8.目には目を 歯には歯を(後編)
「おい、今日は何して遊ぶよ?」
「ドミニクくんは何がいいと思いますか?」
「そうだな。とりあえず鬼ごっこでもするか?もちろん魔法ありの!」
「ええぇ。走るのしんどいよ〜。ドミニクくんもガエルも走るの速いし、僕ばっかり鬼になるもん。」
「ジェロームが痩せれば良いんだろ?お前いつも食べ過ぎなんだよ。」
「そうそう、今日もカバンの中に食べ物たくさん詰めてきてるんだろ?」
「もちろんだよ。食べないと遊べないじゃないか。動くのにはエネルギーが必要だからね。」
そんなやりとりをしながら3人はいつもの橋のところまでやってきた。
「じゃあ、今日は狩りをするのはどうだ?」
そう俺が声をかけると、3人が警戒してこちらを見てくる。
「誰だ?」
ドミニクが聞いてくる。
セドリックの言う通り、ドミニクが明らかにリーダー格だな。
「やあ、俺はレイモンドだ。」
「レイモンド?なんだこのガキ。」
お前らも十分ガキだろうが。
「あっ!?ドミニクくん、こいつあれですよ!ほら、領主様の息子の。」
「ああ、お前がスローヤ家の。」
どうやら俺のことは知っているようだ。
「そうだ。俺の名前はレイモンド・スローヤ。領主の息子さ。」
さて、どんな反応してくるかな。
「そういえば、領主の子供って双子なんでしょ?」
「そうそう。ドミニクくん知ってますか?なんでも妹の方は、とっても優秀なんだとか。」
「ああ、俺様も知ってるぜ。兄貴の方は遊びまくってて、全然魔法の訓練をしていないらしいな。なあ、ジェローム、そういうやつのことなんて言うか知ってるか?」
「ええ?なんて言うの?」
「『無能』って言うんだよ!ははははは!!」
かちーーん
そういう反応で来ますか。
仮にも領主の息子に対して。
作戦をやめて今すぐぶっ飛ばしてやろうかな?
ふーーー。
深呼吸。深呼吸。
「ねえ、ドミニクくん。あいつなんか深呼吸してますよ。訳わかないことするんだね、領主の息子は。」
「ああ、そりゃそうだ。賢かったら、家でちゃんと訓練しているだろう。貴族様は専属の魔法騎士に教えてもらえることになっているんだからな。そんなにも恵まれてるのに、ほったらかして遊んでるなんて、バカのすることだよ。」
「ドミニクくん、ちょっと言い過ぎじゃない?あの子震えてるよ。泣かせたんじゃない?」
「ウッセー、ジェローム。良いんだよ!良い家に生まれたくせに、遊びまくってるようなやつに何言ったって許されるんだよ。」
もう一度、深呼吸。
よし。
落ち着いた。
湊の体だったら、こんなことを言われても全然気にならないけど。
※実際はそんなことありません。時に大人気なく怒ります。
レイモンドの体だと心も幼いから、こんな挑発につい乗ってしまいたくなっちゃうんだよね。
気をつけよう。
ひとまず、主導権をこちらに返してもらおう。
「なあ、ドミニク。」
「ああ??」
年下に呼び捨てにされて腹を立てているらしい。
身分の上では俺が上なのだから、本来なら当たり前のことだが、こいつのポンコツの脳みそでは身分というのは自分に都合のいい物らしい。
「この前、この川で水を飲んでいた平民の子を追いかけまして火魔法で火傷させたよな?」
「ああ!?何のこと・・・ああ、この前の狩りのことか!!」
「そんなことありましたね!!」
「ああ、あの子の・・・。あれは、」
「あれは、面白かったな!!」
はい、こいつはしばく決定!
