神罰 前編
フォスキアとリージアがダウンした頃。
暗雲立ち込める空の下、モミザは体中からスパークを散らしながら空中で静止していた。
「クソッたれの、人形共が」
「キャハハ!大見え切っといてその程度なんて、情けないね~」
「チ」
イダヴェリルを守る騎士型の人形達の力はモミザを上回っており、かなり劣勢に追いやられている。
細かい人形達は半数以上破壊したが、騎士型達だけは一体も破壊できていない。
しかも悪い事に、スイセン達は既にダウンしてしまっている。
騎士型以外の人形の対処にあたってくれていたが、その隙を突かれて騎士型に排除されてしまったのだ。
「(向こうは全く疲れてねぇ上に、こっちはもう俺一人か)」
劣勢に冷や汗をかきながら頭を回転させていると、背後から重たい足音と独特な飛行音が近づいてくる。
「……副長も、少し、マズそうですね」
「ホスタ、ッ!」
背後にホスタが来た事に気付き、振り向いたモミザは目を見開いた。
なにしろ視界に入り込んだのは、ホスタ以外の機体が全滅しているという光景。
地面には大破した三機の機体が倒れ込み、皆コックピットからの脱出を試みている。
しかも嫌な事に、岩の化け物こと、ヴァナヘルムの手にはサイサリスの機体が握られている。
「そっちもかよ」
「ええ、お恥ずかしながら」
『ガハハハ!どうやら、こっちの方が大分強かったようだな!』
『ガハッ!!』
「サイサリスさん!」
金属のひしゃげる音が響くと共に、サイサリスの断末魔のような声が無線から聞こえて来た。
コックピットの有る腹部辺りを握り潰されたせいで、周辺の機器が彼女に襲い掛かったのだろう。
『さてと、この鉄鳥は俺がやってやる、お嬢ちゃんはそっちを頼むぜ』
「軽々しくお嬢ちゃんとか呼ばないでくんない?まぁでも、獲物横取りしないでくれるならいいや」
ズシズシと巨体で歩み寄って来るヴァナヘルムと、にじり寄って来る騎士型の人形。
彼等に挟まれた二人は、互いに背中を預けながら武器を構える。
前門の虎後門の狼、そんなことわざが脳裏を過ぎった辺りで、モミザは異変に気付く。
「ッ!?リージア!!」
「ま、まさか、隊長が!?」
「ん?あらら、あっち終わりみたいだね、ザコ共」
『コイツは良い、じっくり見物させてもらうか、お前らも見ておけ、頭目共の最期だ』
イダヴェリル達も攻撃を中断し、モミザの向く方へ視線を送った。
彼等が捉えるのは、バランスボール程の火球がリージア達へと放たれ、二人を始末されようとする光景。
この事実を前に、モミザ達は顔から血の気を引かせる。
「ウソだろ、リージアァァァァ!!」
涙を零したモミザが絶叫すると共に、火球は地面に激突し、発生した円柱状の光が雲を貫く。
火球ははじけ飛び、辺りに熱風をまき散らす。
まるで火事の現場のような熱気は、モミザ達にも襲いかかる。
「あ、ああ」
「そんな」
「キャハハハ!ザコが調子乗るからこうなるんだよ!でも安心してよ、アンタらもすぐお仲間の所に送ってやるから!」
「……あ」
後ろで喚くイダヴェリルには何の反応も見せず、モミザはゆっくりと上を見上げた。
陽光一つ無い悪天候の空は先ほど発生した光の柱によってかき消され、雲の穴から陽の光が神々しく指し込んでいる。
モミザ達の視線は、その中心に有る人影へと集中する。
「あれって、まさか」
「あ?」
「え、エルフィリア、さん?」
目を見開くモミザが目撃したのは、フォスキアと思われる姿。
変異状態は解除され、先ほどまでと異なる姿と装備をまとっている。
草色だった筈の長髪は白く輝いて陽光を反射し、発生する魔力でゆらゆらと麗しくなびく。
装備も緑色を好んでいた筈のフォスキアからは考えられない程、血のような赤に黒を散りばめたスカートアーマーと、真っ黒なインナーを着用している。
喪った筈のパーツも再生しており、その手には気を失うリージアが抱かれている。
「何が起きて、ッ!」
困惑するモミザだが、宙に浮くフォスキアへと攻撃が再開される。
――――――
同時刻。
フォスキアとリンクしたアリサは、ゆっくりと目を開けた。
「コロコロと姿を変えおって、この死にぞこないめが!!」
「今度こそ地獄へ叩き落してくれる!!」
