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4.魔食い初め(前編)

「おはようございます。レモン様。」

朝から可愛い女の子に起こしてもらえるとは、うふふふふ。

しかも、二人っきりの時だけレモン呼びで甘えて来るとは、ジュリアったらもう、甘えん坊さんねぇ。

仕方ないなぁ。

「じゅいあ!じゅいあ!(ジュリア)」

そう言って抱っこしてもらう。

ふふふ。

ちょっとそこのおじさんキモいって?

落ち着きなさい。

現在のレイモンドはれっきとした0歳児ですよ。

お世話してくれているジュリアに甘えて何が悪いってんだい、べらぼうめい!!てやんでい!!!

中身がおっさんだろって?

うるさいやい。


しかし、実際不思議な感覚だ。

もし今自分が湊だったら、半分以下の若い女の子だとは言え、ジュリアのような若い女の子に抱っこされたらドキドキしてしまうはずだろう。

ところが、今俺レイモンドの心にあるのは、ただただ純粋な安心感と喜びだ。

おそらくだが、体が赤ちゃんだから精神もそちらに引っ張られているのだろう。

これまでも何回か同じようなことを感じている。

大人の思考をしつつも、どこか感情の部分では幼さを感じる。

それを自分でメタ認知している時点で、純粋な子供とは言い難いのだが・・・。

強いて言えば、子供の心と大人の脳を持っているようなアンバランスさがある。

まあ、これはこれで面白いから良いんだけどね!!

と言いつつ、なんとも言えない違和感があるのも事実。

なんだろうなぁ。

この気持ちの悪さは・・・・。


「レモン様、来週はいよいよ魔食い初めですね。」

「???」

説明をさせるために渾身の不思議そうな顔をした。

もちろん首を軽く傾げることも忘れずに。

この顔を見たらきっと・・・

「きゃあ、レモン様可愛いです!!その顔、たまりません!!!うっ、よだれが出てまう。」

おいおい、大丈夫か?

ちょっと効果が絶大だったみたいだ。

今後この教えておねだりフェイスをするときは気をつけよう。

赤ちゃんが首を傾げる顔は、どんな人も蕩けさせてしまうようだ。


ガチャ

「朝から何を騒いでいるのだ?ジュリア。」

セドリックが部屋に入ってきた。

「レイモンド様、おはようございます。本日もお健やかそうなお顔をしておいでですね。本日は、奥様が魔食い初めの準備のためにお部屋にいらっしゃいますので、早めに準備をいたしましょう?」

「だーそえ、なーなー?(だからそれはなんだ?)」

「はう!!可愛すぎる!!!」

またジュリアが悶えている。

さっき封印を心に決めたのに、また教えておねだりフェイスを出してしまった。

「ジュリア落ち着け!確かにこの表情は威力が絶大すぎる。が、レイモンド様の召使いとして・・・・・」

男であるセドリックのハートもズキュンと射止めるとは、教えておねだりフェイスは凄まじいな。

改めて禁術扱いにしておこう。

「セドリック様、レイモンド様が魔食い初めとは何か知りたいとおっしゃっていますよ。準備の前に教えて差し上げましょうよ。」

「ジュリア、何度も言うが。まだ1歳にもなっていないレイモンド様が言葉を理解できるわけがなかろう?」

セドリックは冷静だよね。

「でも、この表情見てくださいよ。話して欲しそうにしていると思いませんか?」

じーーーーー

「そんなことはありえない・・・・と思うのだが・・・・。」

さすがジュリア。感覚が鋭いよね。

もはや言葉はほぼ100%理解しているんだよーん。

分からない単語もたくさんあるが、話の前後関係で推測ができる。

大人の頭脳を舐めてもらっちゃあ困るぜい。

「まあいい。ジュリアも初めて魔食い初めに参加することだし、ジュリアにも説明するつもりで話をしよう。」

「ありがとうございます!」

「あーあー、せいう(ありがとう、セドリック)」


「ごほん。魔食い初めというのは、王族や貴族、魔法騎士が行う儀式です。1歳になった月の満月の夜に、魔力を込めた『魔呼びの雫』という実を食べることで、赤ん坊の中に眠る魔力を引き出すと共に、立派な魔法使いになるよう月の女神ディアーナ様にお祈りを捧げることを目的にしています。」