「逃げ回る平民を追いかけて火魔法で攻撃する。今まで、いろんな動物の狩りをしてきたけど、その中でも一番面白かったよな?ガエル?」
「えっ?あっ、ああ。そうですね。スッ、スリルがありましたね。」
救いようがないな。
でも、決めたことだし、一度はチャンスを与えよう。
「なあ、お前ら。今からあの子に謝りに行かないか?そうしたら許してやるよ。」
「はっ???だははははははは!!マジか、こいつ!!面白いな!!領主の息子は笑いのセンスが抜群だな!!」
「ほんとですね。ドミニクくんによくそんな口が聞けますよね。」
「おもろすぎなんだよ、お前!なあ、ジェローム。そうは思わないか?」
「えっ、ああ。うーん。」
なんとなくジェロームだけ違うことを考えてそうだな。
「なあ、ジェローム!お前は2人と違って反省してそうに見えるんだが、お前だけでも一緒に謝りに行かないか?」
俺はそう言ってジェロームだけでも助けてやろうと考えた。
が、
「ウッセー!!このクソガキ!!!ジェロームは俺たちの仲間なんだよ!!勝手に決めつけんじゃねぇ!!!なあ、ジェローム?俺たちは仲間だよな?」
「えっ?ああ、うん。」
「そうか。」
おそらくジェロームは、本音ではアルベルトに謝りたいと思っているのだろう。
でも、ドミニクに圧をかけられてそれ以上言えなくなっている。
仕方ない。
そこで自分の思いを伝えられなかったジェロームにも反省してもらうか。
大事なのは、正しい心を持つだけでなく、正しい判断をし、正しい行動を行うことだ。
もちろん『正しい』なんて価値観は時代や状況によって変わるんだけどね。
少なくとも、差別を許さない心と、差別を許さないという判断と、差別を許さない行動が揃わないと十分じゃない。
ジェロームの心が良くても、それ以外ダメなら彼にも学ぶ機会が必要だ。
今回の作戦が彼ら3人にとっていい学びになることを願うしかないか。
「じゃあ、こうしようか?狩りの対決をしようじゃないか。と言っても獲物はお互いだ。お互いを獲物として狩り合うんだ。魔法の使用は自由だ。ただし、命を奪ってはならない。そして、相手が行動不能になったら終わりだ。」
それを聞いて、ドミニクが嬉しそうに笑いながら、
「面白え。やってやろうじゃないか。で、お前の仲間はどこだ?」
「レイモンド様。」
後から、セドリックが顔を出した。
「あっ!ドミニクくん。あいつ大人の魔法騎士なんか連れてきてますよ!あんなに偉そうなこと言ってたくせに、結局そんなことをするんですね。おい、お前卑怯だぞ!!」
「ちっ!大人が相手かよ。まあ、いい。いいぜ、やってやるよ!その代わり手加減してやらねえからな!!このクソチビ!!」
『かちーーん』という音が後から聞こえた気がする。
そして、同じ場所から感情のこもっていない声で
「おい。そこのクソガキども・・・」
という怒りを押し殺したセドリックが前に行こうとする。
「おおーい!!セドリック落ち着け。」
「・・・はっ!」
全く!こいつは俺がバカにされるとすぐにキレるんだから。
「おい、勘違いするな。こいつはただの審判だ。命に危険がないかどうか判断し、行動不能になった奴がいたら回収する係。俺の味方はしない。1対3の対決だ。どうする?もう少しハンデがいるか?」
『かちーーん』
今度はドミニクの方から聞こえた。
「上等だよ!てめえ。二度とそんな舐めた口聞けねえようにしてやる!!」
「よし、じゃあ決定だな。それじゃあ、狩りが終わった後の話を先に決めておこう。俺からの要求は、俺が勝ったら、お前らはこの前怪我をさせた平民アルベルトに謝れ!いいな?」
