1.友達100人できるかな?
3曲目は、ベートーヴェンの『ロンド・ア・カプリッチョ』だ。
自筆譜に書かれた正式な名称は、『奇想曲的なハンガリー風のロンド』だそうだ。
この作品は、実は初期の作品らしいのだが、ベートーヴェンの死後になって発表された曲なのだそうだ。
ベートーヴェンはこの作品を未完成のまま放置しており、それを誰かが書き足したらしい。
(・・・ネットで調べた情報だけどね!!)
でも、この曲はコンサートに来る前から知っていた。
いつも見ているクラシックのテレビでやっていたからだ。
正式な名称はさっき言った通りだが、別の呼ばれ方もあって、そっちがあまりに特徴的すぎてある種のネタとして紹介されていたのだ。
それを思い出しているとカバンが大丈夫か、心配になってくる。
ゴソゴソ。
「ごほん。」
「失礼しました。」
できる限りの小声で謝る。
金縁マダムに手が当たってしまったらしい。
ちょっと手が当たったくらいで咳払いして睨んでくるのは〜、どこのどいつだい??
(マダムだよ!!)
と、ここの中でボンテージを着て鞭を振り回す某女芸人さんが、ブチギレ案件だ。
そうは言っても気になるカバンの中身がぁ、ああああああああああああああああああ
「あああああああ。ジュリア!」
「はい、レモン様。おはようございます、昼ですけどね!!」
3度目のステラに来て早々に、ジュリアに嫌味を言われた。
(嫌味を言ったら泣いちゃうぞ。坊が泣いたらすぐバァバが来て・・・)
いかんいかん。
調子に乗ってジ◯リごっこしていると顔のでかい魔女にネズミにされるところだった。
「・・・寝坊したのか?」
「はい!もちろん!!それはそれはたくさん!!!何度も起こしたのですよ!!!!」
そう言って、ジュリアは涙目になっていた。
「また、レモン様が起きないのではないかと思って心配しましたよぉ・・・。」
「ごめんな、ジュリア。時々、眠りが深くなるようだ。必ず起きるから心配しないでくれ。」
「ぐすん。・・・わかりました。起きてくれたから、ジュリアはもうそれで良いです。」
ジュリアは本当に優しいな。
湊の時は男3人兄弟の末っ子だった。
そして今は双子の兄。
お姉ちゃんがいるってこんな気分なんだろうか?
なんて心がほっこりとしているとセドリックもやってきた。
「あっ、レイモンド様。おはようございますぅ?」
なんか歯切れが悪い返事だな。
「ああ、おはようセドリック。昼だけどな!!」
「なんで、寝坊をされたレイモンド様の方が偉そうに言われるのですか?」
(ふっふっふ。)
「なんとなくだ!」
「左様でございますか。昼食の支度はすでに整っておりますので、すぐにお着替えください。」
仕方ない。
着替えて飯でも食いますか!!
今日は太陽の日だ。
要するに休日だ。
と言っても、日本のようにみんなが休んでいるというよりは、子供が勉強や訓練をしない子どもの休日というニュアンスが強いかもしれない。
大人はなんだかんだ仕事をしていることが多い。
作物の世話や家畜の世話はもちろん、見回りなども休日だから休みますというわけにはいかない。
だから休日だと言っても父上は仕事でどこかに行っていることが多い。
問題は、
「あら?今起きたの?相変わらずだらけきった生活をしてるのね、オ・ニ・イ・サ・マ!!」
(嫌な予感に限って当たるのよね。ヤダヤダ。)
「ああ、おはよう。イ・モ・ウ・ト・サ・マ!!」
いつも時間をずらしてご飯を食べるようにしている。
家族みんなで食事をするときは仕方なく同席するが、それも滅多にあることではない。
なぜならば、俺とこいつは仲が悪いからだ。
「あああああ、せっかく私の優秀な召使いたちが用意してくれたランチが、空気が不味くなったせいで味が落ちたように感じてしまうわ!!残念。」
「空気を悪くして、料理の味を不味くする魔法があるのか?ぜひ、それはご教授願いたいところだ!覚えた暁には、ぜひ可愛い妹に使って差し上げようじゃないか!!」
プチッ!という音が聞こえた。
気がする。
「お前がいるから、ご飯が不味くなったって言ってるだけだろ?そんなこともわからないのか???あああん????」
「だったら部屋に引っ込んでご飯を食べておけばよろしいんではないですか???この超絶口悪女さんよぉぉ!!!」
「それはこっちのセリフじゃ〜〜!お前こそ部屋に引っ込んどれ!!!このくそねぼすけ!!!!」
「ガルルルルル!!!!」
「シャアァァァアア!!!!」
コツコツコツコツ×2
「レイモンド様。」
「リュナ様。」
セドリックとカルラが落ち着いた声で俺たちを連行していく。
こういう時だけ、仲の悪い2人はアイコンタクトで連携しているのだ。
解せぬ。
「このクソ、ふがふが〜〜〜〜」
「FU◯K!!!!!」
つい放送禁止用語を使ってしまった。
まあ、この世界で英語がわかる人はいないからいいか。
仕方なく俺は自室でランチを食べることにした。
全く、厄日だよ。
気がつけばもう風の日。
父上が言っていた魔法訓練スタートの日だ。
昨日アロンが父上からの伝言を伝えてくれたのだが、
『明日からの魔法訓練、手を抜かずしっかりと取り組むが良い。それと、1人では訓練も退屈だろうから、共に訓練をする仲間を呼んでおいた。その者たちと存分に練習し、互いに切磋琢磨して成長すると良いぞ。では、頑張れよ、レイモンド。』
とのことだった。
「ラララッラーララッラーラー♪ラララッラーララッラーラー♪友達100人できるかな?」
「ご機嫌ですね。レイモンド様。」
ふ
ふふふ
聞いてくれるかい?