「ん、寝起きドッキリかな?(とりあえず、インチキフィールド張っとこ)」
その瞬間に攻撃が来たので、新たに生成した赤い鎧の節々から魔力を放出させる。
放たれているのは、先ほどの波状攻撃よりも濃密かつ高威力な魔法の数々。
アスガルドとジャック程の手練れの介入する合間の無い程の攻撃量だが、アリサは涼しい顔で立ち尽くす。
「(ふぅ、何とか成功した、私への攻撃の命中率をゼロにする魔法)」
どれだけ魔法が繰り出されようが、軌道を曲げられて彼女達には命中しない。
まるでビニール傘越しに見る豪雨のように、雷撃や光はフィールドを伝うように弾かれていく。
上手く行くかもわからない魔法だったので、アリサは安堵しながらリージアへ視線を落とす。
「(リーちゃん、こんなになるまで、でも大丈夫、後はお姉ちゃんが全部やってあげるから)」
「おのれ、そこまで世界の浄化を拒むか!!」
「もはや何をしようが、貴様らが勝つ事は無いというのに!」
聞こえて来る外野の声は完全に無視し、腕に中で眠るリージアの事を抱きしめた。
特製の義体はいくつもの裂傷が見られ、駆動系はいくつも死んでいる。
そんな姿になるまで傷ついたリージアへ涙を流していると、アリサは今の自分の体を再認識する。
火球が着弾する僅かな時間を利用して、フォスキアの身体と装備をナノマシンで再構築と改造を施した新しい肉体。
ギリギリで攻撃をかき消せたのは良いが、本当に僅かな時間で行ったので完全な状態ではない。
それでも約束通りアリサの主導権となった状態なので、あまり問題ではない。
「(時間無かったから結構中途半端だったけど、ま、こんな奴ら相手なら、戦いながら準備完了できるからいっか、それに)」
攻撃されているというのに、アリサはどこからか鏡を出現させた。
その上で、自分の今の恰好を改めて観察する。
「(この厨二臭さ全開のデザインの甲冑にミニスカ、カラーリングは私好みの赤中心に散りばめた黒、良いね~、黒インナーも体のラインをクッキリさせてエッチだし、そんで、似合うと思って染めた白髪も良いアクセントになってる!この子素材が良いから、恰好よ可愛い!)」
「どうなっている、攻撃が、当たらない?」
「どんな小細工か知らねぇけど、依頼料の為だ、死んでもらう!」
涼しい顔で居るアリサを前にして、アスガルドとジャックの二人は前へと出た。
遠距離がダメならば、直接的な攻撃を行うという魂胆だ。
剣撃の暴風ともとれる連携攻撃が繰り出されるが、アリサは微動だにしない。
「(でも、やっぱリーちゃんの方が可愛い!末っ子補正も相まってホント可愛い!こんな可愛い子の前で、実はエルフ好きオタクだ、何てバレたくないよ、何時までもクールアンドビューティーかつ清楚で完璧なお姉ちゃんって思われないと!)」
アリサは近接攻撃をしてくる二人をガン無視し、リージアに夢中だった。
インチキフィールドで攻撃は命中しないと解っているので、ただリージアの事を愛でる事に意識を集中させる。
「いい加減にくたばれ!」
「チ」
あまりにしつこい彼らを前に、アリサの堪忍袋の緒は切れた。
罵りながら責めて来るジャックへ、アリサは蹴りを繰り出す。
「うるさい!」
リンクで強化されたフォスキアの身体から繰り出される蹴りは、ジャックでさえ反応できなかった。
赤い甲冑の重量と足の遠心力を乗せて炸裂した蹴りは、ジャックに悲鳴を上げる間も与えずに吹き飛ばす。
一瞬にして音速を超えたジャックは、どこかへと飛んでいってしまう。
「……あ、やりすぎちゃった(手応えからして生きてるだろうけど、これじゃ楽しみが一つ減っちゃうな)」
「な、バカな」
思った以上に強化されていたので、力加減が上手く行かなかった事にため息をつくアリサの傍らで、アスガルドはその光景に絶句していた。
戦いの前に一度模擬戦を行った事で、アスガルドはジャックの実力を認めていた。
そんなジャックを吹き飛ばれ、警戒しながら聖剣を構え直す。
「はぁ、そろそろ真面目にやんないと、あ、ちょっと待っててね、すぐ戻るから」
「な、何だと!?」
清々しい顔で煽られたアスガルドは、聖剣をアリサへと振りかぶった。
当たらないと解っていても、バカにされては黙って居られない。