「ああ、いいだろう?いくらでも謝ってやるよ!!何なら裸になってダンスでも踊ってやろうか??」
「ははははは」×2
自信満々らしいな。
「で?お前らが勝ったらどうして欲しい?」
「そうだな・・・。同じでいいぞ。俺様たちに刃向かったことを謝れ!土下座してな。そして、裸になってダンスだ。ぷくくくく。」
「ドミニクくん、あいつのダンス楽しみですね?」
「ああ、本当に。お前も楽しみだろう?ジェローム?」
「えっ?ああ。うん・・・。」
「ではルールの確認をする。」
セドリックの仕切りでルールの確認をした。
①場所は森の中の橋よりも東側のみ。川を渡るのは禁止。森から出ても負け。
②魔法を使っても良い。
③命に関わるような行為は禁止する。
④行動不能(気絶、怪我、捕縛 等)になれば負け。一度、行動不能になった者は再参加できない。
「では10分後に、私が空に向かって火魔法を放つ。それを合図に狩りの開始だ。」
そう言われて俺たちは別の方向へと走っていった。
俺は北側へ、奴らは南側へ行った。
しかし、しばらく北に進んだところで俺は静かに南の方に向かい奴らの後を追いかけた。
「こんな勝負楽勝だな!」
「ほんとですね!ドミニクくんはこの辺の子供(魔法騎士)たちの中でも最強ですからね。」
「そっ、そうだね。」
「あいつが土下座する姿を見たらさぞスッキリするだろうな?」
「ほんとですね。楽しみです。」
ぐ〜〜〜。
「あっ!」
「おい、ジェローム。こんな時にも腹減るのかよ?お前は神経図太いな?」
「本当ですね。ジェローム、狩りが終わったら思う存分食べるといい。今は、食べると動けなくなるからね。」
「ああ、わかったよ、ガエル。」
「で、ドミニクくん。作戦はどうする?」
「作戦なんて必要ない・・・って言いたいところだが、わざわざ喧嘩吹っかけてくるくらいだ。あいつもなんか用意してるのかもしれないな。よし、じゃあ俺様が先頭に行くから、お前らは後からついて来い。もしあいつに出会ったら、3人で囲むんだ。囲んじまったらあとは、逃げられないように追い詰めて、あいつの大事な大事な平民くんと同じ目に合わせてやる。くっくっくっく。」
ほんと、あいつ性格悪いよな〜
「ごおおおお〜〜〜〜〜〜」
空に向かって大きめの火魔法が放たれた。
試合開始だ。
「よし、あいつは北の方にいるはずだ!探すぞ!」
「はい!!」
「う、うん。」
そう言って3人は、北に向かって走り出した。
案の定、ドミニクが先頭を突っ走り、次にガエル、そして一番後にジェロームが付いて行った。
5分ほど走っていると、
「まっ、待って〜〜!」
と、ジェロームがヘロヘロになりながら叫んでる。
「ジェローム!がんばれ!!早く、来いよ!!」
とかろうじて聞こえていたガエルが返事をした。
「はあ、はあ、無理だよう。」
「ほんと、あいつら、ひどいよな?」
「えっ?」
突然、横に現れた俺を見て、ジェロームが驚く。
その隙に、俺はジェロームのカバンを奪って、南に向かって走った。
「ジェローム、ご馳走様!この食料は、ありがたくいただくよ!!」
そう言って俺は勢いよく走った。
「まっ、待て〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!俺のおやつ〜〜〜〜〜〜!!!!」
ジェロームが信じられないくらい怖い顔をして。
これまで手を抜いていたのかと疑うような速さで走ってきた。
(セドリックの情報通りだな。)
まっすぐ走っていた俺は急に横に曲がった。
急に目の前から俺がいなくなったことに戸惑い、周りをキョロキョロしているジェローム。
しばらくキョロキョロしていると、