セドリックはジュリアに説明すると言いながら俺の方をチラチラ見ながら敬語で喋ってる。

俺がわかっているかもってちょっと思っているんだね。ふふふ。

「この儀式を終えると同時に、赤ん坊から魔力を感じられるようになるため、この儀式をしなければ魔法を使えないまま成長してしまう可能性が高いのです。」

なるほど。

と言うことはこの儀式をしないと王族や貴族、魔法騎士と言えど、魔法は使えるようにはならないよってことだね。

でも、なんでだろう?

「はい!セドリック先生、質問です。」

「・・・・なんですか。ジュリア?」

セドリックはノリが悪いなぁ。

逆にジュリアは雰囲気を読む天才だな。

コミュ力高いね!!

「どうして満月の夜にするのですか?」

そうそう、それ気になってた。

「ジュリアは魔法が使えないので、分からないと思いますが、私たち魔法が使える者たちは、いつでも同じように力が使えるわけではありません。新月の時には魔力が少し弱まります。そして、逆に満月に近いほど魔力が強くなります。まあ、差はそこまで大きくはありませんが、自分でも魔法を使っていて自覚できるほどには違いが出るのです。こういった現象から、私たちは昔から月の女神ディアーナ様を信仰の対象としており、魔力を引き出す重要な儀式である魔食い初めを満月の夜にするようになったのです。」

ほーーー

「なーおー。(なるほど)」

良い話を聞けた!

セドリック先生ありがとう!!

「そうだったんですね。私たち平民出身の者たちは魔法が使えないので、どちらかというと太陽の神ヘリオス様を信仰することが多いので知りませんでした。」

ほーー、この世界では少なくとも二人の神様がいて、それぞれ貴族と平民に信仰をされているのか。

面白いなあ。

それに太陽の神ヘリオスに月の女神ディアーナか。

なんか地球でも似たような神話があったような気がする。

どの世界もやっぱり太陽や月というのは特別なんだね。

知識欲が満たされて満足をしていると、扉をノックする音が聞こえた。


コンコンコン

「失礼します。レイモンド様、おはようございます。本日は、魔食い初めの準備のため、奥様が参ります。あと半刻ほどで参りますので、ご準備をなさってください。」

母の専属執事のおばちゃんモンテールがにこりともせずに挨拶をしてくる。

そして、セドリックとジュリアの方を見て、

「はぁ。セドリック、ジュリア何をしているのですか!?」

二人を見下すような顔をするモンテール。

「奥様が来られるのはわかっていますよね?」

「はい!!」✖️2

ピシッ!という音が聞こえるのではないかというくらい二人の背筋が伸びる。

「では、さっさと準備をなさい。遅れたら承知しませんよ。」

「はい!!」✖️2

「だーーーーー。(黙っとれこのクソば◯あ)」

じーーーー

俺と目が合う。

じーーーー

「では、レイモンド様。後ほど参りますので、ご準備をよろしくお願いします。」

やっぱり、この人好かんわー。

なんとなくだけど、俺のことも見下している感じがするんだよな。

本当に、スローヤ家に忠誠を誓っているのだろうか?

いつか裏切るのではないだろうか?

なんとなくそんな予感がするのだった。

だからって赤ちゃんの俺にはなんもできんけどね!!


