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3.人生最大のピンチ その2

食は人生を豊かにしてくれる。

辛い時も美味しいものを食べると悲しいことをちょっとだけ忘れることができる。

と、朝ドラのヒロインが言ってたような、言ってなかったような。

「まんまぁ。」

「レモン様は、本当に離乳食が大好きですね。」

ジュリアがニコニコしながらあーーんをしてくる。

若い女子からのあーんも、実年齢を考えると背徳感の高いプレイだが、授乳に比べればへのカッパ。

あーんくらいで恥ずかしがったりしないもんねー


「レモン様、美味しいですか?」

「あばぁ。(美味しい)」

一見色が薄くてドロドロで味も歯応えもなさそうな離乳食だが、食べてみると案外美味しいのだ。

改めて、子供の味覚の鋭さはすごいね。

よく娘の美結に

『どうして大人はこんなにも辛いものを食べられるの?』

と聞かれた時に、

『大人は子供に比べて味蕾が少ないから辛さを感じにくいんやで。』

と答えたら、

『大人はバカ舌だね。クククク』

とバカにされたものだが、赤ちゃんになってみて改めてわかる。

子供の舌は超敏感だね。

まあ、バカ舌の方が色々食べられるからその方が良いこともあるけどね。


「はい、レモン様。これで最後ですよ!はい、ごちそうさまでした。」

うむ、満足。

「だあぁー。(ちょっと君、シェフを呼んでくれたまえ。)」

ご飯を終えてエミィに抱っこされる。

んーー、余は満足じゃ。


子供の成長とは早いもので、気がつけばあっという間に俺は卒乳した。

ほたーるの ひかーり まどの ゆうきー♪

んー卒業式を思い出すねー

しんみり


まあ、実際はまだミルクと離乳食のどちらも併用しているくらいの時期なのだが、俺はもっぱら離乳食派だ。

歯も生えてきて、もはや一人前の大人だぜぃ!!

お乳なんか飲んでるやつの気がしれねーぜ。


「ごきゅごきゅ。」

じーーーーー

(どこ見てんのよ!!この変態!!)

妹のリュナがこっちを見つめていた。

なんとなく負けたくなくて俺も睨み返してやったさ。

「ごきゅごきゅ。」

そんなことはお構いなしに、リュナはお乳を飲んでいた。

リュナも当然全くの同い年なので、体の成長は似たり寄ったりだ。

しかし、リュナはもっぱらミルク派らしい。

離乳食を食べ始めてから同じ部屋で食事をすることになり、顔を合わせる機会が増えたのだが、離乳食をあまり食べようとしないのだ。

(ふっ、これだからお子ちゃまは。)

(少しは大人におなり!!)

(一体、幾つになったと思ってるんだい!!)

解:0歳


じーーーーー

視線が痛い。

「リュナ様は、レモン様のことをじっと見てますよね?」

とジュリアが思ったこと呟いていると、

「ジュリア。自分がお使えになっている方に対して愛称で呼ぶとは失礼だと思わないのですか?」

(おうおう、今日もオバはんは不機嫌だぜ。)

「申し訳ありません、カルラ様。」

ジュリアが、リュナ専属執事であるカルラに謝る。

「カルラ、そこまで目くじらを立てなくても。ジュリアは、レイモンド様に親愛の気持ちを強く感じているだけですよ。」

はい、始まりました!!

第1ラウンド、カーーーーン!!!

「そうやってセドリックが甘やかすから、ジュリアが育たないのです。レイモンド様の専属執事として、周りのものを教え導くこともあなたの仕事ではないのですか!?」

ヒステリー系インテリ女子のカルラがキーキーと怒鳴る。

「私は、レイモンド様に居心地の良い環境で育ってほしいと考えている。礼儀はもちろん大切だが、それ以上に温かい雰囲気の中で過ごしていただくことが大事だと思う。」

いいぞーいいぞーセドリック!!

その通りだ!

