぜ!ドビュッシーには娘がいてな・・・』みたいな顔してたよ。」

(どんな顔やねーん!!)

「じゃあ、湊くん。いってらっしゃい!頑張ってね!!」

『いきなりかーーい!かーい!かーい・・・・』とツッコミにエコーをかけながらステラへ意識が飛ばされた。



「あっ、レイモンドさまああ!!ああーーーーーん。うえ〜〜〜ん。もう起きないのかとおぼいばじだ〜〜。(思いました)」

あっ、ステラに戻ってきたみたいだ。

体は赤ちゃんのままだ。

「レイモンド様!!目を覚まされたのですね!良かった。すぐに奥様にお伝えしなければ!」

そう言って、セドリックは急いで部屋を出て行った。

セドリックの顔もクマができてたな。

きっとものすごく心配をかけたんだろうな・・・。

「ゆいあ、ごえんえ。(ジュリア、ごめんね。)」

「良いんですよ!レモン様が起きてくださって、ジュリアはぞでだげで・・・・うあああーーーーん」

おうおうおう。

号泣やないか。

早く元の世界に戻りたいと思っていたけど、こんなにもレイモンドのことを心配してくれる人がいるのなら、この世界で過ごすのも悪くないな。

元の世界は時間止まっているし。

世界を救わないといけないし。

はあぁぁぁぁ。

できるんかなー

自信ないなぁ。

まあ、とりあえずできることをするしかないか。

なでなで

とりあえず今はジュリアの背中をなでなでしとくか。

「レボンざば〜〜〜〜〜〜〜〜。(レモン様〜〜〜〜〜〜〜〜)」

はいはい、よしよし。


バタン!

「レイモンド!!」

母上が走ってきた。

「レイモンド!!!!」

母上は何度も俺の名前を呼んで抱きしめた。

母上の顔もジュリアに負けないくらい涙でびしょびしょだ。

「私は!!このまま、あなたが。起きなかったら!!!うううう」

とんとんとん

そんな母上に、俺は肩を優しくとんとんする。

「あああ、私のレイモンド!!!可愛い可愛いレイモンド!!もう離さないわ!!!」

そんな風に俺をギュッと抱きしめる母上。

それを目をうるうるさせながら温かく見守るセドリック。

さっきよりも涙だらだら鼻水だらだらで見ているジュリア。

冷たい目で俺と母上を見つめるモンテール。

「奥様、落ち着いてください。魔食いの入眠が他の方達より長かっただけございます。医者も健康に何ら問題ないと言われていました。冷静になりましょう。」

そう言ってモンテールは俺から母上を引き剥がそうとする。

母上もまるで怒られた子供のように萎縮してしまった。

「ああうえ。あいしゅき!(母上。大好き!)」

俺はそう言って母上にさらにしがみついた。

モンテールの目がぴくっと動く。

これはイラッとしているな。知るか!親子の感動の再会を邪魔すんじゃねー

「レイモンド、母も貴方のことが大好きですよ。これからはもっと会いにきますからね。」

「なりません!奥様。レイモンド様はまだトールの名をついでおりません!他人になるかもしれない者に対してそのようなことをされては、示しがつきません!」

「構いません!レイモンドもリュナも私が必死に産んだ子供達です。いずれどちらかを養子に出さないといけなくなったとしても、親子として接することが許されなくなったとしても、私のこの子達に対する愛は変わりません!それ以上の差し出口は貴方と言えど許しませんよ。」