「あっ!俺のカバン!!」
そう言って、右に曲がってカバンの方に走ってきた。
ジェロームはカバンを手に取ると、すぐに中身を確認した。
中にはジェロームの大好きなドーナツが山のように入っていた。
ジェロームは幸せそうな顔をしながら、
「あった❤️僕のドーナツちゃん❤️」
そう言ってドーナツに頬擦りすると、大きな口を開けてドーナツをパクッと。
する前に、
「ああああ〜〜〜〜〜〜〜〜。」
体を縛られて木の上に持ち上げられていた。
その勢いでドーナツは地面へとコロコロコロ。
「あああああ、僕のドーナツがぁぁぁ!!!」
よし、1人目戦闘不能。
「レイモンド様、お見事です。」
「ああ。じゃあ、ジェロームのことはよろしく頼むよ。」
「承知しました。」
そう言って俺はすぐ近くの崖の上に登った。
(さっきのジェロームの声はあいつらにも聞こえたことだろう。であるなら、しばらくしたらあいつらもここに来るはずだ。)
5分ほど経った後。
「おい、ジェローム!」
「大丈夫か?ジェローム?」
ちょうど、セドリックが木の上から下に下ろし終わったところだった。
「ジェロームくんは戦闘不能です。ここからはお二人で続けてください。」
セドリックが2人に事情を説明する。
「おい、ジェローム!どうやってやられたんだ?」
「あっ。ドミニクくん、ごめん。」
「そんなことは良い。あいつはどうやってお前を攻撃してきたんだ。」
「攻撃というか・・・。走ってたらカバンを盗られて・・・。大事なおやつが入ってたから・・・。取り返そうと追いかけたらここにカバンがあって、中身を確認していたらお腹がギュッとなって引っ張られて・・・。気がついたら木の上に吊るされてたんだ。それで、ドーナツが下に落ちて・・・・。ううううう。」
そう言ってジェロームは泣き出した。
「おい、ジェローム。泣くな!!ドーナツは帰ってまた作って貰えばいいだろ?それより、あいつはどこに行った?」
「おーい、こっちだよー!」
俺はそう言って、崖の上から下に声をかけた。
すかさずドミニクが、
「ファイヤーボール!!」
と火魔法を撃ってきた。
当然、避ける。
なるほど、7歳にしてあの実力とは、なかなかやるな。
やはり遊びの中で魔法を使っているからこその能力の高さを感じるね。
魔法が発動するまでの時間、ファイヤーボールの推進力、魔法の規模、どれをとっても十分な実力だ。
親から受け継いだ才能をしっかりと遊びの中で開花しているねぇ。
とはいえ、心が全く育ってないけどね。
というわけでその腐った心はこのレイモンド先生が叩き潰し、いや、叩き直してやろう。
「どこ狙ってるの?ねぇ、コントロール悪すぎじゃない?魔法使うの下手くそなんじゃないのぉ??」
これでもかとコケにしてやった。
こうなると当然、
「てめえ!絶対許さねえ!!ぶっ殺してやるよ!!!」
と言ってブチ切れていた。
(うーん、予想通り。)
上に上がるには、そのまま崖を登るか、左に迂回して坂道を登るかの2択だ。
もし、崖を登ってくるのなら上から石をコロコロと落としてやればいい。
だが、いくら頭に血がのぼっているからと言って、そんな不利な方法を選択するはずが・・・
「おい、ガエル!こっちから上に上がるぞ!上に行っちまえば逃げ道はねえ!!崖の上であいつを潰すぞ!離れずについて来いよ!」
「わかったよ、ドミニクくん!!」
(ブチ切れてる割には案外冷静だね〜。でも、それも想定通りです。)
坂道の途中にはたくさんの罠があるのよねーーん。
どてん!
「痛ってー!!こんなところにロープがあるなんて!!」
「うわ!!」
がこん!!
