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5.身分

「レイモンド様!!」

その日、俺は母上とお茶をしていた。

俺の生活の中で一番穏やかで大切な時間。

それを邪魔するとは、どこの不届者であるか!

成敗してくれるわ!!

「あら、セドリック。どうしたの?」

このお茶会は、母上の主催で、俺の専属執事のセドリックは同席していなかった。

参加していたのは俺とジュリアだけだ。

単純にセドリックの仕事がないと言うこともあるが、母上の筆頭執事であるモンテールとセドリックが仲が悪いと言うのも理由の一つだ。

いつも、

「質の悪い執事は同席していただかなくて結構です。部屋の掃除でもしてらっしゃいな。」

なんて嫌味を言う。

だから、母上とのお茶会には基本セドリックを連れて行かないようにしている。

そんなセドリックが息を切らしてやってきた。

「どうした?セドリック?」

「それがアルベルトが大怪我をしたとのことで。」

「何?本当か?わかった。すぐ行く。」

そう言って席を立とうとしたら、

「お待ちください。お坊ちゃま。」

あえて、『お坊ちゃま』という言葉を強調した言い方だった。

「奥様がわざわざ時間を作ってくださったにも関わらず、お坊っちゃまは中座されるということですか?たかだか平民が怪我をしたくらいで?」

「!!!」

こいつ、しっかり調べてやがったな。

本当に抜け目がない。

「モンテール。」

「なりません!奥様。仮にもスローヤ家の次期当主候補であるお方が平民と仲良くなり、あまつさえ平民のために奥様との大事なお茶会を途中で抜け出そうなど、あってはならぬことです!」

言わせておけば、

「友達に身分など関係ありません!平民も魔法騎士も貴族も等しく人間じゃないですか!!ただ魔法が使えるだけで、固有魔法が使えるだけでそんなにも偉いんですか?友達になってはならないのですか?」

涙が出てくる。

くそ、こんなことで泣くつもりないのに。

レイモンドの心が痛む。悔しい。

「ええ、なりません。平民と貴族は別の世界の住人です。友達になるなど許されることではありません。」

「モンテール様!!それではあんまりです!!レイモンド様がおかわいそうです。」

俺に代わってジュリアが怒ってくれる。

「黙りなさい。平民の小娘が。分をわきまえなさい。」

「うっ!」

ジュリアも泣きそうになっている。

ちくしょー

「おやめなさい。モンテール。」

「しかし、奥様!」

母上が穏やかに、しかし有無を言わせぬ雰囲気で話した。

「レイモンド?そのアルベルトという子はあなたにとって大切な人なの?」

「はい!私の初めての友達でございます。」

「そう。ならば行きなさい。」

「母上!!」

俺はそう言って母上に抱きつくと、急いでアルベルトの家まで走って行った。

「奥様、このことは旦那様にご報告いたしますからね!!」

後からモンテールの金切り声が聞こえてきた。

くそ、あいつ。いつかやったるでぃ!!


「アル!大丈夫か?」

俺は全速力でアルベルトの家まで来た。

「やあ、レモンくん。ちょっとやけどしちゃったよ。」

そう言って、アルベルトは起きあがろうとしたが

「ううっ!」

起き上がることができなかった。

左足と左手に大きな火傷があった。

「今すぐ冷やすんだ。親父さん、桶を持ってきて!」

「ああ。」

そこから俺の水魔法でしばらく冷やし続けた。

幸い火傷はそこまでひどくはなっていなかった。

「前に、レモンくんが教えてくれただろ?火傷したら水で冷やすんだって。それで火傷した後に、川で少し冷やしたんだ。その後、お父さんが家まで連れて帰ってくれたんだ。でも、水で冷やすって結構長い時間冷やすんだね。僕、2、3分くらいでいいんだと思ってたよ。」

「ああ、火傷の酷さによって違うだろうけどな。」

とにかく大事に至らなくて良かった。

それにしても、

「なあ、アル。この火傷って?」

「えっ、ああ・・・いや・・・。」

この反応間違いないな。

「これ、魔法でやられたんじゃないか?」

「!!!」

やっぱりな。

「セドリック、どう思う?」

「間違いありません。綺麗な円の形をした火傷。これはファイヤーボールが体に当たった時に起こる火傷です。」

プチッ!