俺は和やかな雰囲気で過ごしたいぞーー

「名前の呼び方一つで、目くじらを立てて言うことの方がどうかと思うぞ。それに、ジュリアだって時と場所をわきまえている。なぁ?」

みんなの視線がジュリアに向かう

「べろべろばぁ!」

俺とジュリアの目線がバッチリ合う。

「おい、ジュリア。」

セドリックのこめかみに血管が浮き出ている。

これは漫画だったら、おでこに怒りマークの状態ですね。

「はっ、はひ!!」


ふうう、長かった。

ジュリアのためにカルラと言い合いをしていたセドリックが、話を聞かずに俺と遊んでいたジュリアにマジギレ&説教がしばらく続いてようやく部屋に戻ってきた。

全く、うちの家の中はなんだかギスギスしててやーねー。

まあ話を聞いてないジュリアが悪いんだけどさ。

それにしても、レイモンド派とリュナ派で全然考え方が違うねー

穏やかのんびりのほほーんのレイモンド派と、

ピシッ、キチッ、カチッのリュナ派。

ああーこっちでよかった。


でもカルラが最後に言ってたことは気になるなぁ。


セドリックがブチギレて説教が始まる前に、カルラはリュナと乳母を連れて部屋に戻っていった。

その時に、

「この様子では、トールの名を受け継ぐのはリュナ様になりそうですね。そんな低脳な召使いがいたのでは、レイモンド様に当家の固有魔法は使えないでしょう。まあ、せいぜい残された時間を温かい雰囲気の中で無駄に過ごしてらっしゃいな。はははは。」


自分だって俺に対して失礼なことを言っているくせにやな奴だなと思いつつ、いろんな情報をゲットできて良かったとも思う。

まず

『トールの名を受け継ぐのはリュナ様になりそうですね。』

つまり、俺かリュナのどちらかだけがトールの名を受け継ぐことができるということなのだろう。

父親の名前は、ジルベール・トール・B・スローヤで母親の名前はアンナ・トール・スローヤ。

そして、俺の名前はレイモンド・スローヤで妹はリュナ・スローヤ。

ここから名前にはそれぞれ意味があるということが推測できる。

ファーストネームは地球と変わらないと思う。

そして、「スローヤ」は領地の名前と同じだ。

つまり、俺はスローヤの領主の家のレイモンド君ということだ。

ここまでは頭脳が大人でなくてもわかるレベルですね、ハイ。


ここからレベルアップ!!

両親の名前と俺たち子供の名前を比べると、一つ疑問が出てくる。

それは、両親の名前には『トール』というミドルネームが入っている。

父親の方には『B』も入っているが、これは今のところヒントはないので、一旦保留。


次にカルラが言ったこと

『レイモンド様に当家の固有魔法は使えないでしょう。』

だが、

『トールの名を受け継ぐのは・・・』

と合わせて考えると、うちの人間にしか使えない固有魔法というのがあって、それを使えた人が『トール』のミドルネームを名乗ることができる、ということだろう。


さらに、

『残された時間を・・・』

というところから固有魔法を使えるようになるまで、そこまで長い時間があるわけではないということだろう。まあ、流石に赤ちゃんが使うということはないにしても、おそらく幼児期か遅くとも小学生低学年くらいの時には使えるようになるのではないだろうか。そして、もし俺が固有魔法を使えなかったら、『トール』の名を受け継ぐことができない。つまり、無能の烙印を押されることになる。そうなると、もしかするとこの家を出ていくとかいうことも考えられるのではないだろうか。


んーー、まあ推測の域を出ないが、案外的を射ているんじゃないかと思う。

今後のことを考えると、さらに情報を収集していかねばならんな・・・

くーー、くーー、くーー


「ふわぁ〜〜。」

脳みそ使うと眠くなるわー

ちょっと赤ちゃんの脳みそ酷使しすぎて、虐待の疑いで児童相談所がピンポーーンってくるんじゃないかと心配になるくらいだよ。

「レイモンド様、おはようございます。散歩に行きますか?」

どうやら俺が寝ている間にセドリックがジュリアに『レイモンド様』呼びを強要したようだ。

だから、ジュリアの『レモン様』呼びは、2人の時にしか聞くことができないっぽい。

(周りに左右される殿方って嫌よね〜。もう。)

「リュナ様より卒乳が早いレイモンド様、今度はつかまり立ちも先に習得してしまって、あのばば・・・いえ、カルラをギャフンと言わせてやりましょう!!」

(『ギャフン』って、お前は昭和か!!)