コンコンコン

「奥様が参られました。」

扉が開かれて母のアンナが入ってきた。

「レイモンド、おはよう!」

「まぁま、おーよー(母上、おはようございます。)」

(親子だし、もっと仲良くしたいよね。)

と思いながら、精一杯愛想を振り撒く。

「まぁ!『ママ、おはよう!』って言ってくれたのかしら?レイモンドは賢い子ですね。」

よし!喜んでくれたぞ!

「奥様、リュナ様の準備もございますので、魔呼びの雫の準備をお願いします。」

「ええ、そうね。」

(おおおーーーーーーい!!FU◯K!!!)

そこな、くそば◯あ!!!

母子が愛を確かめ合っているところに水差しやがって!!

てめえなんか、馬に蹴られて◯んじまえ!!   ※恋ではありません。

モンテールのせいで、さっきから心の声が自主規制の◯だらけになってしまってるやないかーい!

ほんまにあいつ好かんわ!


「レイモンド、こちらにいらっしゃい。」

そう言って、母は俺を隣に座らせた。

「さあ、右の手で母の手を握るのですよ。」

久しぶりの母親の温もり。

トールの名前のせいで、素直に可愛がることができなくてなかなか触ることのできない母の手。

ジュリアやセドリックの手も温かいけど、やっぱり母親の手の温もりは特別なんだな。

そんなことをしみじみ感じていると、

「うっっ。ごめんなさいね、レイモンド。うううぅぅぅ。私が双子に産んだばかりに!どちらかを呪い子として養子に出さなければならないなんて!!私、それを考えると辛くて、辛くて・・・なかなか会いにくることができなくて・・・うううううぅぅぅ・・・」

母が俺の手を握りながら泣き出した。

(・・・やっぱりこんなの間違っているよな。)

固有魔法が使えるかどうかだけで、可愛い子供を選別しなければならないなんて。

俺(湊)には可愛い一人娘がいる。

もし、俺が何かの理由で美結と親子でいられなくなるとしたら、きっと耐えられないと思う。

だから、俺は母上が俺もリュナも可愛がることができるような未来になるようにしたいなと思う。

できるかどうかは分からないが、湊としての知識があれば案外なんとかなるような気もする。


なんてことを考えながら、どこかですごく違和感を感じていた。

なんだろう?

なんでこんなにも心がザワザワするんだろう?

原因を考えようとしたところで、

「奥様!!お気をしっかりしてください。呪い子などと言うものではありません。双子は月の女神ディアーナ様の祝福を受けた子供、いわば神子です。確かに固有魔法を引き継いでいるのはどちらか一人だけではありますが、引き継がなかった子供も魔力は普通の子よりも高いと言われています。スローヤ家にとっては、とても強い魔法が使える次期当主とそれを支える屈強な魔法騎士を得ることができたのです。もっと胸をお張りください!!」