頭の中で何かが切れる音がした。

「なあ、アル?」

「なっ、何かな?」

優しい声で言っているはずなのに、アルベルトは怖がっている。おかしいなぁ。

「誰にやられたんだい?」

「えっ、ええっと、それは、その・・・・。」

アルベルトが言いにくそうに口ごもる。

「お兄ちゃんをいじめたのは、偉そうにしてる男の人だったよ!!」

「おい、ハンナ!やめろ!!」

「あのね、レモンのお兄ちゃん。その人はね、いつもね、あのね。ええっとね。」

小さい子だからな。

ゆっくり聞いてやらないとな。

本当に優しい笑顔で聞いてやる。

「ゆっくり話してごらん。」

「うん。あのね、いつもね森の中の橋の辺りで遊んでる人がいるの。3人くらいで。その人たちがね。お兄ちゃんに意地悪したの。」

なるほど。魔法騎士の子供が森で遊んでいて、平民のアルベルトにちょっかいをかけたわけか。

「アルベルト、合っているか?」

「あっ、うん・・・。そうだよ。」

「名前は?」

「全員は知らない。でも、リーダーっぽいやつは、ドミニクって呼ばれてた。」

魔法騎士の子供ドミニクか。覚えておこう。

「それでどうして襲われたんだ?」

「それは・・・。」


今日は、レモンくんがお母様とのお茶会があると言っていたから僕は早めに薪拾いに行こうと思ったんだ。

いつもはレモンくんと昼から遊んだ後に拾うんだけど、今日は朝に拾いに行ったんだ。

途中、喉が渇いたと思って川のほうに行くと、橋の上から

「おい、そこの平民!」

ドミニクが偉そうに話しかけてきたんだ。

「誰の許しを得て水を飲んでるんだ?」

と、とても理不尽なことを言ってきたんだ。

僕は今まで平民は貴族や魔法騎士とは別で絶対に逆らっちゃいけないと思っていた。でも、レモンくんと友達になってから僕は、平民だって1人の立派な人間だと思うようになったんだ。でも、彼らは、ドミニクたちはそれが気に入らなかったらしい。

「みんなの川なんだから、誰にも許しをもらう必要はないと思います。」

僕は言い返してしまったんだ。

すると、

「おい、こいつ生意気だな。よし、決めた。今日の狩りの獲物はこいつにしよう。」

そこからは必死に逃げた。

息が切れて苦しくて・・・でも後か3人が追いかけてきて。

初めはわざと魔法を外してきてた。

でもだんだん体に掠るようになってきて。

そして、最後には左足と左手に火が当たったんだ。

それを見て、あいつらは

「よし!!今日の狩りは俺様の勝ちだな。」

「チェッ!ドミニクくん、魔法のコントロール良すぎですよ。」

「ガエルが下手くそなんだよ。」

「みんな待ってよ〜。」

「ジェロームは走るの遅すぎ。ちょっとは痩せろよ。」

「ドミニクくん、そろそろ帰らねえと先生にどやされますよ。」

「チッ。あいつ平民のくせに偉そうなんだよな。教師だからって偉そうにしやがって!いつか父様に言ってクビにしてやる!!」

そう言って3人は踵を返すと、

「おい、平民!お前みたいな汚い平民は俺様たち魔法騎士様の言うことを素直に聞いてりゃいいんだよ!お前ら平民が俺様たちに向かって生意気な口を聞くんじゃねえ。もし次同じことしてみろ!その時はもっと酷い目に合わせてやる!」

そこからは這いつくばって川まで行って火傷を冷やした。

その後、足を引き摺りながら歩いて戻っているとお父さんが来てくれて、家までおぶってくれたんだ。


「そんなことがあったんだな。」

「僕は、レモンくんと、いや、レイモンド様と一緒に過ごしていて忘れてしまっていたんだ。レイモンド様が僕に優しくしてくれるけど、結局僕自身は何も変わっちゃいない。ただの平民なんだ。虐げられ、いじめられ、それでも歯向かってはいけないんだ。僕はそれを忘れていたよ。ごめんね、レイモンド様。大切なお茶会を台無しにして。」

アルベルトの気持ちが痛いほど伝わってくる。

心が痛む。

腹が立つ。

何に腹が立つのか?

俺と友達でいることを諦めようとしているアルベルトに対してか?

アルベルトをこんな風にしたドミニクたちに対してか?

こんな間違った身分による差別を作った社会に対してか?

人と比べて優越感を感じることで自分を保とうとする人間という生き物に対してか?

