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十三人目の妹 後編

「ん、あれ?ここ、どこ?」


 目を覚まし、上体を起こしたフォスキアは辺りを見渡した。

 辺り一面真っ白な背景が広がり、フォスキア以外誰も居なければ何も無い。

 そんな空間の中央にポツンと座る彼女は、不思議に思いながら立ち上がる。


「……あ」


 その時、フォスキアは自分の身体の違和感に気付いた。

 切断された筈の腕や、貫かれた足は何故か再生しているのだ。

 聖剣で斬られた部分は再生したりしない筈が、こうして新品同様で五体満足の無傷。

 この状況を前にして、フォスキアの頭が導き出したのは。


「……やっぱ私、死んじゃったの?」


 ここが死後の世界である、と言う事だった。

 その結論にたどり着いたフォスキアは、後悔の念と共に座り込んでしまう。


「……そうだとしたら、嫌よ、だって、まだ、まだあの子に、何も伝えて無いのに」


 涙を零すフォスキアは、リージアへ何の思いも伝えられなかった事を悔やんでしまう。

 初めての恋情は結局、成就も破局も無かった。

 こうなる位ならば、破局する事を覚悟で想いを伝えるべきだった。


「はぁ、モミザと見たアニメみたいに、私も転生とかしないかしら?スライムとか自販機とかじゃなくて、普通の人間、できればここでの記憶も引き継いで、同じように転生したリージアと、付き合って」