などと、心の中でセドリックにツッコミを入れつつ、俺たちは庭に散歩に行くことにした。

異世界に来て昭和も平成も令和も関係ないけどねー


「レイモンド様―、こっちですよ!!」

「だああ、だあああ、だあああああ。」

俺は高速ハイハイを行う。

全日本ハイハイ選手権0歳の部があれば、俺はゴールドメダリストになるね。

そんな勢いでハイハイしまくる俺に、

「レイモンド様、こちらの台を使ってつかまり立ちしませんか?ほら、楽しいですよ?あのばば、いえ、カルラの面白い顔が見られますよ??」

どうやらセドリックはさっき言われたことに相当怒り心頭らしい。

リュナ派の鼻を明かしてやろうと躍起になっているようだ。


俺がセドリックの声をにこやかに無視しつつ高速ハイハイの仕方を追求していると、わざとらしい声が・・・

「まあ、リュナ様!もうつかまり立ちができるなんてすごいですね!!!」

カルラのオバはん、わざわざ見せつけに来やがったな。

これは第2ラウンドの予感が・・・


「おやおや、レイモンド様はまだ地面を這っておられるのですか?よくお似合いですこと。ほっほっほっほ!まるでムカデのようですね。」

「ぐぬうう、おのれカルラめ!!!」

怒りで炎が出てきそうな勢いのセドリック。

そしてそこにさらに油を注ぐカルラ。

「ひょっとしてレイモンド様はまだつかまり立ちができないのですか?あらあらかわいそうに。離乳食を早く食べられるようになったからといって何も得なことはありませんね。せいぜいう◯この匂いがキツく・・・おっと失礼。私としたことが下品なことを。ほっほっほっほ・・・。」

目でカルラを殺せるのではないかと思うほどキツくセドリックは睨んでいる。

でもねぇ、

「あーあーあー(その通りなんだよ、カルラ)」

本当に離乳食を食べ始めてからう◯こが臭くて敵わんのだよね。

しかも、現在俺は絶賛オムツ使用中だ。

当然、う◯こを出すのもオムツの中。

気持ち悪いわ、臭いわで本当に最悪だ。

人生最大のピンチ パート2だよ、全く。


などど、今後の人生について真剣に悩んでいると、

「ばああー、ばああーーーー。」

リュナが、俺の方を見ながら、全力のドヤ顔。

こいつわかってやってるとしたら天才だな。

0歳児が0歳児に喧嘩を売っている。

目で。

『えっ?あなたこんなこともできないんですか?一応お兄さんですよね?兄としての威厳はどこに?特技は、飯を食うことだけですか、このバカ兄貴さん??』

と言っている・・・

いやいや見間違いだろう。

カルラに色々言われて知らず知らずにストレスがかかっているんだろう。

こういう時は必殺

無視無視!

鼻の長い海賊さんも『スピリチュアル攻撃だ』って言ってたしね。


散々悪口を言って満足したのか、リュナ派御一行様は帰って行った。

「レイモンド様、どうしてですか!?リュナ様がつかまり立ちしているのを見せられて悔しくないのですか!??スローヤ家長男としてのプライドはどこに行ったのですか?」

「・・・・・。」

「レイモンド様!」

「・・・・・。」

お仕置きが必要だな、こいつ。

「ぅああああーーん、ああああ――ん。」

「もっ、もっ、ももも、申し訳ございません!!!」

焦っておるわ。

いい気味だわ。

「セドリック様。レイモンド様はまだ1歳にもなっておりません。そんなことを言っても分かりませんよ?」

ほんとはわかってますけどねーーー

「す、すまない。ジュリア。お前のいう通りだ。カルラに煽られてつい・・・」

「大丈夫ですよ。レイモンド様もそんなことで怒ったりしませんよ。」

も、ももも、もちろんさ。ははは。

俺は心の広い0歳児だぜ!

そんなことで怒るわけないだろ!!(汗)

「セドリック様、焦るお気持ちは分かりますが、私たちはレイモンド様を信じましょう。きっとレイモンド様が固有魔法の使い手となり、トールの名をついでくださいます。私たちは、レイモンド様がすくすくと育つようサポートしていきましょう。」

セドリックの顔がみるみるいつもの穏やかな顔に戻っていく。

「そうだな。ありがとう、ジュリア!」

「それに、たぶんもうすぐつかまり立ちをしようとすると思いますよ。」

「んっ?どういうことだ。」

さすがはジュリア。

俺のことを誰よりもわかっている。

「ご飯を食べる」→「寝る」→「運動する」

と来たら次にすることはわかるだろう?