ああ、この人には伝わらないんだな・・・。

母親としてのアンナの悩みが理解できないんだろうな。

母上が不憫でならない。


「そうね。取り乱してごめんなさい。では、改めて魔呼びの雫に一緒に魔力を込めていきましょう。」

母上が涙を拭いて、俺の右手を握り直した。

すると、母上の体が金色に光だした。

「ひーあー(光ってる!!)」

そしてその光が握っている手を通して体の方に流れてきた。

何か温かいものが体の中に流れて混んでくるような感覚だった。

でも、全く不快ではなかった。

おそらく母上の魔力なのだろうと思う。

「奥様、魔呼びの雫をどうぞ。」

そう言って、モンテールは真っ白なブドウのような丸い実を母上に向かって差し出してきた。

母上はそれを受け取ると、俺の左手に握らせ、その上から母上の右手で包んできた。

俺と母上と両手で手を繋ぎ、左手に魔呼びの雫と呼ばれる固い実を持っていた。

「レイモンド、そのままでいてくださいね。流す魔力の量を増やしますよ。」

すると俺の体を右から左、母上から俺、俺から母上へと輪のように循環していた魔力の量が増えたのがわかった。

それから10秒ほどして、だんだんと魔力が減っていき、やがて魔力が止まった。

「さあ、レイモンド。手を開いて魔呼びの雫を見せてご覧なさい。」

言われた通りに左手を開いてみると、さっきは白かった魔呼びの雫が金色に輝いていた。

「奥様、お見事です。」

そう言って、モンテールは俺から魔呼びの雫をそっと取り、宝石を入れるような綺麗な箱にしまった。

俺が不思議そうにじっと魔呼びの雫が仕舞われるのを見ていると、

「ふふっ。不思議でしょう?」

と母上が笑いながら行ってきた。

「魔呼びの雫は魔法を流すと、持ち主の魔法の影響を受けて見た目が変わるのよ。そして、その実の中に流した魔法の一部が入るの。金色に輝くのは私たち『トール』の一族が、雷の固有魔法を使うことができるから雷の色である金色に変わるのよ。」

なるほど、そういう意味があったのか。

「奥様が魔法を込めた魔呼びの雫の色が均一で美しいのは、奥様が魔力を淀み無く流したからなのです。未熟な魔法使いが同じことを行うと、魔呼びの雫はまだら模様になります。さすがかつて天才と呼ばれた魔法使い。お見事です。」

ほう。母上はそんなにもすごい魔法使いだったのか。

モンテールもたまには良い情報をくれるものだ。

「褒めすぎですよ、モンテール。レイモンドの前で恥ずかしいじゃないですか。それでね、レイモンド。この実を満月の夜に食べることであなたの体に眠っている魔力を呼び起こすことができるのよ。だから私たち貴族はこの魔食い初めを経て初めて魔法使いになると言ってもおかしくないのよ。」

なるほど、つまりこの魔食い初めが呼び水の役割を果たし、それをきっかけに自分自身の魔力を感じたり、使ったりできるようになるということか。

単なる異世界のお食い初めかと思っていたが、思っていた以上に深い意味があったんだな。


「奥様、そろそろ・・・。」

「そうね・・・。それでは、レイモンド。また、満月の夜に会いましょうね。」

そう言って母上は俺の頬を撫でてから部屋を出ていった。

出て行く時の母上の顔は寂しそうだったな・・・。


「奥様寂しそうでしたね。」

「ああ、本当はレイモンド様もリュナ様とももっとゆっくり一緒に過ごしたいだろうな・・・。」

そう言って二人は辛そうな顔をしていた。

「やっぱりどちらも『トール』の名を継ぐことはできないのですか?」

「ゆいあ、いーもえ。(ジュリアさん、いい質問ですね。)」

俺が、どこぞのジャーナリストがゴールデンタイムのテレビで言いそうなことを言っていると、ジュリアが『ふふふ。』と笑っている。

「そうだな。過去に双子に産まれてきて、どちらもが固有魔法を使えたことはないと言われている。そして、双子のうち固有魔法を使えなかった方の子供は必ず魔法騎士の家へと養子に出されることになる。」

やっぱり、固有魔法が使えた方だけが『トール』の名を継げるというシステムか。

そりゃ、母上も父上も俺たちを遠ざけようとするわな。

どんなに可愛がっていても、どちらかはいずれよその子になる。

俺が同じ立場なら耐えられんわ。

「どうにもならないんですか?」

ジュリアがセドリックに聞いた。

「ああ、無理だろう。」

「どうしてなんですか?」

セドリックが顎に手を当てて、

「せっかくの機会だ。少し時間がかかるが、順番に話すとするか。レイモンド様、少々お待ちくださいね。」

と言った。

「もーおん。(もちろん!)」

俺も聞きたいし。

「まず、この世界には大きく分けて4つの身分が存在する。王族、貴族、魔法騎士、平民の四つだ。それぞれの違いはわかるな?」

「はい、平民は魔法が使えない。魔法騎士は4元素の魔法が使える。貴族はそれに加えて固有魔法が使える。王族は貴族の中でも特別な存在だと言われています。」

なるほど、やはりこの世界では魔法がかなり重視されているんだな。

「その通りだ。つまりメイジール王国では、大まかに言えば魔法が使えるかどうかと、固有魔法が使えるかどうかによって身分が決まる。」

おお!この国の名前を初めて聞いた!!ちょっと感動。メイジールって言うんだ。メイジって魔法使いのことだよな、関係あるのかな?偶然かな?