「どうした?ガエル?」
「いっつつつ、前から木の板が来て頭に。」
そう言ってガエルは頭を押さえてしゃがみ込んだ。
「ぷくくくく。あれえ?何してるの?ぶっ殺すんじゃなかったの??早くここまでおいでよ〜〜」
ぶちぶちぶち
ここまで聞こえそうな音がドミニクのおでこから聞こえてくる。
「てめえ〜〜〜〜〜!!!!ぜってぇ許さね〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
そう言ってドミニクがまっすぐ坂道を登ってくる。
「待って!!ドミニクくん。坂道にはまだたくさん罠が見えてるよ!!」
そう言ってガエルが引き留めようとするが、頭に血が登っているドミニクは止まろうとしなかった。
ロープに引っかかって転けては悪態をつき、迫り来る木の板をパンチしたり、コロコロ転がってくる石を風魔法で横に飛ばしたり、ありとあらゆる罠を潜り抜け、少しずつではあるが、着実に坂の上へと迫ってきていた。
一方でガエルは慎重だった。
坂道の左側の草村には罠が仕掛けられていないのではないかと考えたようだ。
さっき俺がドミニクを煽ったのも、坂道を通らせたかったからに違いないと考えたのだろう。
さすがはガエルだ。
周りの様子をよく観察し、逆らってはいけないと思った人に対しては平身低頭、言うことを聞き。自分より下だと思った人間には容赦なく攻撃し偉そうになりマウントを取って優越感に浸る。
正直、この3人の中で一番性根が腐っていると言っても過言ではないガエル。
そんなお前が俺の考えの裏をかくことができたと思うとさぞ気持ちが良いだろう?
ドミニクはまだ坂道の途中6割くらいというところだろうか。
あれだけの罠を潜り抜けながらよくあそこまで来れたものだ。
あっぱれだよ。
「カサカサ」
来たか。
「・・・・ストーーーーン・キャノン!!」
「うわ!!」
ドン!
俺は転んだままガエルの方を見上げる。
「これだけたくさん罠を仕掛けていたのに、草叢に全く仕掛けなかったのは愚かでしたね。」
そう言ってガエルは俺を見下した。
視線が上だからということもあるが、完全に俺の裏をかいたと思って自分が追い詰める側になったと思っているのだろう。意識の上でも俺を見下していた。
「・・おぉ、ガエル。はあはあ。やったな!!俺の分も置いといてくれよ。はあ、はあ。俺も、直接そいつに魔法をぶちかまさないと気が済まない。」
「もちろんですよ、ドミニクくん。じゃあ、行動不能にならないようにうまく逃げてくださいね。・・・ストーーーーン・キャノン!!」
「うわあ!」
ドン!
うーーん。
「まだまだ。・・・・・・ストーーーン・キャノン!!」
「やめろー。」
ドン!
困った。
「よし、今度は。・・・・・・・アイシクル・・・・・・ラン・・・ス!!」
「怖いよ〜!」
ザシュ!!
あまりに魔法がしょぼすぎて、逃げる演技がわざとらしくなってしまう。
(正直バレないかヒヤヒヤするな。)
そう思いながらガエルの方を向くと、恍惚とした表情で俺を見下ろしていた。
(ああ、こりゃイっとるわ。)
演技が不味くてバレるかと思ったが、全くそんなことはなかった。
ということで、仕上げますか。
「よし、じゃあ。最後に、必殺技を見せてやる。・・・・・・ファイ・・・・ヤー・・ぼぅおおおおおお!!!!」
そう言ってガエルは横に吹っ飛んでいった。
俺が近くにあったロープを切ると、ガエルの左側からロープに括られた丸太がピューンと飛んできて吹っ飛ばされた。
「ナイスショット!!」
あれはしばらく起き上がれないだろうな。
「レイモンド様、お見事です。」
「おお、セドリック!いつの間に。」
びっくりさせるなあ、もう。
「一応怪我しないように丸太の周りにやわらかい布を巻いてあったけど、勢いよく飛ばされたからしっかりと見といてあげてね。」
「承知しました。」
そう言ってセドリックは素早くガエルを回収しに行ってくれた。
「おぅ、おい!はあ、はあ、はあ。」
「ああ、いらっしゃい。待ってたよ!」
