2.身の上に心配あーる3乗
「それではみなさん、今日は風魔法の基礎であるウインドショットの訓練をしましょう。」
「ええぇ、それくらいできますよ〜。」
「セドリックさんも、俺がもっとすごい風魔法使えるの知ってるだろ?」
「お腹すいた〜〜〜。」
「・・・。」
もはやこの3バカが順番に話すのも定番となったな。
そして、ジェロームは常に空腹だな。
「みなさん、何事も基礎練習からです。」
・・・セドリックの言うことももっともだが、正直基礎練習ほど退屈なものはないよな。
「なぁ、ちなみにドミニクはどんな練習がしたいんだ?」
「えっ、俺様か?そうだな。俺様は、この前お前がやった馬鹿でかいファイヤーボールが使えるようになりたい。と言っても、お前みたいに馬鹿みたいに魔力が多いわけじゃないけどな。」
「『馬鹿』『馬鹿』うるさいわ、この馬鹿!!」
「てめえが聞いてきたんだろ!!」
「だからって『馬鹿』は余計だ、この馬鹿!!」
「なんだと、この馬鹿!!」
「まあまあまあ、ドミニクくんもレイモンド様も落ち着きましょう。どうせ一緒に訓練をするのなら、いがみ合わず、仲良くした方が良いと思いませんか?」
(意外なことに、ガエルは実は理性的なやつなんだな。)
ガエルに言われて、何となく言い合いしてのが恥ずかしくなってきた。
落ち着け、俺。
体は5歳で、ついつい体の年齢に引っ張られて子供みたいな(※子供です)性格になってしまうが、元々俺は大人じゃないか。
思い出せ、アンガーマネージメント!!
『怒りを感じたら行動する前に10数えろ』
(1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、落ち着いた。)
「ドミニク、すまなかった。」
「あっ、ああ。いや、俺様が悪かった。俺の方が年上なのに、すまなかったな。レイモンド・・・様。」
「仲良しになるのは、良いことだよね〜。友達と食べるドーナツは最高だよ〜、レイモンド様」
(あっ、ジェロームが想像して涎垂らしてる・・・。)
ジェロームはいつもお腹空いてるけど、優しくて良いやつだな。
ガエルは実は3人の中では一番大人なのかもしれないな。正直心が5歳児の俺よりも・・・がっくし。
ドミニクは偉そうなやつでつい言い合いになってしまうこともあるけど、反省するとすぐに気持ちを切り替えることができる。
(なるほど。)
俺の中で、『3バカトリオ』が実は結構良い奴らなんじゃないかと評価が変わってきた。
(仲良くしてみるか。)
「なぁ。みんな。今度からは俺のことはレモンって呼んでくれ。レイモンド様なんて呼ばれるのは恥ずかしいしな。」
そう言って照れながら歩み寄ろう話をすると、
「レモンってあの酸っぱいやつか?お前のあだ名変なの!わははは。」
(前言撤回!!)
「お前の望み通り、馬鹿でかいファイヤーボールをお前のうるさい口にぶち込んでやるよ、ファイヤーボール!!」
「わああああああああ。」
「ぐわああああ、ごめん、すまん、許してくれ!冗談だ!」
「ひいぃぃぃぃぃ!!!」
ごおおおおおお
ファイヤーボールは空高くへと飛んで行った。
キラン
「ほら、ドミニクくん。ちゃんとレモンくんに謝ってください!」
「そうだよ、ドミニクくん。そんなこと言ってたら、訓練が始まらないじゃないか〜。そしたら、おやつの時間が・・・・。」
「すまない。もう言わないから許してくれ。」
そう言って、ドミニクは正座をしながら謝った。
俺も心の中で反省する。
俺の心よ!成長してくれ〜〜〜〜〜〜〜〜
「ふう。とりあえず練習するか。」
「賛成!!」×3
「では、気を取り直して。ドミニクくん、君にはさっきのファイヤーボールはどんな魔法に見えた?」
「そりゃ、貴族だから使えるえげつないくらい魔力を使ったファイヤーボールだろ?」
「ドミニクくん、もしそうだとしたら一回で使う魔力の量は凄まじいことになりますよ。」
「僕には無理だよ〜。お腹がぺっちゃんこになるくらい魔力使っても無理〜〜。」
ほぅ、ガエルは気がついているのか。
やっぱり賢いな。
「では、ガエルくん。君にはどんな魔法に見えた?」
「はい。どう見えたかと言われれば、巨大なファイヤーボールに見えますが、実際は違うのではないかと思います。どうですか?」
「ガエルくん、続けてください。」
間違いない。
ガエルはあの魔法の正体に気づいている。
「はい・・・。あの、間違ってもいいですか?」
「ガエル。間違いを恐れなくていい。どれだけ間違えても良いのが子供の特権だ。」