と、勝手にテンションが上がってしまったが、セドリックは構わず話を続けた。

「さて、この魔法や固有魔法はどのように子供に遺伝するのかは知っているか?」

「いあん。(知らん。)」

「いいえ、知りません。親が使えたら使えるんじゃないですか?」

「魔法に関しては親が使える場合は基本的には使えると言われている。もちろん魔食い初めの儀式が必須ではあるが。一方、固有魔法については少し違っている。固有魔法は、母親の資質を受け継ぐと言われている。いや、正確に言うと子供が母親の固有魔法の能力の大半を奪うんだ。」

『奪う』とは聞き捨てならないな。

「出産をきっかけに母親の固有魔法は弱ってしまう。一度でも出産を経験すれば、そこから残りの人生をかけても出産前のような出力では固有魔法は使えないと言われている。そして、1人目を産んで固有魔法の力が弱くなってしまった母親が2人目を出産した場合、子供の固有魔法の力は1人目の半分程度になると言われている。3人目はさらにその半分。というように、出産を重ねれば重ねるほど母親の固有魔法の力が弱まっていくと同時に、産まれてくる子供に引き継がれる固有魔法の力も弱まっていくのだ。だから貴族の家督相続は基本長子になるのだ。」

そうなんだな・・・。

ということは母上は俺たち兄弟を出産したことによって固有魔法が弱まってしまったということか。

出産というのは母親にとって命懸けで行うものだ。

しかし、この世界では命だけでなく固有魔法の能力までかけないといけないんだな。

女の人ばかりにすごい負担を強いるんだな。

でも、きっとその分この世界では、貴族の女の人の存在価値は高いのではないだろうか。

特に、出産をする前には。

そして、出産を終えてしまえば・・・

なんとも言えないな。

この世界では、性別に関していろんな課題があるだろうな・・・。

「では4元素の魔法はどうなのですか?出産を機に母親の魔法は弱くなるのですか?」

「そんなことはない。固有魔法だけに現れることだと言われている。」

「不思議ですね。」

本当だね。

「この現象について、魔法研究家は母親の中にある固有魔法を発生する源である固有魔法源を出産と同時に子供へ分け与えているのではないかと仮説を立てている。詳しい説明は省くが、研究家が調べたところ、固有魔法を使うための特別な器官が貴族の体の中にあるわけではないそうだ。」

セドリックは言葉を濁したが、きっとその研究家は貴族の遺体を解剖したんだろうな。

そりゃ説明を省くわな。

でも、医学の発展に解剖は必要不可欠なのと同じで、魔法の仕組みを解明するのにもある程度必要なのだろう。


「つまり固有魔法というのは魂の中にある固有魔法源から発生しているのではないか、というのが現在一番有力とされている説なのだよ。そして、出産の際にその固有魔法源の一部が子供に奪われるのだよ。出産後、母親が固有魔法を使えるようになるまで1年弱かかる。だから、魔食い初めは1歳になった直後の満月の晩に行うことになっているんだ。母親と共に魔呼びの雫に魔力を流さないといけないからな。それと赤ちゃんが自分の足で歩けるようになるまで育つということも儀式を受けるためには必要な条件だけどな。」