ようやくドミニクが上までやってきた。
しかし、あれだけの罠をしっかりとくぐり抜けてくるなんて、タフだねぇ。
性格はともかく魔法騎士としての資質一流と言って良いだろう。
「ガエルまでやられたか?」
「ああ、俺を追い詰めたと思ってたんだろうね?気持ちよさそうに魔法を放っていたよ。でも、あまりにキャストタイムが長すぎて、逃げるふりをするのが難しかったよ。でも、彼が自分に酔ってくれてたおかげで最後まで気づかれずに済んだけどね。」
「おい!」
「なんだい?」
「どうしててめえは魔法を使わない?貴族だろ?まさか訓練しなさすぎて魔法が使えねえなんてこたあないよな?」
おっ、見かけによらず賢いじゃないか。
これがクラスの子供だったらノートにシールを貼ってあげたいところだよ。
「なかなか鋭いじゃないか。どうしてだと思う?」
「さあな。そこまで考える頭は持ち合わせてないさ。」
すると左の方から声が聞こえてきた。
「それはさぁ。たぶんだけど・・・。平民の子をいじめた仕返しだからじゃないかな?・・・魔法騎士を懲らしめたのが貴族って言うんじゃ、結局偉いやつが下のやつをいじめただけになる。だから、魔法が使えない平民の力で僕たちを懲らしめたんじゃないかな?」
花丸だよジェローム。
「すごいな、ジェローム。でも、それに気づくことができたのは、君自身が平民をいじめることを良いことだと思ってなかったからじゃないのか?だから、俺が魔法を使っていない理由にも気づけた。違うかい?」
ジェロームはガエルとドミニクの方をチラチラと伺っていた。
「ジェロームくん、正直な気持ちを言ってみなさい。誰も君の考えを責める権利などないよ。」
セドリックが優しく声をかける。
「はっ、はい!僕は弱いものいじめが嫌いです!そして、いじめられるのも嫌いです。・・・平民だからとか、太いからとか、いろんな理由で人を馬鹿にしたり痛めつけたりするのは嫌です。僕はただ、みんなと楽しく遊びたいだけです・・・。」
そう言ってジェロームは泣き出した。
「ジェローム・・・・。」
ガエルにもジェロームの声が届いたようだ。
すごく反省したような顔をしている。
そして、残るは、
「だから何だよ!!!そんなの関係ねえんだよ!!!」
ハイ、オッパッ◯ー
「くくくく。」
「てめえ、何笑ってんだよ!!!」
だって、『そんなの関係ねえ』とかマジな顔で言うんだもん。
幼児向けのイベントに引っ張りだこのマッチョ系芸人が、水着姿で踊り出しちゃうじゃないか。
ウェェーーーイ!!ってさあ。
ほんと、こいつはジャイ◯ンのことと言い、よ◯おさんのことといい。
奇跡的な言葉のセンスを感じるよ。
深呼吸。深呼吸。
「おい、なんとか言えよ!!!」
「ああ、すまない。気にしないでくれ。笑ったのはこっちの都合だ。・・・で、君の友達2人は反省しているようだが?」
「だから俺にはそんなのは関係ねえって!!」
まじでやめてくれ!!
俺の腹筋が持たない。
「ぷっ、くくく。」
そこにセドリックが助け舟を出してくれた。
「ジェロームくん、ガエルくん、君たち2人はどう思う?アルベルトくんに謝る気持ちはあるかい?」
「もちろんです。僕は、謝りたいです。」
ジェロームは力強い目でそう言い切った。
「俺は、・・・・」
ガエルは、ドミニクの方をチラチラと見ていた。
「ドミニク、お前次第だとさ!」
「おい、ガエル!!」
「なっ、何ですか?」
「俺様に気を使うのをやめろ!お前はどうしたいかはっきり言ってみろ!俺はお前がどんな答えを言っても文句言わねえ。」
おおさすがはステラのジャイ◯ン(映画版)、男気あふれるねえ。
「お、俺は・・・。あっ、謝ろうと思う。俺も、さっきあいつにやられてすっごい痛かったんだ・・・。もうこんな思いはしたくないって言うくらい。だから、この前してしまったことを謝ろうと・・・思ぅ。」
弱々しく、ところどころ小さな声になりながらもガエルは最後まで言い切った。
「そうか、わかった!」
そう言った時のドミニクの顔を意外なほど、さっぱりとしたものだった。