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2.人生最大のピンチ その1

どうもレモン君です。

本名は、レイモンド・スローヤ。バリバリの日本人として35年間過ごしてきた、俺としては横文字の名前は気に入らねえが仕方ねぇ。

なんせ俺は生まれ変わった(?)んだからな。

親の顔を見てみると金髪色白のイケメンと美女だ。

となると俺も当然、金髪色白のナイスガイに違いない。

そんなビジュアルで、

『三星湊です!よろしく!!』

なんて言っても、

『はぁ??』

となるだけだよね。

ということで、今の俺のことはレモン(レイモンドを省略して)と呼んでくれ。

言っておくが、俺は唐揚げにはレモンを絞る派だ。

でも、絞る前に一言確認は忘れないでくれよ。

そういえば、奥さんに

『でも、それって聞かれた時点で断れないよね?絞らないで欲しくても、絞らないでくださいってよう言わんよ。』

と言われて、なるほどと思ったのだった。

って、なんの話や!!


ふう。誰も突っ込んでこないとは、こいつら関西人の風上にもおけんなぁ。

てめえらの血の色は何色だ??

・・・あまりに退屈すぎて、一人で会話を楽しむしかないって本当に赤ちゃんって暇だよね。

えっ?ハイハイしないのって?

舐めてもらっちゃ困るよ。

今の俺の歳は、3ヶ月だ!

ようやく首が座ってきたところだぜ。

そんな奴がハイハイしてたら気持ち悪いだろ?

それに不安定な首をグラングランさせながらハイハイなんかしてたら命にかかわるぜベイビー。

子育て経験者の俺からしたら、今ハイハイするなんて自殺行為だぜ。

もし、俺の目の前でハイハイしようとする3ヶ月の赤ちゃんがいたら、俺はこういうぜ。

『馬鹿野郎!自分の命をなんだと思っているんだ!!お前のことを大切に思ってる人の気持ちを考えろ!!!』

ってな。


「レモン様、お散歩に行きますか?」

「あーー。(行く!!)」

さて、ハードボイルドごっこはここまでにして、召使いのジュリアと散歩に行くか。


「レモン様、いいお天気ですね。」

「うーー。ああーー。」(気持ちいいね)」

さっきから「うーー」とか「あーー」しか言っていないって?

おいおい、これだから素人は。

3ヶ月で喋れるわけがないだろう。

固形物を噛むこともできないようなひ弱な3ヶ月児が、ペラペラと喋るだけの筋肉がついてるわけないだろう。

全く非常識な発言はやめていただきたい!

「あーー!(全く!)」

「レモン様、どうしましたか?どこか痛かったですか?」

不機嫌そうな声を出してしまったので、ジュリアが心配してきた。

「あーー(違うよ!)うーーー。(ご機嫌だぜ)」

ふう、誰とも会話できない寂しさを自己内対話で埋めてたら、いつの間にか声や表情にまで出てしまっていたとは。

全く。

これでは迂闊に、一人漫才ごっこや、一人インタビューごっこもできないじゃないか。


「レモン様。今日は、お父様のジルベール様は、訓練場でスローヤ騎士団の訓練をされていますよ。ジルベール様はメイジール王国でも特に優れた雷を操る魔法使いです。とても強いんですよ。」


生まれてから3ヶ月、体の成長は自然なものなので、まだ話すこともできないし、寝返りすらできない。

でも、脳みそは特別製なのさ。

脳みそ自体は3ヶ月の赤ちゃんのものなので、大人だった時のように頭は回らないし、すぐ眠くなるし、性格も子供っぽくなっている。しかし、湊だった時の知識がしっかりと受け継がれているので、思考力は低くとも、色々と考えることはできる。

まさに、体は子供(赤ちゃん)、頭脳は大人!

いつでも名探偵になれそうな気分だぜ、ばーろう!!


「レモン様は表情が豊かで、とても可愛らしいですね。見ていて本当に癒されます。」

照れるじゃないか。

ジュリアも最高な女だぜ!