しかし、その刃が当たる前にアリサは移動を開始。
目にも映らない程の速さを叩き出したアリサは、モミザ達の前に出現する。
「オワ!?え、エルフィリア、だよな?」
「あはは、そだよ、カッコいいでしょ?じゃなくて、ちょっとリーちゃんの事お願い、マーちゃん」
「え?あ、ちょ」
モミザの前に立ったアリサは今の姿を見せびらかしたい気持ちを抑え込み、気を失うリージアを彼女へ託した。
彼女の腕の中で眠るリージアの頭を軽くなで、アリサはモミザの方へ視線を向ける。
「貴女達は下がって、皆を救助して」
「そ、そうしたいが、まだこいつ等が」
「ああそうだよ!アタシらから逃れられると思うなよ!!」
モミザの頭も軽くなでるアリサの背後に、イダヴェリルの操作した騎士型人形が回り込んだ。
彼女の前に立つモミザはその事に気付くが、もう注意する暇もない。
全く気付いていないかのように笑顔を浮かべるアリサは、おもむろに右腕を動かす。
「後ろだ!」
「えい!」
軽くひねられた上半身と、振るわれた裏拳。
まるでただの嫌がらせ程度、攻撃とも言えない動作による一撃で騎士型は原型が残らない位粉砕された。
「なッ!?」
「うそ」
「あ……」
この状況を前にした三人は、事実を上手く呑み込めなかった。
モミザの拳でも粉砕できなかった筈の騎士型は、まるで叩きつけられた生卵のように砕け散ったのだ。
そんな彼女達を前にして、アリサ大きめの声で話だす。
「大丈夫、人形に命令出すだけの脳無しと、岩に隠れる事しかできない臆病者、こんな有象無象未満の奴らが加わった所で、何の戦力にもならないからね、あそこに居る人達ごとやっつけちゃうから!」
「ちょ、聞こえますよ!」
「あはは、聞こえるように言ってるの」
煽っていると自白され、モミザ達はすぐにその場から距離を取った。
二人の思った通り、ヴァナヘルム達はモミザ達には目もくれない。
アリサへと殺意の念を向けており、煽った本人は笑みを浮かべる。
「(もう一押しかな?)」
『テメェ、今何つった?』
「ん~?ああ、岩の中に隠れてるから聞こえ辛いか、じゃぁ!もっと大声で言うよ!岩の中でガタガタと震える臆病物の玉無しおじさ~ん!!」
両手を口元にかざしたアリサは、さっきよりも貶す形で大声を出した。
しかも声のトーンは地味にリズムに乗っており、それが侮辱に拍車をかける。
おかげで、ヴァナヘルムは完全にブチギレた。
『殺す!!』
「あはは!」
怒りを露わにしたヴァナヘルムはその巨体で飛び上がり、アリサへと岩の拳を振るった。
ソニックブームを引き起こしながら迫る拳を前に、アリサは軽く笑みをこぼして手をかざす。
『取った!』
「ように見えてっと」
『ヌ!?』
岩の拳とアリサの手が触れ合った瞬間、ヴァナヘルムが構成する巨体はバランスを崩す。
抵抗しようにも、不思議な力で抑えられるように体は言う事を聞かない。
「とう!」
『ドワアアア!!』
岩でできたその巨体は、アリサの合気を用いた技で投げ飛ばされた。
方角はユグドラシル達の居る場所で、彼等はヴァナヘルムの巻き添えをくらないように回避。
誰にも助けられず、哀れにも地面に叩きつけられた。
「あはは、飛んだ飛んだ、さて、次は貴女だね」
「……テメェ、アタシのお人形ちゃんぶっ壊しといて、このまま無傷で帰れると思ってんの?」
「思ってるよ、ペチャパイ」
「んだとゴラアアア!!」
たった一言で青筋を浮き上がらせたイダヴェリルは、残った二体の騎士型をアリサへと向ける。
しかし、煽った本人は何故か涙を流していた。
「(この煽り、一回で良いからやってみたかった、夢が叶った、なのに、なんか、なんか涙出て来た……)」
等とどうでもいい事を考えながらも、アリサは騎士型達の動きを認識している。
とてつもないスピードで間合いを詰めて来た騎士型達は、すぐにアリサによって捕まえられた。
「(そんな事よりも)先ず、いち、にの……」
「チ!」
「お次は」
「あ!」
騎士型と二体とも投げ飛ばされた事に舌打ちをするイダヴェリルの側面に回り込んだアリサは、両手を彼女へとかざして力を込める。
「さん!」
「グ!」
アリサの手から謎の暴風が吹き荒れ、イダヴェリルは髪を巻き上げられながら吹き飛ぶ。