 後悔の念を払拭するかのように、フォスキアは妄想を膨らませた。

 世界は自分が住んでいるようなファンタジーでも、リージアが居たような現代社会でもどちらでもいい。

 自分とリージアの性別が、男でも女でもどちらでもいい。

 今度はリージアとしっかりと恋愛をして、普通の人間としての人生を歩む事を望んだ。


「もし記憶無しで現代に生まれ変わったら、どんな出逢いが良い?」

「そうね、家が隣同士の幼馴染で、その縁で仲良くなって」


 妄想を続けるフォスキアは目を軽く閉じ、ありがちなラブコメの展開を想像する。

 正に夢想、自分の頭の中だけの茶番劇。


「学生まで上がったら、一緒に登校するようになってね」

「そうね、無駄話しとかしながら」

「あ、でもあの子、ちゃんと起きれるかな?冬とか二度寝ばっかしそう」

「そんな時は、私が毛布引っぺがして叩き起こすわよ」

「あはは~、ザ・世話焼き幼馴染、だね、作りすぎたからって、自分で作ったお弁当持渡したり」

「ええ、次の人生は料理とか練習しようかしら?」

「で、ハプニング続きのその先で、はよ結婚しろムード垂れ流しながらイチャコラして」

「うんうん……ん?」


 相槌を打つフォスキアは、隣から聞こえていた声にようやく気付いた。

 聞き覚えが有るようで無い声のする方へ、フォスキアはゆっくりと振り向く。

 長い白髪を弄りながら妄想に笑みを浮かべる彼女を見て、フォスキアは顔を真っ青に染め上げる。


「ちょ、ちょちょちょ!な、何で貴女がここに居るのよ!?」

「あ、やっと気づいた?」


 居ない筈のアンドロイド少女を前に、フォスキアは座ったまま全力で彼女から距離をとった。

 反対に立ち上がった彼女は、怯えているフォスキアへと機械の手を伸ばす。


「じゃ、初めまして、で良いかな?」

「……」


 状況について行けないフォスキアは、彼女の手を取りながら立ち上がった。

 気遣いはありがたかったが、頭まで付いて行けない。

 少女はそんな状態のフォスキアの手を、しっかり握り締める。


「どうも、AS-01アリサです、妹のリーちゃんとマリーちゃんがお世話になってます!」

「……」


 笑顔で自己紹介されたフォスキアは、思考を停止させてしまった。

 死んだ筈のアリサが居るという事は、自分も死んでしまった可能性が濃厚になる。

 おかげで、引っ込んでいた筈の涙は決壊したダムのように溢れてしまう。


「そう、やっぱ死んじゃったのね、私」

「あああ!待って!待って!ゴメン!悪乗りが過ぎた!生きてるから!私も貴女もかろうじて生きてるから!」


 泣いてしまうフォスキアを前にうろたえるアリサは、ひたすらに宥めだした。


 ――――――


 そして数分後。

 フォスキアは何とか落ち着きを取り戻し、ちゃぶ台を囲んで改めてアリサと対峙する。


「さて、どこから話そっか、ちょっとややこしくて」

「……と、とりあえず現状の事聞かせて、ここがどこなのかとか」

「うーん、現状ねぇ」


 正座でアリサと向き合うフォスキアは、目の前に突然出現したちゃぶ台は無視して現状の説明を求めた。

 問いかけの答えを考えつつ、アリサはどこからか取りだしたお茶を注いだ湯呑をフォスキアの前に置く。


「とりあえず、どうぞ」

「あ、どうも」

「えっと、現状を話すとね」


 完全にまったりモードに入ったアリサは、湯吞みを軽く傾ける。


「ふぅ、えっとね、今は貴女の体感時間を加速させて、精神世界的な所で話してる感じ」

「へ、へー、とりあえず、その辺は一応飲み込むけど……貴女は?確か死んだわよね?リージアに撃たれて」

「いや~、リーちゃんに撃たれた時はマジで死んだと思ったよ、貴女がシャックスとか言う悪魔の能力持って無かったらマジ危なかった」

「それで何で生存してんのよ」

「シャックスの能力は、魔法陣を取り込む形で奪い取ってるの、つまり、魔法陣の技術を応用して作られた私達の人格データであるガーデンコードも取り込む事ができるの、おかげで貴女の人格に入り込めて、こうして生存できた感じかな」

「……」


 説明を受けたフォスキアは、何となく心当たりを見つけた。

 島でアリサの義体に触れた時、何かが流れ込んで来たような気がした。

 恐らくその時に能力が暴発でもして、彼女の人格が入り込んだのだろう。

 その事を思い出しつつ、フォスキアは一旦アリサの淹れてくれたお茶をふくむ。


「(なにこれ?ただのお湯?)」

「あ、これ私が適当に形だけ作っただけで、無味無臭だよ」

「じゃぁ何のために用意したのよ」

「形は大事だからね」

「あっそ」


 お茶はただのハリボテだと知ったフォスキアは、代わりに飲もうと取りだしたスキットルが妙に軽い事に気付く。


「……これもハリボテなのね」

「あはは、とりあえず、話続けるね」

「お、お願い」


 お湯同然のお茶をふくむアリサは、大きく逸れてしまった話を戻す。


「まぁ、経緯を話すとね、前の母艦、つまり私達の家が政府の人達に壊された時、私も爆発に巻き込まれたんだけど、ギリ生き残って、政府の人達に回収されてぇ」

「え、ええ」

「それでこの世界に連れて来られて体中弄られて、もう気持ち悪かったよ」

「ご、ご愁傷様」

「しかもあの人達、何をトチ狂ったか知らないけど、私のガーデンコード四分割して、指令船クラスの兵器たちに制御装置として分け与えてね」

「あ、あ~、何かレーニアが、重要な部分ごっそり抜け落ちてるって言ってたけど、そう言う事?」

「そ」


 フォスキアの考えを聞いて、アリサは頷いた。

 母艦やアルゴなどにはアリサのガーデンコードの一部が搭載されており、それらに様々な方法で干渉していたフォスキアの能力によって、偶然にも一つ一つ回収されていたのだ。


「でも、それがいけなくって、ガーデンコードを四分割するって事は、脳を四分の一にするのと同じだから、例の計画に関連してるプログラムが変な形で発動しちゃって、今の状況って感じかな、ゴメンね、苦労かけちゃって」