なぜなら、この子はたくさん話をしてくれる。

当然だがこの世界の言語は違う。だから、言語を理解するためには、たくさん言語に触れる必要がある。

しかし、話すという行為は基本的には相手があって行うものである。

(一人ディスカッションがもっぱらの趣味となっている私は例外ですけどね。)

そんな中で、このジュリアは暇さえあれば話しかけてくれる。

それを俺は一語一句逃さないように聞き取っている。そして、まだまだぼんやりとしか見えない目を凝らしながら状況を見て、言葉を覚えていった。

普通三ヶ月で言葉を理解できるようにはならんけど、そこはスポンジのような子供の吸収力と大人の知識&考察力ですよね。

今では、7割くらいの会話はわかるようになってきた。


「奥様ももっとレモン様を可愛がってくださればいいのに。」

理由はまだわかっていないが、両親は俺と双子の妹リュナ・スローヤをあまり可愛がろうとしない。

母親のアンナ・トール・スローヤは1日に1回は顔を見にくるが、大抵途中で涙を流して出ていくのだった。

父親のジルベール・トール・B・スローヤは、2、3日に1度会いに来る。

顔を見るとやはり思い詰めた様子である。

この理由を早いところ知りたいところだが、この話題はみんなあまりしたがらない。

俺が言語を理解していると知っている人は誰もいないはずなんだけどな。

よっぽど本人の前では言いにくいことなのかもしれんなあ。


おや?

これは・・・

まずい。

「うーー。うああ。あああーーん。ああああーー〜ん。」

こうなってはもはや止められまい。

来てしまった。

我が人生最大のピンチ

私の力ではどうにもならない。

これのせいで私は毎日、背徳感を覚える羽目になってしまっているのだ。


「よしよしよし。レモン様お腹が空いたのですね。今お部屋に戻りましょう。すぐに乳母のエミィを呼んでまいりますね。」

うおおおおおおお。

助けてくれ〜〜〜〜〜〜

35歳の俺が、

10歳の娘をもつ俺が、

学校で子供たちの前で、偉そうに道徳の授業をしている俺が、

毎日、自分(湊)よりも若い女の子のお乳を飲むことになるなんて。

これは、背徳感2000パーセントだ。

いっときSNSでバズっていた「悪魔の◯◯」とかいう高カロリーの食べ物を食べるより、二郎系ラーメンニンニクましましチャーシュー大盛りを注文するより、ずっとずっと背徳感満載だ。

これだけは何回やっても慣れない。

もし、この姿を美結に見られようものなら、

『キモい。クソ親父。滅べ!ヘビーメ◯ルバー◯ト!!!』

と未来のアメリカ人が使いそうな街を滅ぼすレベルの魔法をぶっ放すこと間違いなしだろう。


「ごきゅごきゅごきゅ・・・・」

そうは言っても、腹が減っては戦はできぬ。

戦に行く予定は未定だが、飲まないと命に関わるので背徳感を押し込めて飲んだ。

ちくしょう。

こんなに恥ずかしいことはないぜ。

小学校の時にランドセルを忘れて学校に行った時も、大人になってから研修の途中で可愛いオナラが出ちゃった時もここまで恥ずかしくなかった。


「げぷっ。」

エミィに背中をポンポンしてもらって、ゲップをしたら眠気が襲ってきた。

いつまでもこうしているわけにはいかない。

そろそろあの・・・作戦を・・・す・・る・・・・か。

「ぐーーぐーーぐーー。」


パチッ!

目が覚めた。

あたりは暗いな。

ジュリアは?

「すぅ、すぅ・・・・」

よし、ジュリアの寝息が聞こえる。

これはチャンスだ。

よし、それ!

まだまだ!!

そーれ。

ちくしょう!

負けないぞ。

35歳のおっさんの気合いと根性を舐めるなよ!!

今度こそ・・・・・・


「おぎゃあ、おぎゃああ、おぎゃあああ。」

ジュリアが気がついた。

さあ、見ろ!!

どうだ。

すごいだろ!!