ダメージは無いが、そのまま他のエルフ達が居る場所へと飛んでいく。
これで役者が揃ったと言わんばかりに笑みを浮かべたアリサは、彼等の元へ一瞬で移動する。
「さ、お待たせ、御三方」
一瞬にして戻ったアリサは、ユグドラシルやアスガルド達の視線を一点に受ける。
相変わらずの敵意の籠った目を向けられようが、アリサは気にしない。
それどころか、彼等の事を見下すような目さえ浮かべている。
「貴様……まさかこの程度で、いい気になっているのか?」
「え?悪い?勝ち目ゼロな人の前でイキって」
「貴様!神々の加護を持つ我々に、何と言う無礼な!」
「神様の加護ね~、解っていないようだけど、貴方達、もうその神様から見放されてるんだよ?私を前にした時点で、神様から死ね!って言われてるのと同じなんだから」
「何だと?」
「まぁ大方、ミサとかがうるさ過ぎたとか、神様の思し召し曲解しすぎたのかもね~、まぁ何にしても、アンタ等相当嫌われてるよ」
涼しい顔で煽り散らすアリサを前にして、信心深い三人は完全に血管を断裂させた。
何しろ、彼等からすれば釈迦に説法どころではない。
悪魔に神様からの意向がどうのと、言われる筋合いは無い。
怒るユグドラシルは王家の杖が圧壊しかねない力で握り締め、高らかに掲げる。
「悪魔如きが、神の言葉を借りるなぞ言語道断ッ!先ずは我々全員の手で、貴様に神罰を下してくれるわ!!」
「あはは!そう、それでいいの(これだけやれば、他の皆にタゲが行く事も無いでしょ)」
「王家の杖!カテドラル!!」
「ん?」
再び王家の杖の力を解放すると共に、アリサは自らの身体に脱力感を覚えた。
周辺の塔は更に長くなり、魔力のフィールドを壁のように形成。
まるで大聖堂の中のように、神々しい建造物として実体化する。
「(……そっか、悪魔達や魔物が聖なる力に弱いのは、体内の微生物群がこの力に抗体が無いからか)」
自分の身体をスキャンしたアリサは、拒絶反応のような物を示す微生物たちを確認した。
聖なる力を得た魔力が体内に入り込む事で、微生物に直接ダメージを与えているらしい。
そのせいで、弱体化や大ダメージを誘発しているようだ。
「この空間の中では、貴様ら悪魔はもちろん、魔物さえ力を落とす、つまり」
「貴方達の勝率が、ゼロから0.0001位には成るって事ね、これ以上に無い位のサービスタイムだね、このチャンス、物にしないとダメだよ~」
ユグドラシルの解説を遮ったアリサは、またもや彼らを煽り散らした。
しかも、なんとも言えない位はじけた笑みを浮かべながらである。
それだけに飽き足らず、アリサは口を止めない。
「さて、先ずは準備運動だね、後インチキフィールドは解いてあげる、そうすれば貴方達の攻撃は通るから、ま、全部避けるけど」
そんなアリサを前にして、全員アリサへの敵意を強めた。
全方位から殺気を向けられるアリサは、ウロボロスの方へ手をかざす。
「(そろそろできたかな?)」
「そうか、減らず口を叩く余裕だけは有るようだな」
彼女の意思に反応するかのように、ウロボロスから切断された筈の大剣が出現。
こちらもナノマシンで修復と強化が施され、見た目も変化している。
無骨だった刃の部分はまるで血管のような物が浮き出し、生物感が強く成っている。
柄の部分はライフルのような形状となり、他にも入れておいたギミックを確認する。
「よし、上々、上々っと(本当は日本刀が好きなんだけど、最終的にはこの子の物なるからね)」
「皆の者、あの神敵に」
修復した大剣を保持し、エルフ達を認識。
下唇を軽く舐めると、黒い笑みを浮かべる。
「さて、一回やってみたかったんだよね……」
「天誅を下せぇぇ!!」
ユグドラシルの怒号のような指示と共に、戦闘準備を完了させたアリサは見下したような目を彼らに向ける。
そして、内に秘めていた感情をあらわにする。
「プライドの高いエルフの解らせ!」
目の中にハートマークを浮かべた(ように見える)アリサは、襲い掛かるエルフ達へ立ち向かう。
エルフ達が長年積み上げて来た研鑽の全て、それらを踏みにじり、粉々にできる。
そう考えただけで、胸の鼓動が止まらなかった。