「……もうアンタ攻めれば良いのか、研究してた連中攻めればいいのか」

「お好きにどうぞ、私の責任もあるからね(やっぱり、私一人でやろう何て考えたのがいけなかったよね)」


 頭を下げたアリサを見て、フォスキアは頭の中を混乱させてしまう。

 もう誰が悪い誰のせいだ、そんな単純な話ではない。

 とりあえずアリサの事は知れたので、今度はこれからどうするのかと言う事を訊ねる。


「……それで、その、この後、どうなるの?貴女も、私も」

「あー、今、王様のすんごい一撃が来てるから……うん、後三十分位で、リーちゃん諸共お陀仏かな?」

「……」


 アリサの発言を耳にして、フォスキアは絶句した。

 とんでもない事を真顔で話されただけではなく、後三十分で全員お陀仏と言う事実。

 そんな状況で、未だまったりモードのアリサの気が知れなかった。


「いや、それ早く言いなさいよ!三十分で私達死んじゃうのよ!」

「そだよ」

「そだよ、て、何でそんな落ち着いてんのよ!?」

「貴女の返答次第では絶対に切り抜けられるから」


 立ち上がりながら激高するフォスキアを前に、アリサは落ち着いて湯呑を傾けた。

 その余裕からは、本当に何か策が有る様に思える。

 仮にもアリサはリージア達の長女、賭けに出る覚悟でフォスキアは座る。


「……返答って?」

「……リーちゃんの事、貴女はどう思ってる?」


 しっかりと正座をしたアリサは、先ほどまでの柔和な顔からさせた。

 刃のように鋭い目を向けられながら、フォスキアも座り直して返答する。


「す、好きよ、愛してる」

「あの子の為なら、どんな事でもできるし?犠牲もいとわない?」

「ぎ、犠牲は、ちょっと考えるけど……私にできる事なら、何でもするわ」

「そ……」


 二つ目の質問の返答が曖昧だったせいか、アリサは目を閉じてしまう。

 それが何を意味するか解らないフォスキアは、心臓を激しく鼓動させてしまう。

 変な汗まで吹き出し、この空間の時間が止まったような感覚に陥る。


「……私が今こうして居られるのは、ガーデンコードが不完全だったせいで、貴女の能力でも吸収しきれなかったの」

「……でも、一部は吸収できてた?」

「そ、二つ集めた辺りで、貴女の人格と私の人格が混ざった感じになってたんだけど、今しがた最後のピースを回収したから、私のガーデンコードは完全な物になった」

「……」


 アリサの解説を聞き、フォスキアは息を飲んだ。

 ピースが集まったという事は、能力はそのまま働く事に成る。

 それはつまり、下手をすればアリサの人格は消えるという事だ。


「わかった?どんな犠牲もいとわないかって、聞いた意味」

「ええ……」

「今の状態のデメリットは貴女の思う通り、私の人格は貴女に吸収される、今は予め用意してた魔法で抑えてるけど、時間が経ち過ぎると拒否反応で貴女は死ぬ」

「……つまり、今貴女を吸収すればいいって、事?」


 この状態は長くは続かないと聞かされ、フォスキアは覚悟を決めだす。

 愛した人が最も慕う人を消してでも生き残る。

 そんな決断を胸に決めたフォスキアだが、アリサは首を横に振る。


「最終的にはそうなるけど、このまま私を吸収しても確実に勝てない、この状況におけるメリットを最大限に活かす必要があるの」

「メリット?」

「そ、こうして二つの人格が共存しているからこそ使える、アリサシリーズ最終兵器を使う」

「最終兵器?」

「貴女は経験済みだと思うよ」


 経験済みの最終兵器と言う言葉に首を傾げたフォスキアは、記憶を巡らせ始める。

 リージア達の最終兵器と聞いて連想するのは、人型形態となった母艦。

 その時の事を思い出し、フォスキアはハッとなる。


「あ」

「思い出してくれた?」

「でも、あれには専用の機械とか、必要になるのよね?」

「そ、その辺は貴女をナノマシンで強化改造する事に成るけど、そうすれば確実に勝てる(あのカルテを参考にすれば、この子に合ったナノマシンを生成できる、それを使えば)」