俺、教師らしいこと言ったね。ふふふ。
「・・・レモン。お前、時々大人みたいなこと言って、ガキぐわ・・もごもご。」
「ああああああああああ、お腹すいたぁぁ。」
「ほ、ほ、ほほ、ホントですね、ジェローム。」
ガエルとジェロームがドミニクの口を塞いでいる。
なんか言いかけていたような・・・。
「で、ガエルくん。間違いを気にしては成長しませんので、気にしないでください。ぜひ、君の考えを教えてください。」
ガエルは、ドミニクから離れた。
これ以上変なことを言わないかドミニクをチラチラと見ながら、さっきの続きを説明し始めた。
「多分ですが、あのファイヤーボールは中が空洞なのではないでしょうか?もし、そうならその分の魔力を節約できます。」
「どうですか?レイモンド様?」
「ガエルの言う通りだ。ガエルは賢いな!見抜かれると思わなかった。」
「なんでそんなことするんだ?どっちでも同じじゃないのか?」
ドミニクがそんなめんどくさいことしなくて良いだろういう感じで聞く。
「ドミニクくん、中が炎なのか空洞なのかで大きく違うんですよ。もし、中が炎だとすると、中身の炎を作る分も魔力を使います。でも、中が空洞なら、魔力は外側の炎の分だけになります。この違いはびっくりするくらい大きいと思いますよ。多分、中身が詰まった巨大ファイヤーボールは、俺には一生使えないと思います。」
ガエルが説明をしていると、今度はジェロームが聞いてきた。
「ねえねえ、それってどれくらい使う魔力は違うの?」
(良い質問ですね。)
俺の心の中の、池◯み先生が褒める。
「そうですね。とても大きな違いがあるということは確かですが、実際にどれくらい差があるかは私にはわかりません。レイモンド様、違いがどれくらいかおわかりになりますか?」
「ちょっと待ってくれよ。今、計算をするから。」
「はっ?」×4
「レイモンド様、そんなこと計算できるのですか?」
「レモンくんの頭はどうなっているんですか?」
「わけわからん。もう少し簡単に教えてくれ。」
「普通のファイヤーボール何個分くらいかな?あれがもし巨大なドーナツだとしたら、きっと1万個以上で・・・ぶつぶつ。」
こういう時に算数が役に立つよね。
俺は1人で
「身の上に心配あーる3乗。」
とぶつぶつ言いながら、地面に式を書いて計算をし始めた。
まず、小さなファイヤーボールが半径3cmだとすると、体積は4/3×π×3×3×3だ。
巨大ファイヤーボールは半径3mだとすると、体積は4/3×π×300×300×300だ。
つまり、比べてやると中身の詰まったファイヤーボールを作るには、普通のファイヤーボール約100万個分の魔力が必要ということになる。流石に俺でも無理だな。
次に、中身が空洞のファイヤーボールを計算してみる。
まず、半径3mの球の表面積を計算すると、式は4×π×300×300だ。
そして、厚さだが超極薄の0.1cmだ。
となると、空洞のファイヤーボールのおよその体積は4×π×300×300×0.1となる。
つまり、ざっと計算すると空洞の巨大ファイヤーボールは通常のファイヤーボール約1000個分の魔力でできることになる。
1000個というとすごい数に聞こえるが、一番基本で簡単と言っていいファイヤーボールなので、1000個と言っても高が知れている。
俺にとっては、そこまで苦じゃない。
もちろん1日に何十発も打てるわけではないが。
「はい、お待たせしました。」
「えっ。レモンくん、もう計算できたの?」
「早く、教えろよ。」
「えっ?まだドーナツ10個しか食べてないのに?」
ジェロームだけ非難している顔だった。
逆にこの短時間で10個も食べるって凄すぎるわ!
この食いしん坊め!
「分かりやすくするために、普通のファイヤーボール何個分かで説明するな。めんどくさいから計算の仕方は省くが、もし中身が詰まったファイヤーボールを使おうとしたら、普通のファイヤーボール約100万個分の魔力を使う。」
「凄まじい量の魔力ですね。」
ガエルは冷静に、必要となる魔力の量の多さに驚いている。
「うげぇえ。」
ドミニクのような梅干しサイズの脳みそでもすごーーく大変だってことだけはわかったのだろう。
「ドーナツ100万個・・・。」
ジェローム1人だけニヤニヤしてた。こいつの頭はドーナツでいっぱいだな。
「どのように計算をしたのか気になります。」
セドリックだけ着眼点が違った。
そして、俺は俺で、
(100万個って言われたら、ドーナツより餃子だろう?)