セドリックの話を聞いて

「なうおー。(なるほど)」

の連発だった。

そんな理由があったのか。目から鱗である。

「この固有魔法の遺伝に関して面白い話がある。父親が貴族で、母親が魔法騎士だった場合、子供は固有魔法は使えると思うか?」

使えんだろうな。

「今までの話で考えると使えない、ですか?」

「その通りだ。父親の魔力量や魔力操作の力など、いろんな力が遺伝すると言われているが固有魔法については、母親の影響のみだと言われている。」

「なうおー。(なるほど)」

本当に母親が重要なんだな。

・・・きっと貴族の結婚は基本的に自由はないんだろうな。

「へえ。セドリック様は本当にいろんなことをご存知ですね。で、なんで双子の片方にしか固有魔法は使えないんですか?」

ジュリアは賢いな。ちゃんと話の筋を見失わないなんて。

俺なんかセドリックの話に

『なうおー。(なるほど)』

ばっかり言って喜んでて、そもそもの話をすっかり忘れてたわ。

「ごほん。すまない。少し話が逸れてしまっていた。結論から言うと固有魔法源は1回の出産で1つしか引き継がれないと考えられている。過去の貴族の出産において双子が産まれた場合に、両方が固有魔法を使えたという例は1つもないんだ。つまり、奥様の固有魔法源はレイモンド様かリュナ様のどちらかお一人に引き継がれていると考えるべきだろう。」

そういうことか。

セドリックが話してくれた色々な知識が頭の中でつながった。

「しゅっいい。(スッキリ)」

「そういうことだったんですね。じゃあ、どちらが固有魔法を引き継いだかはわからないんですか?」

「それはだいたい5〜6歳くらいになったらわかるはずだ。その時に、固有魔法を使えた方は、国立魔法学院での審査を経て『トール』の名前を名乗ることが許される。そして、その時点でもう1人はスローヤ家に使える魔法騎士の家へ養子に出されることになる、というわけだ。」

なんて辛いんだろう。

両親のことを考えると心が痛い。

「奥様も旦那様もさぞお辛いでしょうね。」

「ああ。だが、私たちにできることは、ただレイモンド様が固有魔法を使えるようになると信じ、支え続けることだけだ。そうすることが旦那様と奥様のためになり、何よりレイモンド様のためになるはずだ。」

「そうですね・・・。」

この2人も複雑な気持ちだろうな。

一生懸命俺に仕えたとて、固有魔法が使えなければその時点で、俺の専属の執事や召使いをやめなければならない。もしくは、俺と一緒に魔法騎士の家に行かなければならないのだ。

どちらにしてもキャリアという面では、出世とは程遠いところに行ってしまう。

どうなるか不安なまま結果が出るまで仕え続けなきゃいけないのだからたまらないな。


「さっ、レイモンド様。話はこれくらいにして、歩く練習をしましょうか。」

「そうでした。レイモンド様、ファイトです!!」

・・・俺が固有魔法が使えるかどうかで、彼らの人生が大きく変わるという状況にも関わらず、こんなにも俺のために頑張ってくれるジュリアとセドリック。

ええ子らや〜〜〜〜〜〜〜〜

ほんま、この2人がいてくれて良かった。

アニスに訳のわからない世界に送られて大変だったが、この2人と出会えてことは僥倖だったな。


「レイモンド様、魔食い初めでは、歩いて旦那様のところまで行かないと行けないんですよ。10歩程度とはいえ、練習をしておかないとまずいです。頑張りましょう!!」

10歩歩くだと?

そんな簡単なこと、練習なんてせんでもできるわーーーい

ずてん。

「うあああーーーーん。うあああーーん。(泣)」

「だっ、大丈夫ですか?レイモンド様。」

ゆっ、油断した。

なんでか一度泣き出すとなかなか泣き止めないんだよね。

ごめんよ、ジュリア、セドリック。

泣いている俺を見て必死にあやすジュリアとただただオロオロするセドリックであった。


ちくしょーー、頭の中はこんなにも冷静なので、泣き止むことができないとは、赤ちゃんとは不便なもんだな!!!

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