「……改造」


 ナノマシンで改造する、その言葉に少し動揺してしまう。

 つまり彼女の協力を得る代わりに、サイボーグ化するという事。

 だがそれは、一度自分から願った事。

 それも作られた自分の身に何が起ころうが、恐らくどうでもいい。


「嫌になっちゃった?」

「いいえ、こんな作られた体がどうなろうと、むしろ望む所よ」

「……ありがと」

「……」


 喜ばしいという感情の片鱗を見せながらも、アリサの目はどこか上の空だった。

 要求をのまれる事は自身の死を意味しているのだから、フォスキアは思わず言葉を詰まらせてしまう。


「でも、やっぱり、貴女は」

「本音は、貴女の思う通りだよ、まだあの子達のそばに居たい、ずっと、あのか弱いヒナ達と一緒に(本当は、この子の意識を乗っ取るつもりだったけど)」

「……」

「でもいいの、私は、お姉ちゃんだから(でもダメ、あの子には、私なんかよりも、もっと大事な人が)」

「お姉ちゃんって……」

「……うへ」


 少しひっかかる点はあったが、フォスキアは俯いた。

 徐々に空気が重くなるのを感じたアリサは、自分の両ホホを軽く叩く。

 自分に喝を入れなおし、アリサは無理にでも立ち上がる。


「さて!早い所リンクしよっか!こうしていても、良い事なんて何も無いし」

「そう、よね」


 無理矢理な笑みを浮かべてやせ我慢をするアリサを見て、フォスキアもそれに合わせようとする。

 立ち上がって彼女の元へ行くと、アリサはその笑みを見せつける。


「あ、そうそう、リンク中は私の意識をメインに戦うから、貴女は傍観する形になっちゃうけど、良い?」

「ええ……ん?」


 リンク後は、アリサの意識を表面へと出して戦う。

 慣れない体で戦うより、よく知っている人物に任せた方が良いのはわかる。

 それはそれとして、フォスキアの脳裏に昨日の違和感が過ぎった。


「それは良いけど、そう言えば昨日、時々意識が無くなってたんだけど、あれも貴女のせい?」

「まぁね、三分の一が戻ったおかげで、貴女の意識を間借りして表にでてこれたの」

「……それで、変な事してないわよね?」

「……」


 フォスキアの疑問をぶつけられたアリサは、冷や汗を大量に流しながらソッポを向いた。


 ――――――


 昨日(さくじつ)、午前六時。

 母艦内のフォスキアの自室にて。

 まだフォスキアの意識が眠る中、アリサは彼女の意識を借りて覚醒していた。


「ふぉ~!夢にまで見たエルフ!キタコレ!」


 リージアと同様に推しているエルフを前に、アリサは鏡の前で心を躍らせていた。

 鏡に映る寝間着姿のフォスキアの身体を揺らし、様々な角度から彼女の身体を舐めるように観察する。

 木の葉のように長い耳をピクピクと揺らし、長い髪をかき分けて色っぽい表情を浮かべ、グラビアのようなポーズをとる。


「あはは、凄い、可愛いだけじゃなくて、この魅惑のボディ、本当に肘同士が付かないし、つま先も見えない、戦い用にスマートに設計した義体とは違う、本物のグラマー!こんな子に好かれる何て、リーちゃんも隅に置けないね~、羨ましいけしからん」


 自分の妹が良い恋人を見つけた事を誇らしく思いながらも、姉として変な気分を味わってしまう。

 そんな中で、アリサはとある事に気付く。


「(でも、何か、肩コリだけじゃなくて、腰とか肩甲骨もこってる気がする、そっか、前傾姿勢になりすぎないように、背中全体に力入れてるんだ、これが幸せの代償)」


 グラマー体型故の苦悩に気付くが、それはそれでアリサの行動はエスカレート。

 見つけた手鏡を持ち出し、ベッドの方へと座り込む。


「それは、おいといて……あ、あはは、こ、これ位、良いよね?エルフのアンダーヘブン、刮目しても」


 妙に心臓を高鳴らせるアリサは、恐る恐るお目当ての場所を鏡に映す。

 呼吸を荒くし、薄目から徐々に目を開き、遂にその場所を目にする。


「……」


 お目当ての物を見たアリサは道具類をしまい、無言でベッドから足を垂らすと、おもむろにベッドの近くに有る台の上のティッシュへ手を伸ばす。

 数枚程チリ紙を取ると、それを勢いよく鼻へ押し当てる。


「(メッチャ綺麗!しかもツルツル!生き返ったかいあるわ!)


 滝のように流れ出る鼻血を抑え込み、高鳴る気持ちを抑えだす。

 初めて見た訳でもないが、やはりエルフというだけあって別格の印象を得た。

 どんどん流れ出る血を止めると、アリサはゆっくり立ち上がる。


「ふぅ、さて、後はっと……よし、リーちゃんに朝ご飯作って、それで一緒に食べよっと!下ごしらえしたら、早速あの子起こしに行かないと、どうせ寝坊するだろうし!」


 やりたい事と着替えを終えたアリサは、嬉々として扉を開けて厨房へと移動して行った。


 ――――――


 時は戻り、現在。

 フォスキアに詰め寄られるアリサは、返す言葉に詰まっていた。


「ねぇ、ちょっと?」

「ウウン、ナニモシテナイヨ」

「完全に何かしたわよね!人の身体に何したのよ!?アンタ!!」

「さて、そろそろ時間も無いし、早速始めるね」

「無理矢理話逸らすな!」

「貴女の想い人を助けるためなんだから、今は協力して(あと、私の妹達虐めた奴ぶちのめす為でも有るけど)」

「……わ、分かった、わよ」


 今はとにかく、リージアを助ける事も重要。

 仕方なく怒りを呑み込んだフォスキアを見たアリサは、早速作業を開始する。

 ウロボロスのナノマシンを改造し、フォスキアの身体の再構築を開始した。

 だがその前に、一つお願いが有った。


「……ねぇ、一つ良い?最後になるかもしれないから」

「……何?」

「私の事、お姉ちゃんって、呼んで、貴女はもう私の妹なんだから」

「……分かったわよ、お、おね……お姉、ちゃん」


 最後の頼みのような物を聞きいれたフォスキアは、少し言葉を詰まらせながらもアリサを姉と呼んだ。

 それに満足したアリサは、見た事無い位暖かい笑みを浮かべる。


「ありがとう(今度は守ってみせる、私の大事な妹達の、大事な全部を)」


 フォスキアに礼を述べたアリサは戦場へと赴く。

 十三人目の妹と共に。


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