グゥ〜〜〜×2
俺とジェロームの2人のお腹が鳴った。
「レイモンド様??」
「あっ、ああ。うん。え〜と、100万個分という消費魔力だと、さすがに俺も使えないだろう。魔力が枯渇してしまう。」
正直な感想を言う。
「では、今度は俺が使った空洞の魔法だが、消費魔力は普通のファイヤーボール約1000個分だ。」
俺が計算結果を伝えると、
「ものすごい節約になりますね。この工夫は素晴らしいです!!」
と、手放しで賞賛をするガエル。
「1000個分か。俺でもできるか?」
と、ワクワクしているドミニク。
「それくらいなら1日で食べ切れるかも。」
と、なぜか同じくワクワクしているジェローム。
「やはり計算の仕方が気になる。」
と、相変わらず1人だけ着眼点の違うセドリック。
(算数は素晴らしいね。)
と、魔法を放って、算数を賞賛する俺。
みんながバラバラに考えている中、一番ちゃんとしているガエルが、
「とても素晴らしい魔法だとわかりましたが、一つ疑問があります。レモンくん。」
「なんだガエル?」
「中身が空洞になることで、かなり消費魔力を節約できることはわかったのですが、そうすると中身は空気になりますよね?」
「ああ、そうだ。」
「では、なぜ先日ドミニクくんが放ったアイシクルランスが、ファイヤーボールに当たって溶けたのでしょうか?実質はただの薄っぺらな火の膜のような魔法なので、アイシクルランスなら溶けながらも突き抜けてレモンくんに届いたのではないでしょうか?」
「なるほど。ガエルくんは本当に鋭いですね。私もそれは気になっていました。」
「・・・。」×2
いろんな意味でリタイヤしている2名を放置して話は進んでいく。
「ああ、それか。簡単に言うと中の空気がめちゃめちゃ温められているからだ。炎そのものではないが、氷くらい簡単に溶かせるくらいの高温の空気が炎の膜に覆われているというのがこの魔法の正体なんだ。」
「なるほど。」×2
俺のイメージは『炎でできた風船を高温の空気で膨らませた』という感じだ。
だから、魔法ができる過程をスロー再生すると、実は風船のように膨らんでいっているのだ。
巨大な火の玉がボンと現れるのではなく、ぷくーっと膨らむ感じなのだ。
魔法というのはイメージが重要だ。
そしてイメージする上で、その魔法を何かに例えることができると、ほぼ成功すると言っても過言ではない。
魔法というのは魔力をイメージで加工し、スペルと共に具現化するものだ。
(もちろん制限はある。例えば、固有魔法は貴族や王族にしかできないなどな。)
魔法にとってイメージが何より大事だということは、現代の日本で35年生きた経験のある俺は、ある意味魔法を使うための素地がめちゃめちゃ育っていると言っても過言ではない。
科学で実現されているもので俺が直接見たものならば、比較的簡単に魔法に置き換えて実現できてしまうのだ。
『コンロ』という魔法を作ってしまえたのがいい例だ。
「これを使えてしまうとは、レモンくんはすごいですね。天才です!」
「いやいや、それよりガエルの考察力にはびっくりだ。ガエル、お前こそ天才じゃないか。」
ただの弱い者いじめが好きな変態じゃなかったんだね。
お父さん安心したよ。
「俺なんか天才じゃないです。でも、・・・レモンくんやセドリックさんの話を聞いて、色々考えていたら面白くなって・・・。魔法の仕組みを考えるって面白いですね!」
ガエルとはなかなか気が合いそうだ。
さて、早々にリタイヤした2人はどうしてるか。
「おい、レモン!俺にもその魔法使えるようになるか?」
「そうだな・・・。なあ、セドリック、今日の訓練のメニューはなんだ?」
「はい。ろうそくの火を等間隔に並べ、離れたところから狙った1つの火だけをウインドショットで消すという訓練です。」
「なるほど。よし。じゃあ、それを試してみようか!」
「はっ?なんでだよ。俺は、ドデカファイヤーボールを使えるようになりたいって言ってるんだぞ。なんでウインドショットなんだ?」
「説明は後でするから、とにかくやってみようぜ。もし、一発で成功したら、ドデカファイヤーボールのやり方を教えてやるよ。」
「本当だな?よし、やってやろうじゃねえか。」
ドミニクがようやくやる気を出した。
ジェロームは、気がつけばおやつのドーナツをほとんど食べ終わっていた。
そして、残りの2人は、
「なるほど。これはイメージする力を測るということですよね?セドリックさん。」
「ええ。どの魔法にも関係する基礎的な力です。それがなければ、神業的なファイヤーボールはできませんからね。」
ふふふふふ、さて3バカ、もとい、賢い奴&馬鹿な奴&食いしん坊の3人組には、
でっ、きるーかな?でっ、きるーかな?さてさてふふーん♪