わからない。

だが、俺は自分の思ったことを偽るつもりはない。

俺はこの世界を、ステラをよりよくするために来たんだ。

じゃあ、この納得のいかない出来事に対して、俺なりにやり返してやる。

それによってどうなるかはわからないが知るもんか!

文句があるなら俺をこの世界に連れてきたアニスに言え!

ということで俺はブチギレた!

「馬鹿野郎!!」

ビクッ!!

部屋の中にいる全員がビビった。

「おい、アル!!」

「はい!!」

「俺の名前は?」

「レイモンド様です!」

「違う!何回言わすんだ?」

「レ・・・モンくん?」

「そうだ。酸っぱそうな名前のレモンくんだ。俺たちは友達だろ?貴族とか魔法騎士とか、平民とか関係ねえ。魔法が使えるとか使えないとかも関係ねえ。大体、誰が野菜を育ててると思ってるんだ!誰が獣を捕まえて肉を捌いていると思うんだ。誰が食器を作ってると思ってるんだ。全部平民だろ?魔法が使えるからってなんなんだ!!そんなことを鼻にかけて調子に乗ってるような奴らなんてただのクズだ!!よし、俺がそのことをそいつらにわからせてやる!!!」

「ぼっ、坊ちゃん。落ち着いてくだせぇ。気持ちはありがてえが、これ以上何かあった時に、坊ちゃんが責められたり、息子がもっと痛い思いしたりしたら敵わねえ。幸い、息子の火傷も大したことなかったんだ。お願いだからこのままにしてくれぃ。」

親父さんの言うこともわかる。

だからと言って、受け入れるわけにはいかない。

「なあ、親父さん。親父さんは平民に生まれなきゃ良かったって思ったことはないか?」

「そりゃ、おめえ。いつもだ。いつもいつも、なんで俺らばっかり、と思ってるさぁ。でもな。こいつら家族がいてくれりゃ、俺はそれで満足だと思っている。それ以上を望んじゃいけねえ。それこそバチが当たるってもんだ。」

このステラは、『ステラ』だなんて素敵な名前が付いているにも関わらず、身分による差別が当たり前にある。

そして、平民はそれを当たり前だと言って、幸せになることを諦めている。

そんなことがあっていいわけない。

「いいかい、親父さん!幸せになっちゃいけない人間なんて、この世にはいないんだよ!!誰もが幸せになる権利がある。もちろん、人を不幸にしてまで幸せになるのはダメだ。でも、周りの人と一緒にささやかな幸せを楽しもうとすることが悪いことのはずがない!!もし、それを邪魔するような奴がいたら、その時は俺がぶっ飛ばしてやる!」

「レイモンド様、落ち着いてください!魔力が溢れています。」

「えっ?」

周りを見ると、白い靄が溢れていた。

セドリックが風魔法で、俺の魔力を外へと散らした。

「レイモンド様は魔力が豊富でいらっしゃる。そして、怒りで心が満たされると魔力が溢れ出てしまうのでしょう。気をつけないと、溢れた魔力が何かのきっかけで魔法に変わってしまうと思わぬ事故につながります。お気をつけください。」

そう言うこともあるのか、気をつけねば。

「レモンおにいちゃん、きれいなみどりいろのけむりがでてたね。すごいね!」

「みどりいろ?」

黄色でも白でもなく?

「ええ、今一瞬翠色の魔力が出ていました。まるで月のような・・・。」

「見間違えじゃないの?」

「いえ。・・・ああ、そうかもしれませんね。」

まあ、今はそれどころじゃない。

改めてみんなの顔を見て話す。

「俺はいつかこのスローヤ領の領主になる。その時に、身分による差別なんてなくしてやろうと思う。そしていつかこのステラからも差別をなくして、誰もが幸せに暮らせる世界にしようと思う。だから、こんなところで諦めるわけにはいかないんだ。これは俺の夢の第一歩だ。ドミニクたちをギャフンと言わせて、アルに謝らせてやる。そして、二度と差別をさせないようにしてやるんだ。だから、俺を信じてくれ!!」

「ああ、わかった、坊ちゃん!」

「頼んだよ、レモンくん!」

「レモンおにいちゃん、がんばれ〜」

「レイモンド様、お手伝いいたします。」

みんなが俺を信じてくれた。

あとは、俺がその期待に応えるだけだ。

「セドリック。帰って作戦会議するぞ!」

よし、リベンジ開始だ。

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