「きゃあ、レモン様!!大丈夫ですか。すみません、私がうとうとしてしまったばかりに!!」

ジュリアが焦って、俺を抱っこする。

まあ、それもそうか。気がつくと俺が泣いていた。

しかもうつ伏せで。

「息ができなくて苦しかったですよね?大丈夫ですか?どうしてこんなことに?ああ、どうしましょう?奥様に怒られてしまいます。もしかすると、クビになるかも!!それだけはいやーー(涙)」

おおーーい、ジュリアさんやーい。

落ち着きなはれやーーい

「落ち着きなさい、ジュリア。これは、レイモンド様が寝返りができるようになっただけなのよ。」

そうそう、さすが経験者のエミィ。

高校生くらいに見えるジュリアとは経験値が違いますね。

「えっ、あ・・・・・・・、ああ!!寝返りが!!」

やっと理解したらしい。

「それにしてもレイモンド様は寝返りするのがとても早いわね。私の娘の時は、6ヶ月くらい経ってからだったのに。」

そうそう、うちの美結ちゃんも5ヶ月経った時だったな。

「それって、レモン様が天才ってことですか?」

「こら、ジュリア。私たちは召使いなんだから、ちゃんとレイモンド様って呼びなさい。」

よいよい。堅いことを言うではないぞよ。

「すみません。レイモンド様、すごいです!!」

でしょでしょ。

じゃあ、次に言うことは決まっているよね?

エミィ、わかっているよね??


「本当はもっとゆっくりのはずだけど、レイモンド様は寝返りもうてたし、食べ物にも関心を示すようになってきたし、そろそろ離乳食を始めるよう、奥様に言ってみましょうか。」

はい、キターーーーーーーーーーーーーーーーーー!!

来ました!!

さすがエミィさん!!

よっ、日本一!!

「あーー!!うーーー!!(ヤッホーーイ)」

さようなら、2000パーセントの背徳感!

さようなら、(想像の中の)娘の冷たい目。

さようなら、(想像の中の)奥さんの飛び蹴り。

「あら、レイモンド様。すごく嬉しそうね。なんか乳母としては傷つくわ。やっぱりやめようかしら。」

ぅおおおおおおおおおおーーーーーーーーい!!!

俺の完璧な作戦がぁぁぁ!!!

「うえええええええ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん。」

泣いてやる〜〜〜〜〜〜〜〜

「あらあら、よしよし。冗談よ。美味しい離乳食作ってもらうからね。」

よし!!

「あばぁぁあ(今度こそキター――)」

なんか二人してじっとこっちを見つめてきているな。

「レイモンド様って・・・」

「本当ね・・・・」

何よ、なんなのさ

「まるで言葉がわかっているみたいな反応をしますよね。」

「そうそう。しゃべってはないけど。『離乳食が食べたい!!』って言っているように見えてくるわ。」

「それに、表情が豊かすぎますよね。私、子育てしたことがないからわからないですけど、エミィさんのお子さんもこんなかんじでしたか?」

「いいや、こんなに表情が豊かじゃなかったわよ。」

これはまずい。もしかすると、言葉がわかっていることも、中身が35歳のおっさんだということもバレてしまうかも。

「なんか気まずそうな顔しているわよね。」

ジ〜〜〜〜〜っと二人に見られている。

「きゃっ、きゃっ、きゃはあ。」

乾いた笑いが深夜の部屋に響き渡る。

「まっ、そんなわけないですよね。」

「そうね。気のせいでしょう。さっ、お乳を飲ませて寝かしつけましょう。ジュリア、少し休んで来なさい。私が寝かしつけておくから。」

「エミィさん、ありがとうございます。では、よろしくお願いします。」

そう言ってジュリアは、自分の部屋へ下がっていった。

「さっ、レイモンドおぼっちゃま。もうすぐ飲み納めになるんですから、私のお乳をゆっくり味わって思い出にしてくださいね。」

そんなことをエミィが言うものだから、今夜のお乳は背徳感4000パーセントになってしまった。

エミィの馬鹿野郎!!

頭の中の娘が魔法を放つ。

『ヘビーメ◯ルバー◯ト!!!』

俺は、最強の魔法にやられて、ベッドに沈むのだった。

がくっ・・・

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