「そうなんだよセドリック!!どんな人が来るのか楽しみなんだよね〜〜〜〜〜〜〜〜♪」
そう言って、小学1年生にぴったりの歌を歌ってスキップしている俺。
それを見ながら、シラーっとした顔で、
「100人も来ないと思いますよ?そもそもスローヤ領に・・・・」
「あああああああああああ、うるさい、うるさい!!シャラーーーップ!!!」
セドリックがうるさいので、英語で黙らせてやったぜ!!
「レイモンド様。意味がわかりませんが?どちらの言語ですか?」
「ハンバーガーをこよなく愛する国の言葉だぜ!」 ※非常に偏った個人的な意見です。
「ハンバーガーという代物もよくわかりませんが、とにかく落ち着いてください。」
ふーふーふー
「友達ができるかもしれないということに興奮する気持ちはわかりますが、一度落ち着きましょう。」
俺には5年間友達がいなかった。
周りは大人で、出会う子供と言えば、あの双子のイヤきちさんだけだ。
(そりゃ友達もほしくなるだろう?)
セドリックとジュリアとも仲良しだが、いかんせん年が離れすぎてるからな〜〜
やっぱり同年代の友達が欲しいのは当然!
アルベルトも友達だが、友達なんてもんは多けりゃ多いほどおもろいものだ。
時々煩わしいけどね・・・。
でも今はまだ5歳の俺は、いろんな人といろんな遊びをしたいのだよ!!
素敵な友達できるかな〜〜???
「お〜〜〜い、レイモンド様〜〜〜〜。」
「お腹すいた〜〜。」
「おーー、邪魔するぞ〜。」
「邪魔するんやったら帰ってぇ!!」
「ああ、そうか。・・・ってお前の親父が呼んだんじゃねぇか!!」
さすがドミニク、軽いノリツッコミまで習得しているとは。
「えええ、お前らなの??」
「なんだよ、俺様たちが来たらいけないのかよ?」
「そうですよ。俺たち父様に来るように言われたんですよ?」
「なんか食べ物ちょうだいよ!」
・・・楽しみにしてたのに、怒りん坊と、食いしん坊と、ズルりん?坊の3人て・・・
それに、なんか食べ物もらいにきてる奴いるし。
「おい、なんとか言え・・・?」
俺は、ドミニクが話しているのを手で遮った。
「ちょっと作戦タイムだ。」
「???」×3
そして俺はセドリックを呼んで10mほど離れこしょこしょ話をした。
「おい、どうするよ?」
「どうするも何も、旦那様が決められたことことですので、断ることなどできませんが?」
「でもさあ。3バカトリオやで?」
「レイモンド様、なんか言葉がおかしくなっておりますよ。」
「せやかて、あいつらと訓練って。キレるやつと食べるやつとズルいやつやで。どないして訓練せい、言うねん。」
などと、ステラの言葉で関西弁を使って悪態をついていると、
「なあ、いつになったら訓練始めるんだよ!!いい加減、待ちくたびれたぞ。」
とドミニクが痺れを切らした。
「嫌ですわ。奥様。ほんの少しなのに待てないなんて、紳士の風上にも置けないおガキ様ザマスね。」
「・・・レイモンド様。最近、内容面でも表現面でも発言がおかしくなっているように思うのですが、一体どこでそのような知識を得られているのですか?」
「現代人は基本YouTubeですよ。」
「はい?」
「あっ、いえ、こちらの話です。」
「とにかく、訓練を始めましょう。旦那様に叱られますので。」
「そうして、友達100人大作戦は暗礁に乗り上げたのだった。」
「誰に言っているんですか?」
「いえ、独り言です。」
(まあ、いっか。色々あったけど、ドミニクのツッコミには期待できるし、訓練してM-1にチャレンジするか。)
と心の中で決意して、
「よし、じゃあ訓練を始めようか!!」
「おう!!」×2
「腹減った。」
・・・・
「レイモンド様の専属執事かつ教育係の私、レイモンドが皆様にしっかりと魔法の訓練を行なっていきますので、どうぞご安心ください。」
やる気あり2人
やる気なし1人
無駄にやる気満々の自称先生1人
心配しかないな・・・。
どんな訓練になるのかな〜?