初めて母上が本音で話をしているところを聞いた。

いつも俺かリュナと離れなければならないことを恐れて不本意ながら遠ざけていた母上が、

モンテールの言いなりになっていた母上が、

本当は心の底から俺たちを愛してくれていると言ってくれた。

「奥様、大変失礼いたしました・・・。」

そう言ってモンテールは引き下がった。

ただ、あの目は絶対に納得いっていない。

むしろ殺気すら感じる。

モンテール。

母上の専属執事。

母上がこれまであまり言い返すことができなかった存在。

おそらくだが、母上の性格で言い返せないところもあるのだろうが、それ以上に何らか言い返しにくい理由があるのではないだろうか。

リュナの専属執事のカルラも嫌味なやつだが悪いやつではないと思う。

純粋にリュナのためにやっている感じだ。

とはいえ、口悪いけどね。

でもこの人は違う。

母上に対してもこんな目を向けるのだ。

きっと敵か味方かと言われたら敵なのではないだろうか。

用心しておこう。


「レイモンド!!起きたのか!!心配したぞ!!!」

その後、父上も仕事から帰って来られ、無事元気な顔を見せることができた。

「チッ、このまま寝てれば良かったのに・・・。」

カルラがボソッと言った。

聞こえてるぞー

「おい!カルラ、何か言ったか??」

「いやいや、セドリック。何も言ってないわよ。レイモンド様が起きて良かったわね。」

カルラは悪いやつじゃないというのは訂正だ。

こいつは敵だ!!!

そしてもう1人。

ふんっ!!

リュナが不機嫌そうに向こうを向いた。

父上に抱っこされているのに嫉妬しているんだろう。

こいつの将来大丈夫か?


そして、その日以来、俺は父上や母上と一緒に過ごすことが増えた。

母上は、よく俺の部屋に来て一緒に遊んだり、お茶をしたりするようになった。

父上は、仕事で忙しくてなかなか出会うことはないが、帰ってきた時には俺を膝の上に乗せて、他の街のことや王都での出来事を話してくれた。

ただ、俺とリュナだけは仲良くすることはなかった。

俺は仲良くしたい気持ちがあるのだが、家族全員が揃うことはほとんどなかった。

父上も母上も順番に俺とリュナの部屋を訪れるだけで、みんなで集まることはしなかった。

俺のことを大事にしてくれる両親。

いつか養子に出さないといけないかもしれないという怖さを感じながらも、精一杯愛してくれている両親。

俺の今の目標は、俺もリュナもスローヤ家に残れるようにすることだ。

パッと思いつく方法は2つだ。

①2人ともが残れるように法律を変える。

②2人ともが固有魔法を使えるようになる。

固有魔法が使えるようになるのが5歳以降だと言われている。もし①をしようと思っても、おそらく5歳やそこらの子供がどれだけ騒いだところで実現はしないだろう。この場合、大人になってから国の中枢に入って法改正を行うしかないだろう。なので、この方法は後回しだ。もう一方の②は方法としてはかなり難しいだろう。法改正は不可能ではない。法律というものは時代によって変わるものなのだから、そこに多くのものが納得できるだけの理由があり、力があれば実現できる。しかし、2人とも固有魔法を使えるようにするというのは不可能かもしれない。なぜならば、過去に双子で産まれてきてどちらも固有魔法を使えた例は0だと言われているからだ。双子というのは珍しいものだ。俺(湊)が学校に勤めていた時も、100人の児童がいる中で双子は1組いるかいないかくらいの割合だ。だからそんなにたくさんの事例があったわけではないだろう。ましてや貴族の子供で双子というと相当レアに違いない。しかしながら、少ない例の中でも100%の確率で固有魔法は1人だけしか使えていないというからにはある程度の説得力がある。きっと、どの貴族も2人ともに固有魔法が使えないか試行錯誤しているだろうしな。自分の子供を1人養子に出さなければならないとなれば、親は必死のパッチになるはずだ。にも関わらず使えないということはきっとそういうことだろう。どちらにしてもハードルは非常に高い。


「いつか・・・。いつか家族4人で、こうやって穏やかにお茶を飲むことができたらいいのにね・・・。」

母上がボソッと呟いた。

そうだな。

やる前から諦めるのは良くない。

俺が固有魔法を使えるようになるのか、リュナが使えるようになるのか。

わからないが、いつか4人で一緒に家族として過ごせるように頑張ろう!

それが俺なりの、母上と父上の深い愛情への返しだ。

「はいー。」

「ふふふ。レイモンドのお返事の仕方は面白いですわね。ふふふ。」

またつい国民的テレビアニメの魚の名前の赤ちゃんの返事をしてしまった。

恥ずい。

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