そう、う◯こだ!!


人生最大のピンチ パート2だ。

それを脱するためなら、俺は努力を惜しまない。

これまで積み上げてきた行動と、先ほどのジュリアの発言を聞く限りでは、今日こそピンチを切り抜けるチャンスだ。

ミッション・スタート

♪てん・てん・てんてん・てん・てん・てんてん・てん・てん・・・・・タラターーーー・タラターーー・タラターーー・タラ♪

頭の中で不可能なミッションに挑む時にぴったりな音楽が流れてくる。


指令1

『ハイハイで部屋の隅まで行け!』

俺のハイハイは高速だぜ!!

コンプリート


指令2

『壁を使ってつかまり立ちをしろ!』

ふん、ぬぬぬぬ。はっ!

俺は立派なつかまり立ちをした。

この日のために夜な夜な訓練をしたのだ。

良いか、セドリック。必殺技というのは、ここぞというときに見せるものだ。

敵に見せつけるためにするのではない。

覚えときな、坊や!!

コンプリート


指令3

『アピールしろ!!』

ジュリアの方をじっと見ながら

「だああーー。」

続いて、隣の陶器を見る。

そして、再度ジュリアを見ながら

「だああーー。」

どうだ!?

「ハイハイ、レイモンド様はオムツではなくおまるで用を足したいのですね。」

「アババババ。(お前最高だぜ!!はっはー)」

ミッション・コンプリート!!


「ううううんんん。」

ぶりぶりぶりぶりぶり

「あはああ。」

スッキリ!

こうして俺の人生最大のピンチ パート2は無事に終わったのだった。


後日、

「えっ?まだオムツ使っているんですか?えっ?驚きますね。リュナ様は随分とゆっくりでいらっしゃる。のんびりした性格なのでしょうかねえ?あはははは。」

今度は仕返しとばかりにセドリックがカルラを煽る。

「くうぅぅぅ。おのれ、セドリックめ。」

「はははははは。」

こいつらは・・・・

相変わらず子供の成長一つで言い合いをしている。

おいおいお前ら良い加減大人になれよ。

あーあーリュナが泣きそうだぞ。

「ぎゃああああ、あああああん・・・・」

あ、泣いた。

やーやーやー、やーやーやー。せーんせいに言うたろ♪


ちなみに、俺がハイハイにこだわってなかなかつかまり立ちしなかったのには理由がある。

実際には諸説あるのでどこまで鵜呑みにして良いのかはわからないが、ハイハイをする期間が短いと、発達に影響するらしい。

と言うわけで俺は、しばらく歩かないでおこうと決めていたのだ。

大切なのは、健やかに成長することだ。

この世界の貴族の常識では、親が子育てに関わらないようだ。

そして、子育てをしている奴らの知識は、残念ながら遥か昔の化石のようなレベル。

全くもって正しい知識がない。

となれば、教育の専門家(小学校の教師であって幼児教育の専門家じゃないけどね!)として、セルフマネジメントをしっかりとしておかないとな。


というわけで、俺は今日も高速でハイハイをするのであった。

「レイモンド様!つかまり立ちを見せつけてやってくださいよーーーー!!」

「全然つかまり立ちしないじゃないか!!セドリック、嘘をついたね!!」

「何を言うか!!!レイモンド様はう◯こをするときに立たれるのだ!!レイモンド様、う◯こをしてください!!」

はっ、恥ずかしい・・・

「レイモンド様、う◯こですよ!!」

この世界にやってきて結構な時間が経ったが、今が一番帰りたいって思っているかも。

「レイモンド様、う◯こです!!立つためにう◯こしましょう!!」

しつこーーい!!

「リュナ様!!レイモンド様に負けないために、う◯こしましょう!!今すぐ、トレーニングです!!さっ、オムツを脱いで!!」

「ぎゃあああああああああああ。」✖️2

ほんとカオスだな。


こうして俺の人生最大のピンチは終わったのだった。

ああ、こいつらマジでうるさいなーーー

「いい加減にしてください!!!」

ジュリアの叫び声が部屋の中に響くのだった。

一番年下の女の子に怒鳴られる大人って、おーーーい!!

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